エクステリア・リフォーム事業を手広く行っている会社に調査に行った時の話です。
そこの社長、調査初日の朝一番から、ろれつが回っていないのです。かなり酒臭く、今にも掴み掛らんとするくらいの勢いで、「何しに来たのら~」みたいな感じでした。私も、国税に入社したての頃なら多少ひるんだかもしれませんが、もう何年も調査をしていると、こういう対応は何か問題がある証拠ですので、かえってうれしくなってしまうのです。
その後も、税金泥棒だの、政治家の手先だの、親の顔が見てみたいだの、思いつく限りの、罵詈雑言を並べられました。
中でも、自分の親のことを、まるで犯罪者を作り上げた犯罪集団のボスのような言い方をされ、さすがに声を荒げて話をさえぎったほどです。
それでも2時間ほど暴れ続け、やっと落ち着いたのですが、もう時すでに遅し、私すっかりやる気になってしまいました。
その日は、自宅と事務所の現況調査をして金庫の現金、通帳、印鑑など一通り押さえて、早々に会社を後にしたのですが、税理士は、現況調査をする私に対して、「伊藤さん怒る気持ちもわかりますが、何を疑ってるのですか。こんな赤字法人で何か悪いことしている訳ないじゃないですか。」
その時には、何かやっているという確信がありましたから、「先生、何もやってなかったら現況調査などしませんので、しばらく、黙って協力してください。」と一蹴してしまいました。
帰り道、会社の近くで新しい車庫が目に入りましたので、飛び込みで反面調査、車庫の隣で畑仕事をしているお父さんに聞き込み、「素敵な車庫ですねえ、どこでやってもらったのですか」
答は、去年の夏に調査先法人で作ってもらったとのこと、銀行借入金は振り込み、振込先は有限会社●●、残りは現金で支払い。領収書も確認しました。
先日とは打って変わって、社長は借りてきた猫のようで、何をしゃべるにも、声が震えています。本来、すごく気の小さないい人なのでしょう。
そこからの対応は完全に奥様主導、普段のご夫婦の関係が垣間見えたような気がします。奥様が席を離れたタイミングで、社長に小さな声で話しかけました。
「○○さんのお宅の車庫素敵ですね」「領収書の控え出してください」
完全に観念してくださったようです。4冊の領収書綴り、仏壇の引き出しから出してくれました。領収書綴り四冊の預かり証を社長に渡し、またまた早々に会社を後にしました。
そのまま銀行調査三件、署に残っている人員を駆り出して反面調査、領収書控に無い先も出てきました。売上代金の振込口座は、有限会社時代の旧社名口座、そこから、奥様名義の口座に移動されていました。現金で受け取った分は、領収書控と一致しました。
二人それぞれから質問応答書を取らなければならないなあと思い、夕方再度会社に伺いました。
会社につくと社長が出迎えてくれたのですが、奥から奥様の電話の声が聞こえてきます。
銀行から連絡が入ったのでしょうか、税理士と電話で話しているようで「だから先生、全部ばれちゃったみたいなのよどうすればいいの……あきらめるって言ったって、何とかならないの……通帳、どこの、全部、えー私の通帳もー……わかった。」しばらく黙って聞いていました。
電話を終えた奥様が、振り向いて私の顔を見て、しばらく沈黙。
その後、今度は、台所の引き出しの奥から、通帳とキャッシュカードが出てきました。奥様は、旅行の費用や、社交ダンスの衣装、息子の私立大学の学費等に使っていました。その内容を質問応答書にしてその日は帰りました。
社長の方は……現金受領分、使い道は、近所のキャバクラ。そこは武士の情け、奥様には内緒で、次の日、社長に出てきてもらいました。
結局、単発の売上、振り込み分は奥様が、現金分は社長が抜いていました。
総売り上げの三分の一、バレ無い方がおかしいですよね。
税務総合戦略室便り 第81号(2016年08月01日発行分)に掲載
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