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好きな特例、嫌いな特例

第77号(2016年04月01日発行分)
元国税調査官・税理士
黒崎 俊夫

譲渡所得では租税特別措置法を中心に多くの特例が設けられている。その一つ一つについて一冊の解説本として出版されることも珍しくなく、条文を読んだだけでは全然不十分で、それを補足する通達、質疑応答事例等が山のようにある。小さな要件を見逃しただけで税額にして数百万単位で違ってくることもざらである。
 この人の場合、この要件をクリアーすれば特別控除が使える。このケースはあの本のあそこに書いてあった、などと特に確定申告の時期に瞬時に適用可能な複数の特例の中から最適のものを見極める能力は一朝一夕には身につかないが、中には嫌いな特例、好きな特例がある。

①租税特別措置法36の2(特定居住用財産の買換え)

簡単に言って、10年超所有の居住土地建物を譲渡し、別物件を買い替えた場合、譲渡金額よりも高い価額で買換資産を買えば譲渡がなかったとする規定である。より高いものを買えば無税なので、税金を払いたくない一心で高い買物をする人も多く、それが土地高騰の一因になったとして、一時期廃止されたが、いつのまにか復活した経緯がある。税金を払う位だったら高いものを買うという精神が垣間見えることが嫌いな理由の一つでもある。また、これはあくまで課税繰延の制度だから、買換え資産を転売する時の取得費は、元々の資産の取得費が引き継がれ、転売時に税負担が生じるのが常なのだが、このデメリットを理解せずに買換え特例に飛びつく人が多く、困ったものである。

②措置法37条(特定の事業用資産の買換え)

事業用資産を譲渡し、特定の要件に合致する事業用の資産を取得すれば、譲渡利益の80%が圧縮されるとする規定である。
 既成市街地内から既成市街地外への買換えなど、社会政策的な一面もありいい制度なのだが、居住用買換えと同様、課税の繰延制度なので、取得した資産の取得原価は旧資産の価額を引継ぐため、実額で減価償却費を計算できないことを比較検討すべきである。また、前記居住用と違い、譲渡利益の上限80%しか圧縮されないのだが、残りの20%分について課税するという当局の一種のせこさが嫌いな理由である。

③措置法37の9の5

「平成21年及び22年に土地等の先行取得をした場合の譲渡所得の課税の特例」というものだが知っている人はほとんどいないだろう。
 当該期間後10年以内に、その個人が有する別の事業用土地を譲渡した場合、その利益金額の80%を控除するという極めて理解しにくい規定である。土地取引の活性化を図る目的の一環だったのだが、効果はさっぱり。土地価額の下落傾向に歯止めはかからなかった。土地の値上がりはもう期待できないという国民の判断の表れでもある。
 また「平成21・22年に取得した土地を5年以上保有後に譲渡した場合、特別控除1千万円できる」という規定(措35の2)も同時に設けられた。右と同様の効果を狙ったものだが、5年以上たった今、適用者はどれ位いるのだろう。
 上記の制度は平成20年麻生内閣の時に決定されたものだが、このようなものを「その場の思いつきの政策」という。法律だけ決めて細部の取り扱いが後回しになると適用する納税者が不安になるだけでなく、現場が混乱する。前者は事前に一定の届出書を提出することになっており、私の勤務していた税務署でも数件の提出があった。紛失防止のため専用のファイルを作成し管理しておいたが、はたして無事だろうか。

④措置法37の5(立体買換えの規定)

所有する土地を譲渡し、見返りとしてそれと等価なその土地上に建物された中高層の建物の数室と交換した場合課税されないという規定である。これが好きなのは遊休地でも適用が可能なことと、既成市街地内という制限はあるが、少ない土地を立体的に有効利用しようとする意図がわかりやすいからである。

以上①~③が嫌いな特例で、④が好きな特例である。譲渡所得のみならず、相続、贈与、評価においても種々の取り扱いがあり、やはり好みもある。いずれの機会にそれらも述べてみたい。

税務総合戦略室便り 第77号(2016年04月01日発行分)に掲載

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