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元国税調査官のひとりごと 第18回 
押入れ貯金

category: 税務調査
第77号(2016年04月01日発行分)

伊藤 徹也

医療法人に税務調査に行った時のお話です。病院の事務所か応接室を調査場所指定されると思ったのですが、理事長からは、お客さんの目もあるということで、自宅の客間で調査することになりました。

1 きっかけ

調査を始めると、経理をしている理事長の奥様、押入れの前から離れないので、ずっと気になっていました。
 診療報酬は、「資料せん」という形で、税務署に情報が届いていますので、そこから、自己負担分、いわゆる窓口収入を逆算していく作業をしていました。
 電話診療等保険点数が違う診療や、計算誤りによる再請求、請求取消分など様々な条件が重なっているので、単純な計算ではないのですが、どう考えてもかなりの窓口収入が合わないのです。
 保険点数を計算請求している事務員と顔を突き合わせて計算していきました。
 「おかしいですよねえ、この計算で窓口収入は合うはずなのに合わないですねえ。」と投げかけると、事務員の方も、 「そうですねえ、少しの違いなら分かるけど、これだけ違うと、絶対窓口収入が間違っていますよ」と大きな声で、言ってしまいました。
 その時の奥様の顔と言えば、苦虫を噛み潰したような形相です。もう、当初感じていたものは、疑いから確証に代わり、私の興味は「たまり」をどうやって見つけるかに代わっていきました。

2 トイレを我慢して

理事長の奥様、トイレに行きたいのを我慢していたようですが、とうとう席を立ちました。理事長と税理士に、了承を得て、押入れのふすまを開けてもらうことにしました。
 税理士は、私が、窓口収入除外を疑っていることは察していましたが、法人の決算は赤字決算で、繰越欠損金もある状況なので、収入除外などするわけがないと、タカをくくっていたようで、私を諭すように、「経費の証拠書類も重いのにわざわざ用意してもらっているのだから、そちらもチェックされたらどうですか」(押し入れの中身等に興味を持たないで)と言っています。

3 押入れ預金

それでも、事務員を事務所に戻し、理事長にふすまを開けてもらうことを了承してもらったのですが、理事長がふすまを開けようとした瞬間、「だめー」と悲鳴にも似た声が入口の方から聞こえました。声の主は、もちろん奥様でした。
 だが、時すでに遅し、理事長が結構な勢いでふすまを開けてしまいました。
 人がへたり込むところを、初めて見たような気がします。
 押入れの中には、幅50センチ高さ1メートルくらいの丈夫そうな麻袋が2つ置いてありました。中には、お札や硬貨が、結構な量入っていました。

4 重くって

ここで、疑問がいくつか湧いてきました。
 なぜにわざわざ、病院事務所とか、応接室でなく、押入れ預金の置いてある客間を調査場所に指定したのか。税理士はともかく、なぜ理事長は何の抵抗もなくふすまを開けたのか。そして何より、事前に連絡しておいたのに、なぜ現金を押し入れに置いたままにしてあったのか。
 答えは、こんなことでした。
 先ず、病院でなく自宅を調査場所に選んだのは、他の従業員に調査を受けていることを隠したかったためで、奥様が反対していたのにわざわざ客間にしたのは、椅子よりも座敷の方が疲れるから、早く調査が終わると思ったからだそうです。
 理事長が何の抵抗もなくふすまを開けたのは、まさか奥様が窓口現金収入をためていたなど思いもよらなかったからだそうです。
 そして現金を押し入れに残したままにしていた理由は、奥様曰く「私だって動かしたかったけど、重くて動かなかったんだもの」と。

5 どうやって数えるの

さて、見つけたはいいけど、このお金どうやって数えようか。思案の末、メインバンクの若手男性行員、三名出動願いました。そのまま支店まで運んで、機械計算、8千800万円、立ち会った理事長も愕然としていました。そのあと、税理士先生に言われたので証拠書類もきっちり見たのですが、領収書の数字の書き換えなんかも見つかってしまいました。
 これは、税理士先生の発言が、藪蛇になる結果となりました。

税務総合戦略室便り 第77号(2016年04月01日発行分)に掲載

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