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税務調査から学ぶ 
元国税調査官から見た税務調査の現状

第29号(2011年07月01日発行分)

執筆者1

「税務調査」と聞いて明るいイメージを持たれる方はいないでしょう。できれば避けて通りたいものですが、企業を経営している以上、なかなかそうもいきません。私は23年間国税局や税務署の様々な部署で実際に税務調査を行ってまいりました。

そこで今回から、元国税調査官として、税務署はどのような考え方で調査先を選んでいるのか、実際の調査はどのように行われるのか等、私の体験したエピソード等も盛り込みながら、税務調査の実態をお伝えしていきたいと思います。

税務行政を取り巻く環境の変化について

国税庁の報道発表資料である「国税庁レポート2009年度版」によると平成21年度の国税庁定員は全国で約5万6千人です。昭和50年度は約五万二千人でしたので35年間の間に四千人の定員増加(増加率107%)があったことになります。
 その間、所得税の確定申告数は732万件から2369万件と323.4%の増加、法人数は148万件から300万件と202.6%増加しました。さらに平成元年には消費税の導入があり、また近年の経済活動におけるIT化・国際化によって租税回避行為も複雑、巧妙化していますので、税務行政を取り巻く環境は、質・量ともに厳しさを増している状況にあります。
 このような状況において、税務署の現場でも余裕がなくなっているため、いかに効率よく的確な調査事務を行っていくかという課題をつきつけられていると思います。

調査件数について

平成20事務年度の法人税の申告件数は約280万件、それに対し調査が行われた件数は約14万件でした。
 調査が実施された割合としては申告があった会社の5%程度ということになります。
単純に計算すると20年に1回しか調査は行われないことになりますが、そんなことはない、3年~5年のサイクルで調査に当たってきたよというお客様も多いのではないでしょうか。

国税庁の調査に対する考え方

前述した「国税庁レポート」では調査に対する考え方を次のように発表しています。

  • 適正かつ公平な課税を実現するため、限られた人員等をバランスよく配分し、大口・悪質な納税者に対しては組織力を最大限に活かした的確な調査を行う一方で、簡単な誤りの是正などは簡易な接触を組み合わせて行うなど、メリハリのある事務運営を心掛ける。
  • 不正に税金の負担を逃れようとする納税者に対しては、様々な角度から厳正な調査を実施する。
  • KSKシステム(国税総合管理システムの略称)を活用して、データベースに蓄積された申告内容や各種資料情報などを基に、業種・業態・事業規模といった観点から分析して、調査対象を選定する。

このように、大口・悪質な納税者に対して重点的に調査を行うという考え方が末端の税務署の調査官にまで浸透していれば、よく耳にする「うちみたいな会社より、もっと大きくて悪いことをしている会社を調べればいいのに」「重箱の隅をつつくような指摘をして」という声は少ないはずだと思います。
 大口・悪質な不正をターゲットとした国税局の調査は別として、税務署の調査官には年間何件以上調査を行わなければならないというノルマがあります。平均すると1週間に1件程度は調査を行わなければなりません。調査の準備、反面調査、調書の作成も含んでのスケジュールですので、会社に臨場して実際に帳簿を調べるのは2~3日程度で、なかなか深度ある調査は行うことができないというのが現実のようです。
 私自身も入所後、何件かのお客様の税務調査に立ち合せていただきましたが、今の調査官はこんなに些細な事項を指摘するのかと、国税OBとして正直残念な印象を受けました。
 次回以降は「査察調査」と私が体験した実例などをご紹介しながら、税務調査の生の姿をお伝えしていきたいと考えています。

税務総合戦略室便り 第29号(2011年07月01日発行分)に掲載

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