一九九一年(平成三年)七月十日辞令、「法人課税部門へ配置換え」。思いもよらない特別調査部門、いわゆる『特調』への移動です。さらに、特団担当といって、反税団体などに加入している法人の調査も担当することになりました。
この人事異動はターニングポイントとなったのです。何の転換点になったかというと、仕事への考え方、取り組み方、そして大層な言い方かも知れませんが人間関係の構築。この部門で初めて、これまでやってきた調査は調査ではないということを知りました。カルチャーショックのようなものです。 ここから再出発。ゼロからもう一度調査を覚えました。そして、教えてもらいました。
毎週月曜日はアポなし飛び込み調査デー。スーパーの特売デーとは違いますので、税金が安くはなりません。逆に、税金が割増しの日になってしまうかもしれませんね。
毎週一件のペースですので、断られたらどうしようなどとは思っていられません。この二年間で仕事脳が完全に入れ替わったと思います。マイナス思考はなくなりプラス思考だけになりました。
特調の場合、自分たちだけで行う事案と他からの支援による事案があります。後者のひとつが資料調査課指導事案です。納税者にも職員にも厳しいですね。任意調査の限界ギリギリまで調査します。質問てん末書作成の日々。何度も取り直しました。銀行員にいたっては、調査法人の調査時に来てしまった日には災難です。銀行員のカバンの確認も無論行います。反面調査先、銀行調査先での現況調査は当たり前のようなものです。
当時の統括官のことです。ある事案で、そこの社長が「おたくの統括官は笑って人を切るね。こういう人が一番怖いね」と評した言葉です。竹中直人は笑いながら怒るというのが持ちギャグですが、笑って人を切るはギャグにならないですよね。いつしか自分もそうなろうと思うようになりました。
以降、勤務先で様々な職員と出会いましたが、こう呼べる人が結構いると思いました。調査でにこやかに接している税務職員のなかには笑って人を切ることができる人がいるということですので、外見に惑わされていけませんよ。
多くの事案を経験しました。税務申告用と真実の帳簿の二重帳簿。売上除外が資金源により作成された仮名借名預金。帳簿書類を持って逃げた人を追いかけたこともありました。一人での調査の限界、組織対応による調査の広がり。現場での対応の早さ。何事にも共通することだと思います。一人でできる事には限りがあります。まわりの人からの助けがあって成り立っているということを強く感じることができた二年間でした。
やはり無予告。しかし、当日はなかなか着手できません。後日、臨場すると、見たことない人が数人。「何で調査に来た? 目的を言え。我々はここの調査に立会う」と詰め寄ってきます。はっ! 何ですか?関係ないじゃないか。感情を抑えて、淡々とやり取り。相手はやや熱くなります。でも、熱くなるのは調査法人の社長ではなく外野。その日はこの状態では調査できないということで帰りました。次回、臨場すると同じこと。この繰り返しです。特調事案よりパワーがいります。そうはいっても永遠に続くわけではなく、いつかは普通に帳簿調査を行うことができます。相手も、引き際を心得ているのでしょうかね。
感情的に話をすると感情的に返ってきます。相手が感情的であっても、冷静に。感情的になればなるほど冷静に対応します。
激昂したり、感情的になったりするのは、ある意味、威嚇しているのかもしれません。そうすれば、調査をやめると思っていたりするのでしょうか。大きな間違いです。逆に、調査に拍車がかかると思います。ホットハート、クールヘッドが一番。感情的よりも勘定的に終わるほうが賢明なのかもしれないですね。
税務総合戦略室便り 第39号(2012年07月01日発行分)に掲載
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