2014年3月18日付の日経新聞一面に『預金口座にマイナンバー』という見出しの記事が掲載されました。記事によると、『政府は銀行の預金口座に預金者の税と社会保障の共通番号(マイナンバー)の登録を義務付ける方向で、銀行界との調整を始めた』とのことです。
2013年5月に社会保障・税番号制度(いわゆるマイナンバー制度)が成立し、2015年秋頃に個人番号・法人番号の通知、2016年1月から順次利用開始予定となっています。
マイナンバー制度は、各個人の所得水準や年金・医療などの受給実態を正確に把握し、効率的な社会保障給付を実現することを目的としています。また、制度導入によって行政事務の簡素化・効率化や、生活保護の不正受給・脱税の防止効果が期待されています。
税務の分野については、確定申告書、法定調書等の税務関係書類に番号が記載され、法定調書の名寄せや申告書との突合を効率的かつ正確に行う目的に活用することになっていました。
ただし、現在の法定調書だけでは取引情報の把握に限界があるとも言われており、将来的に法定調書の範囲の拡充や、預金口座等への番号の付番が噂されていたところです。
今回の報道から、預金口座にマイナンバーの登録が義務付けられ、近い将来、いよいよ税務当局にすべての預金が把握される時代が到来するような気がしています。
皆さんは「クロヨン」「トーゴーサンピン」という言葉をご存知でしょうか? 本来の課税対象となるべき所得のうち、税務署がどの程度の割合を把握しているのかを示す数値(捕捉率)について表した用語です。
所得のすべてが捕捉され、かつ、源泉徴収制度によってあらかじめ所得税を天引きされた額が支給されるサラリーマンの不公平感から生まれた言葉だと思いますが、このような不公平を是正するためには納税者(事業者)の納税意識の高揚と誠実な申告、的確な調査・指導及び脱税に対する罰則規定の強化が必要となります。
私たち『税務総合戦略室』も、租税教育に対する貢献になればという想いから、昨年より千葉県の秀明大学において、年間30回、客員教授として、租税の意義・役割や税法の知識に関する講義を行っています。
また、脱税をしやすい直接税(所得税や法人税)から脱税をしづらい間接税(消費税)中心の租税体系とすることが不公平税制を是正する手段の一つであるとも言われています。
国民総背番号制や納税者番号制度など、国民の収入や資産の状況を把握するシステムの導入が過去から検討されてきました。一方で個人情報保護の観点からそのようなシステムに対する反対意見も根強く、不公平税制の是正とプライバシー確保の着地点をどのように見いだすのかは最終的に日本国民全体で議論が必要な問題だと思います。
マイナンバーの付番に伴う税務当局による資産・所得の把握を嫌い、他の金融資産や現物資産への転換、さらには海外への資産逃避(キャピタルフライト)が加速する可能性もあります。
しかし、これらの動きにも税務当局は着々と手を打っています。例えば、
このように様々な税制改正を行って資産把握の動きを加速させていますが、それでもなお、海外資産の情報を税務当局が完全に把握することはできません。
そこで、各国は互いに租税条約を結んで情報共有を行ってきました。2014年3月現在の情報交換ネットワークは60条約(80カ国・地域に適用)に及んでいます。しかし、情報交換に積極的な国と、そうでない国の温度差はかなりあるようで、例えば、現在は情報の秘匿性が高いと噂されているシンガポールに世界の富裕層の富が移転していると言われます。昔も今も、「情報を守る国に資産は集まる」ということでしょうか。
このような状況の中、2014年2月28日付の日経新聞一面には『海外口座情報 得やすく』という見出しで、『日米欧など主要20カ国・地域(G20)は資産隠しや税逃れを防ぐために、課税対象者が海外に持つ銀行口座の情報を得やすくする新たな仕組みを作る』との記事が掲載されています。把握が難しい海外の口座情報を、各国の税務当局がオンライン上で提供しあう情報共有のネットワークシステムを2015年末までに導入するというものです。この記事は、税務の専門家にとってもかなりインパクトのあるものでした。
外国にある金融機関の口座情報は把握することが難しく、税逃れが各国で問題になっていましたが、今後は各国の金融機関が定期的に情報を入力し、国税当局間のネットワークで公開することにより、税務当局は課税対象者の海外の口座情報を瞬時に得られるようになります。
預金口座などにマイナンバーの登録が義務付けられ、さらに海外口座の情報も当局に筒抜けになるような時代が、すぐそこまで来ています。
すべての財産が把握されるような時代に、どのような税務対策を行っていくべきなのでしょうか? 海外の資産は税務当局に把握されにくいだろうという考えのもと、いわゆる「資産を隠す」方向の対策は無駄になるでしょう。これからは、法の範囲内で知恵を使って、より戦略的に税務対策を行っていかなければなりません。
国の借金残高が1千兆円超という膨大な公的債務を抱える日本の財政破綻リスクへの不安から、円の価値が大幅に下がった場合でもリスクヘッジできるように、海外に資産を逃がして暴落に備えている方が大勢いらっしゃいます。マイナンバー制度の導入は、膨れ上がった国家の債務解消のため、預金封鎖を行う準備だという意見もあるのです。自分の資産を守るために国外財産を保有することは、よい選択肢だと言えます。
また、将来の値上がりを見込んで経済成長が見込まれる新興国の不動産に投資している方もいます。海外での資産運用には高い利回りが期待できるというメリットもあるのです。
ところが、国外財産調書制度の創設をきっかけに、調書の提出を回避したいという理由から、効果的な海外投資や資産運用をやめてしまう方がいらっしゃいます。せっかく海外を活用したグローバルな分散投資を行ってきた方が、税務当局による資産把握による不安から、投資していた国外財産を日本に戻してしまうのは非常にもったいないことです。
ただし、海外での資産運用には多くのメリットがあると同時にクリアしなければならない複雑な税務の問題も発生します。運用益に対する税務対策を考える必要がありますし、共有名義による投資には贈与税認定に気を付けなければならないケースも生じます。
私達は、単なる税逃れを目的とした海外資産運用ではなく、適切な税務対策を行いながら、財産保全を目的としたポートフォリオ構築を行うことをお勧めしたいと思います。
さらに、最大の税コスト削減を考える上では非居住者を目指すということも選択肢の一つとなります。その場合、専門家により、税務当局に居住者だと認定されないためのきちんとした税務対策を講じることが重要だと言えます。
所得税や相続税を軽減したいのであれば、その方法は資産を隠すのではなく、別途、戦略的な対策を行っていく時代になってきたのではないでしょうか。
税務総合戦略室便り 第55号(2014年05月01日発行分)に掲載
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