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成功者になるための法則その12 
生と死と相続税

第62号(2015年01月01日発行分)
エヌエムシイ税理士法人 会長・税理士
野本 明伯

2015年1月1日、相続税の改正が施行されました。
消費税の増税は見送られましたが、相続税はこれでかなりの増税となります。
 この相続税改正で、東京都内では納税対象者が1・5倍に増えると言われています。都内にちょっとした土地を持っている人はすべて、相続税がかかるようになったのです。
 みなさん、来るべき日に備えて節税対策に躍起になるのも当然かもしれません。
しかし私は、あえて少し視点を変えて、ひとつの考え方を提案してみたいと思います。
それは、自分の人生、生と死への思いをベースとした、税金の考え方です。みなさんもご一緒にお考えいただけたら幸いです


基礎控除額が4割も引下げ

相続税を自分のなかでどう捉えるか。そのお話の前に、今回の改正で相続税がどのように変わったのか、概略を押さえておきましょう。
 ポイントは2つあります。
 1つ目は「基礎控除額が引き下げられる」という点です。
 従来までの相続税の基礎控除額は「5000万円+法定相続人の数×1000万円」でした。亡くなった方に配偶者と子ども2人がいるとすると、法定相続人は3人ですから、「5000万円+(1000万円×3)」で基礎控除額は8000万円だったわけです。相続した資産の総額から8000万円を差し引いた額 に対して相続税がかかった、ということです。相続額が8000万円に 満たなければ当然、相続税の申告義務はありません。
 つまり、これまでは一部の資産家 を除いたほとんどの人にとって、「相続税は関係ない話」だったのです。
 ところが、今回の改正で基礎控除 額が4割も引き下げられました。
 改正後の基礎控除額は「3000万円+法定相続人の数×600万円」 ですから、先ほどの例では4800万円です。これでは、都内にちょっと土地を持っているだけでも相続税の納税対象者となってしまいます。
相続税は一部の資産家だけの問題ではなくなったのです



最高税率の引き上げ

大きな改正ポイントの2つ目は、税額の計算過程で各法定相続人の取得金額2億円超のところで税率がア ップしたという点です。
 相続税の税率は、所得税と同じように累進課税方式です。累進課税方式というのは、課税対象となる額が一定の額を超えるごとにそれぞれ税率を変えて計算され、合わせて税額を出す方法です。

昨年までの相続税の税率は、以下の6段階でした。
▼1000万円まで …… 10%
▼1000~3000万円…… 15%
▼3000~5000万円…… 20%
▼5000万円~1億円 …… 30%
▼1~3億円…… 40%
▼3億円超…… 50%

 新しい相続税では新たに次の2段階が加えられ、8段階となりました。
●2~3億円…… 55%
●6億円超 …… 45%

 各法定相続人の取得金額が2億円までの税率はこれまでと変わりませんが、それ以上になると、2~3億円が45%、3~6億円か50%、6億円超が55%と段階が細かくなり、また税率も上げられたわけです。



続税の節税対策ビジネスが活況

今回の相続税改正によって、国の税収は年間で3000億円も増えると言われています。
 テレビ・雑誌などマスコミは、これまで富裕層だけの問題と考えられていた相続税も、これからは他人事ではなくなってきたと、盛んにあおりたてます。いろいろな専門家が出てきて、相続税の仕組みや節税ポイントについて解説しています。多くの人が不安に駆り立てられていることでしょう。
 世の中のビジネスも動きます。銀行、証券会社、建築会社、不動産企業、保険会社等々、相続税の節税対策に関連する業務を行っている企業も、セミナーなどで相続税の大増税を声高に叫び、人々を不安に陥れています。
「いま行動を起こさなければ大変なことになりますよ!」
というわけです。
 いまのうちに孫に教育資金を、子どもに住宅資金を贈与しなさい、生命保険に入りなさい、アパートを建てなさい、等々、さまざまなアドバイスが飛び交っているのです。
 ビジネスは人々の不安をあおって利益を刈り取っていくものですから、このような相続税の大改正(増税)は大きなチャンスなのです。
 それに対して、納税者は専門家ではありませんから、不安に思って乗ってしまう人も少なくありません。どうしていいかわからないと迷っている人も多いでしょう。これが現状だと思います。

あわてて行動する必要はない

私も、ことあるごとに相続税の改正ポイントやその対策について聞かれます。そのようなとき、私は次の3点だけ提案しています。

▼あわてて行動しない
 相続税改正は2015年1月1日から施行されていますが、相続税はあくまで死亡してからかかるのですから、あわてる必要はありません。対策が必要かどうかを吟味し、的確な方法を取ることが大切です。

▼まず自分の総資産額を把握する
 今回の相続税改正で、自分が死亡したとき子どもが相続税の納税対象者になるかもしれない、そんな心配があるなら、まずやるべきことは自分の資産がどのくらいあるのかを把握しておくことです。そして、現状ならどのくらいの税額になるのかを概算しておきます。

▼相続税の専門家に相談する
 現状の相続税額がかなりの額になったとしても、やはりあわてる必要はありません。土地の資産評価など、素人では判断できないところがたくさんあるからです。
 そこで、まずは相続税の専門家に相談するのがよいでしょう。ただし相続税を専門に扱う税理士はそうそういませんから、専門家を選ぶ選択眼も必要です。

相続税がない国もある

さて、あらためて相続税とはいったい何なのでしょうか。
 所得税や相続税は、お金をたくさん持っている人が国に納め、国はそれを社会の基盤となる公共施設や弱者救済のための費用にするものです。広がる一方の富の格差を税金でコントロールしているとも言えるでしょう。
 しかしある人は、「相続税は二重課税ではないか」と言います。
 たくさん稼いだ人は、それだけ所得税も取られます。すでに税金として取られたあとの残りで土地や家を購入し、また預金して所有しているわけです。つまり、人の資産というのはすべて一度は所得税をかけられたあとで所有しているものなのだから、さらに相続税を取るのは二重課税ではないか、というわけです。
 一方で、「相続税は所得税(富の再分配)の最後の精算だ」と言う人もいます。所得税で税金を取ったあとの資産だが、まだ不十分だから亡くなったときに精算する、それが相続税だ、というのです。
 世界の国々を見ると、二重課税になるということで相続税を取らない国もたくさんあります。オーストラリアやシンガポールなどには、相続税がありません。
 日本では、稼いだお金は所得税と住民税で最大55%も国に取られます。1億円を稼いでも5000万円しか残りません。そのうえ死亡したあとは相続税でさらに半分取られてしまうのですから、4分の1の2500万円しか残らないのです。
 そうなれば、資産を税金の安い国に脱出させる人が出てくるのも当然です。実際、シンガポールには世界の富裕層が集まってきています。
 いずれにしても税金をどのように考え施行するかは、その国がどういう国を目指すかに深く関わっています。税制から、その国の方針が読み取れるのです。

税金は富裕層イジメなのか?

社会の極端な格差をなくすための税金には、もちろん重要な意味があります。しかし、やりすぎは逆効果という面があることも確かです。
「パレートの法則(20対80の法則)」をご存じでしょうか。イタリアのパレートという経済学者が19世紀の英国で所得と資産の分布を調査したところ、20%の富裕層に英国全体の資産総額の80%が集中していることがわかりました。これは、世の中全体のさまざまな面で成り立つ法則として知られています。
 日本の税収も同様です。法人税を納めている企業は全体の約20%で、80%は赤字企業です。所得税も同様で、全体の8割を2割の富裕層が納めています。
 一般的には、「富裕層に厳しい税金を課して貧乏な人には減税を」という考えが当然として認識されています。しかしそれもエスカレートすれば、富裕層がこの国で稼ぐ意欲を削いでしまうことになりかねません。

税金は人の人生、そのもの

こうして考えていくと、あらためて「税金というのは人生そのものだ」と思わざるをえません。
 この世にオギャーと生まれた瞬間から、ミルク代に税金がかかります。物を買えば消費税、タバコを吸えばタバコ税、酒を飲めば酒税、クルマを持てば自動車税、乗ればガソリン税、家を買えば固定資産税……。
 山あり谷ありの人生を歩むことは、税金を納めることそのものです。そして、最後に死亡したときも税金が取られるわけです。
 人生は税金なのです。
 そう考えると税金は、日本に生まれ日本の空気を吸って生活していくための、きわめて基本的な義務であることに気がつきます。日本に生まれ、そこで人生を送るための費用と考えれば、納税も悔しいものではなくなるのではないでしょうか。  税金は、できるだけ払いたくないもの、むしり取られるものというイメージが強いと思いますが、そのように考えればもう少し納税への気持ちも楽になると思います。
 いつも税金に腹を立てて、脱税まがいの節税までしている人は、人生のなかでいつも大きなストレスを抱えていくことになります。死んだあとの相続税まで続くとなれば、ストレスもろとも一緒にあの世に行くようなものです。私は、そんなことはゴメンです。
 税金を払えるほど成功した、それほど幸せだ、と考えればストレスもなくなります。
 税金は人生そのもの、生き方そのものです。税金に振り回される人生は寂しいと思います。税金をたくさん払うほど、充実した人生を送った、豊かな人生だったと言えるのかもしれません。私はそう思います。

生き方のなかで相続税を考えてみる

税金は少しでも安くしたい、誰でもそう考えます。しかし、財産を残そうとするから相続税が発生するのだ、と考える人はあまりいません。私はそういう考えがあってもいいと思っています。
 相続税を納めたくないのなら、自分の人生のなかですべて使ってしまうのがいちばんなのです。
 それは節税のために生前にあれこれ苦労するのではなく、死ぬ前に自分の人生を真剣に考え、真剣に楽しむ、ということです。
 節税も一つの生き方、資産を残さずすべて自分の人生で使ってしまうのも一つの生き方です。
 子どもに資産を残したいと考えない親はいません。しかしそれは、本当に人生を豊かに生きることにつながるでしょうか。子どもたちの幸せを実現させるでしょうか。その答えは、簡単には出せないと思います。
 税制はその国のあり方、行き方を示しています。それと同時に、税金をどう考えるのかは、その人の人生の考え方に通じているのです。
 自分の人生とは何なのか。相続税増税の折りに、しばし思いを馳せるのも得策ではないかと思います。

税務総合戦略室便り 第62号(2015年01月01日発行分)に掲載

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