一般の人にとって税務署は、決して喜んで行くところではないだろう。できれば係り合いたくない場所。私もそうだ。
4年前まで毎日勤務していたはずのところだが、今となっては正直あまり行きたくない。さらに、家の近所にも某税務署があるのだが、なるべくその建物には近づかないように回り道をするという徹底ぶりでもある。
税務署のみならず、役所から郵便物が到着するだけでも嫌な予感がするが、税関係は特にそうだ。全然悪いことしていないのに……。という気持ちがよくわかる。
よくも30年近くあの場所に毎日通勤していたなあ、と思う今日この頃である。
そんな人々がやむを得ず税務署の門を潜るのが確定申告の時期である。申告者の半数以上が還付のための申告であるから、本来はそう苦痛でもないだろうに、何か言われるのではないか、とビクビク不安を抱えて相談に訪れる人が大多数だった。
来署される方の多くは、普段税務署と縁がない人々であるから、私はそんな人々に対して、極力てきぱきと応接してきたつもりだ。一刻も早く用事を済ませてこの建物から出たいという納税者の心情を慮ってのことである。
理由が明確であればダメなものはダメでいい。かえって変に期待を持たせたり、優柔不断なのはだめ、物事の是非が判断できずに、うろうろ他の職員に尋ねまわるような人間では信用されないし、あるいは必要ないことをねちねち質問するような職員も言語同断。慇懃無礼はもってのほかと思っていた。
納税者が職員に望むことは、丁寧に応接してもらうことよりもむしろ、時間をかけずにスピーディに処理してもらうことにあると思っていたが、このことは間違ってはいないだろう。
私が、複数の方の申告相談を終えてもまだ一人に対してちんたら馬鹿丁寧に応対している先輩を見て「なにをやっているんだこの人は」と入社1年目の時から思っていた。一日に来署する人数は概ね決まっているのだから、各々が早く済ませれば残業せずに早く帰れるのに、と思っていたし、また、そういう人間は得てして大した件数もこなしていないのにかかわらず、残業後、酒を飲みたがる。年少でそれを断れない自分にとって極めて迷惑だった。こういう人は家に帰っても本を読んだり、勉強したりする習慣がないのだな、と半ば軽蔑していた。
国税の職場を離れ4年目の冬を迎えたが、国税内部の言葉である「申告相談事務」をしなくていいことがこんなに楽なものかと感じる。
一般の方に対して、様々な相談に乗ったり、助言したりすることは決して嫌ではなく、むしろ好きだったはずだが、当時、延々と訪れる人の列を見て、この時期特有のかったるさのようなものは拭えなかった。職員は皆、卓上カレンダーに3月15日までの残日数の印をつけていた。
だが、立場が変わった今は違う。お客様の申告書を税務署に提出に行く機会も多いが、行くと職員の方が「ご苦労様です」とか、「お疲れ様でした」とか、ただ提出しに行っただけなのに声をかけてくれる。私も当時は言っていたのかもしれないが、案外うれしいものであり思わず「よろしくお願いします」とか言ってしまうから不思議だ。
かつて好感度ナンバーワンの役所に市役所とか社会保険事務所を差し置いて税務署が一位になったことがある。不安な気持ちで訪れたが、行ってみると案外いい人達だった。という印象を持たれた方が多いのだろう。
今はどうなのか知らないが、それがある意味伝統として継承されているのなら、国税OBとして割とうれしい話である。
税務総合戦略室便り 第64号(2015年03月01日発行分)に掲載
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