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成功者になるための法則その14 
経営計画の策定

第64号(2015年03月01日発行分)
エヌエムシイ税理士法人 会長・税理士
野本 明伯

長い冬も終わりに近づき、ようやく春の足音が聞こえてきました。
 4月から、また新たな事業年度に入る企業も少なくないでしょう。当社も、その一社です。
 新事業年度にあたって、どの企業も短期・中期の経営計画の策定や見直しを行います。
 私も、昨年末より温めてきた構想を熟成させ、検討を加え、いままさに新事業年度の経営計画書の仕上げに入っているところです。
 経営計画の策定は、大企業と中小企業で大きく事情が異なります。中小企業経営者にとっての経営計画の策定は、どうあるべきなのでしょう。
 じつは、大きな勘違いをされている中小企業経営者が多いのです。
 今回は中小企業経営者にとって最も重要な仕事、経営計画の策定について考えてみることにしましょう。

経営計画は「変わるべき」もの

まず、経営計画とは、いったい何なのでしょうか。
 経営計画の前にあるのが、経営方針です。経営方針は、いったんつくったらそう簡単に変えるものではありません。むしろ立てた経営方針を何年も継続させられることが、企業の発展につながるのです。
 経営計画は、経営方針に沿って、どのような事業をいかに進めていくのかという具体的な方策です。したがって臨機応変に見直され、修正されてしかるべきものです。
 なぜ経営計画には変化が必要なのでしょう。それは、世の中がどんどん変化しているからです。事業を取り巻く環境は決して同じではありません。消費者の価値は、くるくると変わっていきます。それに対応しないで何年も同じような殿様商売を決めていれば、どのような優良企業もやがて衰退していきます。
 したがって、長期経営計画はともかく、中期・短期の経営計画は、社長が常に注意深く検討し、迅速に対応した修正を加えていかなければなりません。それは経営そのものであり、経営計画とはそれほど大事なものなのです。
 すでに立てた計画を変更することは、経営者として決して恥ずかしいことではありません。
 私は社員から「社長の言うことはコロコロ変わるから大変です」と、よく冗談まじりに言われます。しかし私は「そうか、それなら今日は何が変わるのか毎朝楽しみに出社したらいいよ」と、冗談を返すのです。
 実際、前夜に出した指示を翌朝いちばんでひっくり返すようなことはしょっちゅうです。私はそうやって40年間やってきました。社員は大変ですが、頑張って対応します。だから会社は成長したのです。
 中小企業は、社長がそれくらい敏感に反応して臨機応変に行動を決めていかないと生き残れません。従業員は、その変化に迅速に対応して結果を出していかなければ、会社は伸びないのです。

経営計画は社長が一人で作成する

さて、中小企業が立てる経営計画では、どのような注意が必要でしょうか。三つのポイントがあるので、順にお話ししていきましょう。
 まず一つ目は「経営計画の策定・修正は経営者が一人で行う」ということです。これが最も重要です。
 中小企業の経営を解説する本などを見ると、ときに「幹部社員を集めて議論を重ね、良い意見を採用して経営計画を立てるべきだ」などと書いてあります。私は、それは大間違だと思うのです。
 なぜなら、いかに有能で信頼できる幹部社員でも経営者ほど真剣には経営のことを考えていないからです。
 中小企業の社長は、オーナー経営者です。事業のための資金の借入は、社長個人の財産が担保となります。個人の信用で借りるしかないのです。もしも事業が失敗したら、負債を負うのは社長個人だけです。
 きわめて優秀で会社のことを真剣に考えている社員でも、会社の事業のためにお金を拠出することはありません。事業が失敗したとき、自分のミスが原因だからと、その損失を社員が埋めるようなことは絶対にありません。そのような立場の人間に、会社経営で最も重要な計画策定に参画させられるでしょうか。責任を取れない人に計画を任せて、どうするのでしょう。
 どのような事情があろうと、中小企業では、事業の失敗はすべて社長の責任なのです。だから事業計画は経営者自身が、自分だけの考えで立てるべきなのです。

大企業のマネをしてはいけない

その点、大企業は違います。  大企業(上場企業)の経営者は、オーナーではありません。雇われて社長を務めています。ですから事業の失敗の責任は、頭を下げて辞職すれば終わりなのです。
 倒産したとしても、金銭的な責任は、社長自身が保有している自社株の損失だけです。ほかの株主と変わりありません。中小企業の社長のように、破産することはありません。
 したがって大企業では、逆に社長が独断で物事を決めてはいけないのです。ボトムアップで現場の意見を汲み上げ、各事業で活躍している幹部社員の意見を聞き、合議制で計画を決定していくことが求められます。
 これを中小企業がマネをすれば、失敗するのが当たり前なのです。
 ところが、従業員の顔色をうかがって経営を行っている中小企業経営者がいかに多いことでしょう。それでは、世の中の変化を敏感に嗅ぎ取って事業形態を臨機応変に変えていく経営はできません。いつの時代にも人々から喜ばれ、愛される企業として、継続させることができないのです。
 中小企業経営はすべて経営者自身の力強い決断にかかっているのだという単純なことを、もう一度思い出さなければいけません。

社長が計画を立て、社員が実行する

私のやり方を紹介しましょう。
 当社の事業年度は4月から新しくなりますから、遅くとも3月までには経営計画を策定しておかなければなりません。例年、2月の段階で決定し、社員に発表します。
 私はその1か月前から、土曜・日曜を利用して経営計画書の作成に入ります。場所は、ホテルのラウンジです。
 ラウンジに紙と電卓とボールペンを持ち込み、コーヒーを飲みながら、自分の頭の中にある計画を数字とともに紙に落とし込んでいきます。
 頭を研ぎ澄ませ、これ以上ない集中力を発揮して、書いては捨て書いては捨てをくり返します。すべて私一人の作業です。
 ただし、この紙に落とし込む作業に入る前の2~3か月間、まだ私が思い描いている事業計画が頭の中だけでうごめいている段階では、私は社員にいろいろなことを訊ねます。意見を聞きます。
 その意見や提案も、そのまま採用することはありません。自分以外の目にどのように映るのかを知り、私自身の計画の参考にするだけです。
これもまた、重要なプロセスです。
 くり返しますが、実際の経営計画書をつくっていく作業は、すべて私一人で行います。社員の顔など思い浮かべず、自分の頭にある事業を実現させるために必要な計画を立てるだけ、そこに没頭するのです。
 これは私の年中行事です。私の仕事の90%が、この経営計画書の策定、修正に占められていると言ってもよいでしょう。
 しっかりした経営計画ができれば、あとは計画に沿って実現させるだけです。それを行うのが、会社のナンバー2以下の幹部、そして従業員です。その段階では社長の出番は多くありません。社長が計画を立て、社員が実行する。その仕組みを全社で理解しておくことが重要なのです。
 また、経営計画書の内容についても付け加えておくと、計画は言葉だけではダメ。必ず数字が伴っていることが絶対条件です。事業計画を実現するために必要なお金、目標とする売上などが曖昧な経営計画は「絵に描いた餅」にすぎません。

計画策定に「情状」は禁物

中小企業の経営計画策定における二つ目のポイントは、「社員の意向や都合はいっさい考えない」ということです。
 具体的な事業計画を考えていると、どうしても組織変更や人事異動などの必要が生じてきます。すると計画策定中の社長の頭に「この計画を推進するとA君は異動になる、彼は面白くないだろうな」とか「B君はどんな反応をするかな」とか「C君は辞めてしまうかもしれない」といったいろいろな思いがよぎります。
 しかし、そこで妥協してはいけません。もし失敗したら社長が全責任を負うのです。自分自身の財産ばかりではなく、従業員やその家族の人生まで背負っているのです。
 従業員の意にそぐわないことになっても、それによって社内に軋轢が生じようとも、そんなことに左右されていては新事業は成功しません。
 とくにまったく新しい事業を始めようというときは、従業員のほとんどが反対します。従来と同じことをやっているほうが楽だからです。だから年季の入った従業員ほど保守的になります。
 そんな意見に社長が迎合していては何もできなくなるのです。
 みんなが気持ちよく仕事ができるようにすることが大事で、それが会社発展の秘訣と思っている経営者は多いのですが、そんなに甘いものではありません。社長は自分のため、そして従業員とその家族のために、会社を率先し、引っ張っていかなければいけません。

社内への「根回し」も重要

もちろん、ただ横暴なだけでは、従業員はついてきません。
 目的はワンマン経営ではありません。あくまでも経営計画の遂行、成功のために、社長が強いリーダーシップを発揮するのです。
 そのために「従業員への根回し」が重要です。これが中小企業の経営計画策定の三つ目のポイントです。
 経営計画を発表する前に幹部社員を呼び、「全社一丸で立ち向かわなければこの計画は実現しない」「お前の力が必要だ」と、謙虚に協力をあおぐのです。
 また日ごろから「中小企業というのは社長が独断で経営計画をつくり、その実現に社員が一丸となって当たるものなのだ」ということを従業員全員に植えつけておくことも大事です。従業員から「社長に付いていけば悪いようにはならない」という信頼を築いておくことも、社長の重要な仕事になるわけです。いつもチャレンジ、そして勝利を!
 当社はいま、今後3年間の中期経営計画において、まったく新しい事業展開を画策しています。この原稿を書いているいま現在、その詳細を知るのは私だけです。
 新しい事業は従来の事業の延長線上にありますが、業態はいまだかつて誰もやらなかったものです。
 私はこの事業を、まったく新しい発想で進めたいと考えています。
 そこで今回のプロジェクトには、当社の経験あるスタッフは参加させません。すべて新しく募集して採用したメンバーで進めていきます。
 さらに、同じ事務所内で仕事をさせるとどうしてもベテランの意見が反映されてしまうので、まったく別の場所に事務所を設ける予定です。徹底して、新しい発想で、新規事業に取り組んでいくつもりです。
 投資総額は10億円くらいになるでしょう。すべて私一人の責任で、新事業を進めるのです。
 企業は絶えず、継続的に成長していく宿命を背負っています。そのために社長は、自分の役割をしっかりと果たしていかなければいけません。
それができなければ、企業はいずれ消えてしまうでしょう。
 中小企業経営とは、ゲームのようなものだと思います。いつも目に見えない敵と闘っていて、それに勝つことだけが求められています。
 ゲームというのは、勝つからこそ面白いのです。経営も、絶対に勝つぞという意欲があるうちは面白いのです。それがなくなったら、もう経営者はやめたほうがいいでしょう。
 私は今年72歳になりますが、まだまだ勝負への意欲がたっぷりあります。だからもうしばらくは、社長を続けようと考えているのです。

税務総合戦略室便り 第64号(2015年03月01日発行分)に掲載

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