退職金を利用した節税
1 退職金の利用
退職金は、各種税目の節税対策を考える上で、効果的な結果をもたらすことが多いため、たびたび利用されることがあります。
法人税の観点からは、退職金は一般的に大きな金額となり、損金を多額に計上することができるため、所得の圧縮に効果的といえます。また、所得を圧縮することは、同時にオーナー自身が保有する法人の株価の引き下げにも連動しますので、相続税・贈与税の節税対策につながるケースもあります。
また所得税の点では、退職金は勤続年数に応じた所得控除額があり、かつ、所得控除後の金額の二分の一が課税所得となるため、役員報酬や配当として会社から支給を受けるよりも、税務上のメリットが大きくなります。
2 注意すべき点
役員退職金は上述したように様々なメリットがありますが、同時に税務調査においてもチェックされやすい項目となりますので、注意点を以下解説します。
- ①過大役員退職金
- 退職金は、法人税の所得計算上、相当と認められる金額を超える場合、当該超過分は、損金算入できないことになっています。相当と認められる金額は、従事期間や退職の事情、同業種比較によって算定することになっていますが、基準が曖昧なため、実務上は「功績倍率法(最終報酬月額×勤続年数×功績倍率)」で計算しているケースが多く、税務調査においても、同方法で計算していれば、慣行的に認められているケースが多いという実情があります。
功績倍率法は、法律上規定されているわけではありませんが、上述したように相当と認められる金額の基準が曖昧なため、当局側も更正処分をしにくい側面があります。
一般的に功績倍率法を採用する際に注意すべき点は、退職直前に役員報酬を増額することや功績倍率を必要以上に大きく設定すること等でしょう。
- ②退職したかどうかの事実認定
- 退職するという事は、法人業務から離れるわけですから、会社の重要事項の決定や業務の遂行には、関与する事が出来ないということが原則です。したがって、形式上は、退職したにもかかわらず、退職後も会社に対して大きな影響力を与えているような場合には、実質は退職していないものとして、退職金が否認される可能性があります。このようなケースでは、退職金は臨時的な給与(賞与)とみなされて、損金算入が否認されます。
- ③分掌変更の場合
- 代表取締役等が一度退職し、退職金の支給を受けた後も会長等の役職として、引き続き在職するケースがあります。このようなケースでも、一定の要件(常勤から非常勤になったこと、分掌変更後の報酬が50%以上減額したこと等)を満たすことができれば、退職金を損金算入できることになっています。
しかし、この場合でも②同様、分掌変更後も会社に多大な影響を及ぼしている場合は、実態は退職していないものとして、否認されるケースがあります。
また、分掌変更に伴う役員退職金を支給する際に、退職金相当額を未払計上した場合は、資金繰りなどの事情によるやむを得ない場合を除き、損金算入することができませんので注意する必要があります。
- ④複数の法人を同時期に退職する場合
- オーナーの中には、複数の会社の役員を兼任しているケースもよくあると思います。通常、退職所得を算定する際の退職所得控除額は、勤務期間を基準に算定することになりますが、4年以内の間に複数の法人から退職金の支給を受ける場合は、勤務期間が重なる部分の調整をしなければならないため、退職所得控除額が制限されるケースがあります。
したがって、複数の法人の役員を退職する際は、同時又は短期間に退職するのではなく、4年の期間を置いた方が、退職所得の控除額が大きくなるため、税務上、有利になる可能性があります。
税務総合戦略室便り 第72号(2015年11月01日発行分)に掲載