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元国税調査官のひとりごと 第15回 
時間との闘い

第74号(2016年01月01日発行分)

伊藤 徹也

久しぶりに過去の体験談を書いてみます。
 お得意様の役員に対して支払っている謝礼、中々表に出せないようです。
 さらに、その方に対する謝礼にかこつけて、色々なお付き合いの費用など含めて計上していたら、なおのことです。
 その経営者の方は、自分の知人の名前を使い、給与手当科目からそのお金を捻出していました。
 働いてもいない方なのに、履歴書みたいなものまで作られています。さらに、顔写真までついているのです。
 しかし、その写真、履歴書に貼るには何か違和感を覚えるものでした。その時は違和感の理由まではわかりませんでした。
 そこで、翌日には、すぐに反面調査と、銀行調査が行われました。
 さらにその翌日、朝一番で、社長が税務署の前で待っていました。何事かと思いつつ、面接ブースにご案内したところ、第一声は「すみませんでした。」と……。何が起こったのか……事の経緯はこうでした。
 お得意様の購買部長は、決して金品を要求されるような方ではありませんが、常に社長のことを気にかけてくださっていたそうです。
 いつも感謝の気持ちをもって接していたのですが、ある日仕事の受注に際してアドバイスいただいたお礼に、現金を渡したことがはじまりでした。その後定期的に現金を手渡すことになりました。
 経理処理するにあたって他人名義の給与手当を使って支払うことにしたのですが、ありもしない名前を使うわけにいかず迷った末に、以前に実施された同窓会を思い出しました。多くの写真データもあります。
 同級生ならば、ある程度の経歴も分かっているし、写真も手に入れることができます。簡単な履歴書を用意して、同級生に支払った給与に取り繕うことを思い立ったのです。
 その給与は、現金で持ち出し、自分名義の預金に入金をしていました。
 そこから、現金出金して渡していたようです。
 銀行調査の際中に朝一番には残高何千万円であった口座が、昼から直近の履歴を見ても、残高はゼロ。
 担当者を呼んで確認したところ、今しがた窓口で解約されたということでした。
 窓口まで下りてみると、なんとまだ社長が出口近くにいて、一瞬目が合ったのです。
 そんな経緯で、翌日の朝いちばんのくだりとなったのですが……。
 もう一日銀行調査が遅かったら、社長にも会わなかったし、この口座にも気付かなかったかもしれません。まさに時間との闘いだったと思います。
 こういった支払いを是正していただくのにはいつも釈然としないものがありました。
 実際お金を受け取っているのは購買部長なのに、課税されるのは、支払った会社になってしまいます。しかも同級生の名前を勝手に使っているのですから、架空の給与とされてしまいます。
 自業自得といえばそれまでですが、会社の売上を確保するための費用……ではあります。
 それにしても、気の毒だったのは、この社長、同級生の名前を使うのはいいけれど、そのうちの一人に、以前おつきあいされていた人がいたようです。
 本人のところに反面調査されてしまい、ここから給与をもらっていましたか?なんて質問されて……。
 元カノからは、後からずいぶん怒られたそうです。
 社長いわく、最初は、かなりの罪悪感もあったのですが、計上し続けるうちに、慣れてきて、当たり前のように計上していたことを後悔されていました。
 よりによって元カノではなく、男友達の名前にすればよかったのにと話したところ、同窓会の写真から、履歴書に貼る写真を見つけてきたのですが、男は全員酔っ払っていて、使えるような写真がほとんどなかったのだそうです。
 それで、なんとなく元カノの写真を眺めていたら、つい、名前を使ってしまったとか。
 本当に男ってしょうがないですよね。
 同窓会の写真、最初に履歴書の写真を見たときの違和感の答えはこれだったのだとわかりました。
 奥様にはことの経緯は聞かせられませんが、調査の終わりに際して、こんな話をしてくださる社長は、何か人を惹きつける魅力のある方でした。

税務総合戦略室便り 第74号(2016年01月01日発行分)に掲載

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