「どうしよう…」
3月初旬、3月決算法人のA社社長は会計事務所から2月末時点の試算表を見せられ、予想納税額の説明を受けました。当然、昨年より売上が上がっていることは把握していたが、まさかこんなに税金を払うことになるとは思っておらず、途方に暮れていました。会計事務所に対策を求めましたが、返ってきた答えは、「今からでは時間がないため、何もできません。」「納税資金の準備を考えましょう。」でした。
納得できない社長は、会計事務所の職員が帰ってすぐ経理部長を呼び出して「何とかならないか。」と指示を出しました。困った経理部長は以前購入し、引き出しの中に眠っていた節税本の存在を思い出しました。様々な節税策が出ていましたが、決算末まで一か月をきっており、実行するには時間がかかるものが多く、キャッシュアウトするものばかりでした。そこで経理部長の目に留まったのが「貸倒損失」の計上でした。回収できずに古くから残っている売掛金のことを思い出し、これならキャッシュアウトもないため、利益を圧縮できると考えました。
後日その事実を社長に報告したところ、「キャッシュアウトしない節税は最高だね。」と言われ、ほっとした経理部長でしたが、社長から「まだ利益が出過ぎでいるから、もっと貸倒損失を計上したい。」と新たな要求が出ました。
そこで経理部長は売掛金・貸付金等の債権の見直しを行い、次の債権をピックアップしました。
合計1千万円利益を圧縮できるため、自信を持って経理部長は社長に再度報告しました。しかし、社長の返事はNOでした。まだ足りないとのことでした。経理部長は「もう回収不能になりそうな債権はありません。」と言いましたが、社長は納得せずに自ら帳簿を確認し始めました。そこで、社長が目を付けたのが関係会社であるE社に対する貸付金3千万円でした。E社が十数年前に設立した際に貸し付けていたお金の残りが約3千万円ありました。E社はここ数年赤字が続いているため、回収見込みがないということで貸倒損失として計上することを思い付きました。不安な経理部長は、社長に「E社からもう回収するつもりはないのですか。」と尋ねたところ、「どうせすぐには回収できない。とりあえず今期の決算が優先だ。」「関係会社だから今後の取引金額を調整して回収するから大丈夫だ。」とE社に対する貸付金3千万円を貸倒損失として計上することに決めました。
結局A社は今期の決算で貸倒損失として次の金額を計上し、利益を圧縮することにしました。
経理部長は合計4千万円の貸倒損失計上に不安を覚えていましたが、きっと会計事務所が計上は認められないと言ってくれるだろうと思っていました。
3月末、再度会計事務所の職員が監査に訪れた際に、貸倒損失計上について社長に説明を求めました。社長の答えはシンプルで「債権を整理したところ、この4件はすべて回収見込みがないと判断した。」というものでした。担当職員は金額も大きく、不安ではあったが、社長が会社として回収見込みがないと判断したという言葉を信じて深く内容を確認せずに貸倒損失4千万円を計上し、全額損金算入した確定申告書を提出しました。
5月末に申告書を提出してから数か月経った8月に税務調査の連絡が会社にありました……。
(次号に続く)
税務総合戦略室便り 第76号(2016年03月01日発行分)に掲載
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