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税務総合戦略室 室長通信 第四十三回 
上海で感じたこと

第76号(2016年03月01日発行分)

執筆者1

上海の経済格差

1月27日、弊社エヌエムシイグループ企業『野本财务咨询(上海)有限公司』が中国の店頭取引市場に登録を認められ、その式典参加のため上海に出張してきました。
 上海を訪れるのは初めてでしたが、送迎のバスが空港から上海中心部に近づくにつれ、噂に聞いていたとおりの発展ぶりに驚きました。片側4車線の広い道路は外国製の高級車で埋め尽くされ、渋滞の中クラクションが響き渡っています。外灘(ワイタン)地域には世界有数の超高層ビル群が霧にけぶった中、天に向かってそびえ立ち、まさに摩天楼の様相を誇っていました。
 かつての上海租界地区には当時建設された歴史的な西洋式高層建築と近代的な高層ビルが共存し、高級ファッションブランドや高級時計店が軒を連ねる様子は、もはや銀座の並木通りや表参道を凌駕しているのではないかと感じるほどです。
 発展を続ける中国のエネルギーが町中に溢れているのを体感しました。
 その一方、表通りから少し裏手に入れば、現地の一般庶民が居住する朽ち果てそうな古い共同住宅が数多く見受けられ、天にそびえる高層マンションとの対比は経済格差の大きさを物語っています。
 飲食店も地元の人が利用する安い大衆食堂では一杯8元程度(約160円)で麺類などを食べることができますが、表通りの高級レストランでは数万円の食事代がかかることも珍しくないようです。
 これら貧富の差を目の当たりにすると、ここが社会主義国家であることが信じられないような気分になります。

日本の社会主義化

日本でも非正規雇用者の増加などにより、所得格差が拡大していると論じられていますが、中国の状況と比較するとその差はずっと小さいように思われます。
 住む家もなく、病気になっても医者にも看てもらえず、飢え死にまでしてしまうような悲惨な状況は今の日本では極めてまれな例です。
 以前、ある経済学者(一説には旧ソ連のゴルバチョフ大統領)による『日本は世界で最も成功した社会主義国だ』という皮肉交じりの言葉を目にしたことがあります。
 かつて「一億総中流社会」という言葉が流行ったように日本人の国民意識として、他人との横並びをよしとする風潮が強いのかもしれません。
 格差を是正するための措置としては、いわゆる「富の再分配」が行われます。具体的には高所得者に対する累進課税を強化したり相続税増税などを行って、富裕層からより多くの税金を徴収し、貧困層に対する行政サービス(福祉や公的な補助)などの原資とするのです。
 資本主義経済では市場のメカニズムによって格差が生まれることが必然ですが、その格差を是正するために国家が経済に介入しすぎることが社会主義的だと言われるのかもしれません。
 租税教育では税金は国民が健康で豊かな生活をしていくために必要な「社会の会費」であるとされています。
 北欧の手厚い福祉国家では人々の幸福度も高いと聞きますし、国民全体が豊かに暮らせるための行政サービスを行うことが必ずしも間違いだとは思いませんが、行き過ぎた格差是正は社会の活力を失わせてしまうような気がしてなりません。
 人一倍努力した結果、成功を収めた人達から集中して、あまりにも重い「会費」(税金)を負担してもらおうというのでは、優秀な人達の働く意欲がそがれてしまいます。
 努力しなかった結果により豊かになれなかった人に対する過剰な保護政策も健全ではないようにも思うのです。
 担税力とは「租税を負担するものが不当な苦痛を感じることなく、社会的に是認できる範囲内で租税を支払える能力」だとされています。現在の富裕層が高額な税負担に対して「不当な苦痛」を感じていないとは、とても思えません。
 「誰が、どの程度ずつ、どのように負担するのか」簡単には答の見つからない、そしてそれぞれの人によって考え方の異なる難しい問題ですが…。

日本の税制

昨年1月に富裕層への所得増税と資産家への相続増税が行われ、いずれも最高税率が55%(地方税込み)まで引き上げられました。
 稼いだ所得は所得税で半分になり、納税後に残ったお金から蓄積された財産は、さらに相続税で半分を徴収されて(いわゆる二重課税)、大切な家族に残せる資産は所得のわずか4分の1になってしまうのです。
 オーナー社長が重責の中、人生をかけて働き続けた結果、75%が税金として徴収されてしまうのでは馬鹿馬鹿しくなってしまい働く意欲が薄れるか、税負担の低い海外脱出を考えるのはもっともなことです。
 さらに、最高限度額の高額な社会保障費を長年支払い続けているのに、定年退職のないオーナー社長は高額な収入があるが故、支払った当然の権利である年金を満額受給することもできません。会社と従業員の生活を背負っている社長は、サラリーマンのように年金がもらえる年齢になったら、仕事を辞めてのんびり暮らすということもできないのです。
 半分も税金で徴収され、年金も受け取れないのだから、豊かな人生を送るためにせめて人一倍働いた成果にふさわしい十分な役員報酬を受け取ろうと考えても、「税務署から『過大役員報酬』の指摘を受ける可能性があるのでそんなに報酬を取るのは辞めた方が良い」という税理士の指導で、納得のいかないまま報酬を抑えているというようなケースがあります。
 『過大役員報酬』とは同規模・同業種の法人と比較して高額すぎる報酬は認められないとする規定です。まさに「横並び」意識の最たるものです。役員報酬は会社の経営に対して支払われる対価です。同業他社と比較してはるかに高額な給与が取れるということは、他社の経営者に比べてはるかに稼いでいる経営者の手腕に対する評価ですから、成績の悪い同業他社と同じにしろというのもおかしな話です。そもそも法人税よりも高額な所得税を負担しているのですから「課税上の弊害」は何もないのです。
 中国やロシアの超富裕層、欧米諸国の数十億円の報酬を得ている経営者にとって、同業他社と比較した「過大役員報酬」という課税は到底理解できないものでしょう。
 そろそろ日本の優秀な経営者達からも「おかしい」という声が続々と上がってくるのではないかと思っています。

海外を活用した税務対策

海外には日本と比較して税制上有利な国も多く、その税メリットを享受するため、海外進出を行っている企業も増加しています。
 個人でもあまりにも重い税負担に絶望し、相続税・贈与税のない国に海外移住されている方も増加しているようです。
 しかし、法人の海外進出に関しては移転価格税制、タックスヘイブン税制などについて、しっかりとした税務対策を行っておかないと思いもしなかった課税を受けるリスクも多く、個人の海外移住に関しても、本当に日本側から見て「非居住者」と認められる状態なのかしっかりと確認しておく必要があります。
 弊社にもこれら国際税務の問題について不安を感じているお客様からのご相談をたくさんいただいています。
 この度店頭登録した私どものグループ企業も含め、私達『税務総合戦略室』の国際税務の専門家は日本企業の海外進出、グローバルな税務対策のお役に立ちたいと考えています。
 税金の問題を置いておけば、やはり日本は素晴らしい国だと思います。今回、上海に行き、あらためて日本の良さ、日本人の美徳を感じました。
 日本の良さと言われているものを挙げてみます。

  • 規則やマナー、時間や約束を守り、秩序を重んじる
  • 几帳面で勤勉
  • 協調性に富む
  • 清潔好き
  • 繊細な気配り、謙虚で奥ゆかしい、他人を思いやる
  • 治安が良い
  • 食事が美味しい

今回訪問した中国を悪くいうわけではありませんが、全体として日本のような繊細さを感じないのは私だけではないでしょう。
 しかし、ビジネスの世界では品が良いだけでは戦っていけません。上海の混沌とした中にもあふれる成長のエネルギーを見て、ある意味、真面目なだけではない清濁併せのむような「たくましさ」「したたかさ」も仕事には必要ではないかと感じた今回の出張でした。

税務総合戦略室便り 第76号(2016年03月01日発行分)に掲載

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