前号に引き続き「経費を多く申告する」について書こうと思います。
経費を多く申告する手口も詳細な方法は多種多様な方法があるのですが、中身を見ていくといくつかの方法に限られています。
費用を水増しして計上するわけですから、領収書などの証拠書類を操作して実際より多く支出したように見せかけることがあります。例えば領収書の「1」を9や7とか4といった数字に書き加えるとか、領収書自体をもらってくるという手口は古典的な手口ですが、現実に未だに見かけることがあります。
このほかにも人件費や外注費、仕入といった科目を水増しして計上することもあります。
しかし、これらの方法はすべて相手がいることですので、突き詰めていけば、こちらが経費として支払ったものは、その相手にとっては収入として計上されるものですから、そこに工作が入れば相手の決算との整合性が保たれなくなります。
経費を多くすることは、相手がいると言いましたが、在庫の調整により利益を少なくする方法では、相手は不要です。
在庫を実際より少なく見せかけることで、売上原価として落とす費用が多くなりますので、それだけ利益も少なくなります。しかも、これには相手がいないので会社の都合で一方的に利益を減らすことができるのです。
在庫の調整は、その年の所得や税額が見えてくる決算期末に一度計算するだけで調整できますので、実務的にも多くみられる手口となっています。
これについてはまた詳しく書きたいと思いますが、今回は、旅費交通費について実際に遭遇した事例をご紹介します。
旅費交通費については、舛添元知事の湯河原までの旅費が話題になったことは記憶に新しいですが、対象が会社から離れているし、領収書などの証票類の形式が多岐にわたり、カード決済や、割引制度も複雑となっていることから、その水増しなどが、発覚しにくいと一般的に考えられている傾向があるようです。
過去の経験で、旅費交通費の精算に精算書を提出している場合があるのですが、領収書などの証拠書類は添付しないで、精算書のみで計上している会社がありました。「領収書も添付しないと消費税の課税仕入が認められませんよ」なんて話していましたが、問題はその先にあったのです。
精算書をよく見ていると、消費税の欄がありません。
確かに航空券などの金額は、調べてみると定価通りになっていて、一見間違っていないように思えるのですが、国内出張にかかる精算書にも消費税が含まれていませんでした。
さらに、午前中の世間話の中で、頻繁に海外出張している社長が「航空券を定価で買うなんてもったいない」なんて話が出ていたことが思い出されます。
旅券の購入方法、宿の手配の方法を細かく確認していくと、旅費交通費の計上額は、乗換案内などで調べた金額を計上しているのですが、実際の購入額はあらゆる割引制度を利用したかなり安いものになっていました。
実際の購入額よりも水増しした経費が計上されていることになります。
さらに、精算書の筆跡も同じもので、経理部長のものでした。
やり方はこういうことでした。
実際の出張者が立て替えたものについて、領収書と引き換えに立て替え額を支給したり、総務で手配した切符などを交付しているのですが、それとは別で、定価額で総務部長が精算書を作成し、それに基づいて経費を計上していました。精算書と実費の差額は総務部長のところで、プールしていました。
宿泊代も実費で支給しておいて、計上は、定価の額を計上するという手口で、簿外の現金を捻出していることが解りました。
この事例の発覚したきっかけは海外分も国内分も精算書に消費税が含まれていなかったことに違和感があったことですが、経費の水増しなどは、帳簿の丹念な確認、反面調査などで相手方の帳簿との突合で案外容易に発覚する可能性が高いので、あまり考えないようにする方が賢明だと思います。
税務総合戦略室便り 第96号(2017年11月01日発行分)に掲載
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