税務総合戦略室便り

HOME >  税務総合戦略室便り >  第96号 >  国際課税の話(その16)

国際課税の話(その16)

第96号(2017年11月01日発行分)

立石 信一郎

前回、親会社が海外子会社に対して役務提供を行う場合において、対価の請求を行うべきかどうかは、役務提供の内容が、海外子会社にとって経済的又は商業的価値があるかどうかにより判断することをご説明しました。

対価を収受しなくてもよい役務提供について

親会社が海外子会社のために行った役務提供でも、対価を収受しなくてもよいもの、すなわち、親会社の活動が海外子会社にとって経済的又は商業的価値がないものとして、「移転価格事務運営指針」は次の二つを挙げています。
 まず、一つ目は、役務提供の性格から判断するものですが、親会社が、株主としての法令上の権利の行使又は義務の履行のための活動であり、具体的には、①親会社が実施する株主総会の開催や株式の発行等、親会社が遵守すべき法令に基づいて行う活動、及び②親会社が金融商品取引法に基づく有価証券報告書等を作成するための活動です。これらは、親会社が株主の地位に基づき、専ら自らのために行う活動であり、このことによって海外子会社が何ら利益を受けていないことを根拠とするものです。
 二つ目は、役務提供の対価を請求することが妥当であるかどうかから判断するものですが、親会社が海外子会社に対して提供する役務が、①海外子会社が、親会社以外の他の関連のない者から受けている役務と重複しているものである場合や②海外子会社が、自ら行っている活動と重複している場合には、対価を請求する必要はないというものです。なかなか具体的なイメージがわかないものとなっています。
 いずれにしても、海外子会社にとって経済的又は商業的価値がないと判断されるものですが、極めて限定的なものと考えられます。

役務提供の対価の決定について

 親会社が海外子会社のために行った役務提供の内容が、経済的又は商業的価値がある場合には、対価を請求しなければなりません。次の問題はどのような対価を請求すべきか?という点です。
 移転価格課税の適用に当たって、税務当局にとって一番困難な点は、問題とする取引について、独立企業間価格、すなわち、関連のない法人間の取引価格を決定することにあります。
 商品の売買取引と同様に、役務提供取引についても、同様の役務提供取引を把握した上でどのような対価を授受すべきかを決定する必要があります。その場合、法令等に基づき、役務の内容の類似性を検討し、差異がある場合は調整を行うなど、課税に至るまでには多くのハードルがあります。

移転価格課税の現状について

実際の移転価格課税においては、役務提供取引について原価(経費相当額)の金額のみで課税するものが多くを占めています。
 国税庁は毎年11月に、法人税の調査事績を発表しており、その中の一項目として「移転価格税制に係る実地調査の状況」があります。
 平成27年度については、移転価格税制の適用により非違のあった件数は218件(前年度:240件)、申告漏れ所得金額は137億円(前年度:178億円)となっており、1件当たりの申告漏れ所得金額は約63百万円(前年度:74百万円)となっています。
 移転価格課税というと、マスコミ報道による数百億円もの多額の課税が連想されますが、近年は、納税者が事前に国外関連者との取引価格等の妥当性を税務当局に確認してもらう「事前確認制度」の適用を受けるケースも多くなっていることから、それほど多額の課税が行われているとのマスコミ報道も目にしなくなってきています。
 近年、申告漏れの所得金額そのものは減少してきていますが、従前から毎年200件程度の移転価格課税が行われており、その多くは役務提供取引等について原価(経費相当額)による課税を内容とする、数百万円程度の金額のものです。そのため、1件当たりの申告漏れ所得金額は少額なものにとどまっています。

次回は、原価(経費相当額)による課税を可能とする、理論的な根拠、具体的な役務提供の内容などをご説明したいと思います。

税務総合戦略室便り 第96号(2017年11月01日発行分)に掲載

お電話でのご相談・お申込み・お問い合わせ

全国対応いたします。お気軽にお問い合わせください。

03-5354-5222

PAGE TOP