9月27日、アメリカのトランプ大統領は、連邦法人税を35%から20%に引き下げる税制改革案を正式に発表しました。法人税率を主要国より低い水準に下げることで「米国に企業と雇用を取り戻す」という主張です。個人所得税の最高税率も35%に引き下げ、遺産税(相続税)の撤廃も表明しています。
法人実効税率(地方税を含む)の国際比較(財務省発表:2017年1月現在)によればアメリカは40.75%、ドイツ29.79%、中国25%、イギリス20%、日本は29.97%となっています。今回のトランプ案は連邦法人税(州税を含まない)を現在の35%から20%まで一気に引き下げるということですから、相当なインパクトがあります。
所得税を地方税込みの最高税率で比較すると、アメリカは52.3%、ドイツ47.48%、フランス53%、イギリス45%、日本が一番高く55%となっています。
相続税については日本の最高税率55%がやはりダントツで高く、アメリカは39%ですが日本円にして6億円超の課税最低限を設定しているので相当な富裕層だけが対象になります。さらに世界には相続税のない国がたくさんあります。例えば、カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・スウェーデンは相続税を廃止、シンガポール・マレーシア・中国にはもともと相続税が存在しません。
基礎控除額の引き下げによって課税対象を拡大している日本の相続税政策は世界の流れとは逆行しているようです。
生前多額な税金を負担しながら蓄積してきた財産に再び課税されるという「二重課税」的性格を持つ相続税に対する抵抗感は強く、相続税のない国に脱出を考える富裕層が増加していると言われています。グローバル社会になり個人が住む国を変えることのハードルも以前に比べると相当低くなっています。
10月5日付日経新聞に「EUの欧州委員会はルクセンブルグ政府が米アマゾンに約330億円の『違法な』税優遇を与えていたと認定し、追徴課税で取り戻すよう同国に指示した」という記事がありました。欧州委員会はこれまでも米国企業のマクドナルド・アップル・スターバックスなどについてルクセンブルグの他にもアイルランド、オランダにおける違法な税優遇を認定・調査してきました。なぜ米国企業がこれらの国に拠点を置くのか。いうまでもなく税務上の優遇措置を受けられるからです。多国籍企業がより税コストの低い国を活用するのは自然なことであり、その流れは中小企業にも拡大しています。今回の連邦法人税引き下げ案は海外に出て行ってしまった企業を米国に引き戻し、結果的に雇用と好景気を生み出すことになるかもしれません。また、最高税率35%という所得税、遺産税の撤廃は世界中の富裕層が米国居住者を選択する可能性を拡大させます。
イソップ寓話の「北風と太陽」は、どちらが旅人の上着を脱がすことができるかという力比べのお話です。
北風は力いっぱいの強風で上着を吹き飛ばそうとしますが、旅人は逆にしっかりと上着を押さえてしまい、脱がせることはできませんでした。
次に太陽が燦々と日差しを照らしたところ、旅人は自ら上着を脱ぎ、勝負は太陽の勝ちとなりました。
日本では法人税の海外進出防止のためタックスヘイブン対策税制の強化を行い、個人所得税・相続税(贈与税)の流出を防ぐため「出国税」「贈与税5年ルールを10年ルールに見直し」といった税制改正を行いました。人一倍努力して成功した方々に対する課税強化は北風のように相手を頑なにさせてしまいます。
優良企業や豊かな人を呼び込むためには太陽のような優しさで相手を包み込むことのほうが良策に思えてなりません。
税務総合戦略室便り 第96号(2017年11月01日発行分)に掲載
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