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元国税調査官のひとりごと 第36回
本当にあった怖い話(その4)

第95号(2017年10月01日発行分)

伊藤 徹也

今号では「経費を多く申告する」について書こうと思います。

1 同行調査

調査先の得意先はそうそうたる大手企業ばかりです。
 申告内容を分析しますと、売上は毎年微増、原価率が同規模同業種の会社と比べて高めではあるのですが、それにも増して販売費および一般管理費の割合が異常に高く、科目ごとのバランスもバラバラでした。
 売上については、相手は大手企業、支払いも手形か振り込みで、売上が抜けていると考えるのは難しいと思いますので、必然的に支払いに目が行くのですが、工事台帳という工事毎の売上と原価、経費からの損益を管理する帳簿も備え付けてありました。
 パソコンで打ち出された見やすいものでした。でも、最初に事務所に入ってきたときに窓際の常務の机には、手書きの「実行予算書」が置いてあったことに気づいていました。
 常務からは、あくまで実行予算書であって、実績とは違うからという説明は受けました。
 提示された工事台帳には、上段に物件名、工事番号、契約金額、決済時期及び金額などが記載されていて、中段に、日付順、勘定科目ごとの支出金額を記載し、下段にその集計金額が記載され、工事毎の利益額、利益率が表記されています。
 実行予算書を見てみますと、書式は工事台帳と同じなのですが中段の一番下の一行に日付も、相手先も未記入で、外注費欄に三千万円とだけ記載されています。
 この金額も含めて、工事台帳と実行予算書の利益は同じ金額になっています。

2 想像・妄想?

この状況から想像すると、売上原価もしくは販売費及び一般管理費が水増しされていることが想定されます。
 具体的には、この三千万円の中身について深堀することになります。この時点で、すでにいろいろなことが想像できます。
 例えば、入札業者の降り賃(今回落札に際して競合他社に対する協定金額)の支払い、これは役務提供の対価ではありませんので、談合類似金とみなされ交際費と指摘される可能性はあります。
 近隣住民に対する苦情等の対策費や、特定の者に対するとりまとめ費用。これも、支出の相手先を明らかにすることを求められます。
 代表者の特殊関係人に対するお手当等々、さすがにここまで行くと想像というより妄想になりますが。

3 真相究明

実行予算書に書かれている三千万円の真相は、支出にかかる領収書や請求書、振込依頼書などの証拠書類の確認、支払先に対する反面調査、実行予算書を作成している常務に対する聞き取り調査、社長に対する聞き取り調査を行うことで解明していきます。
 調べていくうちに、徐々にいろいろなことが見えてきます。
 この支払いは、社長の三男が県会議員をしていて、その妻の父親が以前やっていた会社Aに対する外注費の支払いとなっています。
 工事の施工体系図には、工事全体のうち、どこの部分をどこの業者が行っているかが記載されていますし、毎日の日報には安全管理のため誰が来ているかすべて記載されています。そこに会社Aは記載されていませんでした。

4 説得したのは常務

調査を進めていくうちに、先に口を開いたのは、常務でした。
 「うちがこれだけの仕事を受注できるのは、県会議員である三男の力が大きくて、そのためには、多少なりとも資金は必要なのです」と話しをしてくれました。
 内容が内容なだけに、新聞沙汰になるようなことがないか心配していました。
 社長はというと、息子さんに迷惑が掛かってしまうと思ったのか、かたくなに否定しています。
 しかし、常務が解明するまで税務調査は終わらないし、あまり長引くと得意先や従業員にまで不審に思われるので、早く認めるように社長を説得していました。
 社長の次男である常務の説得は、効果的だったようで、この三千万円のほか同様の支出も含め、数千万円を外注費としてこの会社に資金を流していた事実を認めるに至りました。
 幸い、常務が心配していた、新聞沙汰になることもなく税務調査を終われたことに安堵した事案でした。

税務総合戦略室便り 第95号(2017年10月01日発行分)に掲載

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