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元国税調査官のひとりごと 第35回
本当にあった怖い話(その3)

第94号(2017年09月1日発行分)

伊藤 徹也

前号までは、2つしかない課税を逃れる手口の内「収入を少なく申告する」という話をしてきました。
 今号では、「経費を多く申告する」ということについて書こうと思っていましたが、その前に「経費を少なく申告する」ことで課税を逃れていたという話をしたいと思います。
 経費を少なくすれば税金が多くなることぐらい知っている、つじつまが合わないじゃないか、と思われますよね。最後まで読んでいただければ、「あぁ~、そういうことね」と解ってもらえると思います。

1 同行調査

まだ私が国税の職場に入って数年のころ、先輩のベテラン調査官について調査に行った時の話です。
 行く前から先輩に、「仕入」を見るように言われていました。
 仕入を見ると言えば、売上との対応、特に決算期末近辺の計上が正しいか、決算までに売れていなければ、期末棚卸の計上があるか、と言った観点で調べていました。
 ところが、先輩から、過去五年間の取引先ごとの金額の他、請求明細のコピーをとるように言われました。正直「そこまで悉皆的に調べても時間の無駄ではないか」とも思いましたが、黙って調べました。

2 反面調査

翌日、自分は調査先ではなく仕入先に反面調査に行くように言われました。
 調査先の仕入は反面調査先では売上ですので、両社の対比をしていくだけの簡単な調査です。
 調査先で計上している仕入が反面先の売上に載っているか、金額が水増しされていないか、仕入の時期が、前倒しされていないか、仕入れ単価が間違っていないかという観点で調べていきます。
 仕入に上がっているものはすべて相手の売上に載っていて、日付も数量も単価も間違っていません。
 ただ、仕入に上がっていない売上がいくつかあるくらいでした。
 反面調査先の社長にこれはなぜですかと質問したところ、「売上先の入力を間違えたかもしれないねえ」とおっしゃっていましたので、「こちらの仕入はすべて載っているのだし問題ないか」と思い、礼を言って帰ってきました。
 調査先に戻って先輩と合流して「こちらの仕入はすべて載っていました」と報告したのですが、資料を見ていた先輩から、仕入に載っていない反面先の売上を見て、「これはなに?」「売上先の入力を間違えたのではないかと言っていました」「バカヤロー」と言われてハッとしました。
 もう一度反面調査のやり直しです。

3 やり直し

再度反面調査先に行って、売上にかかる納品書(控)、配送記録、決済方法などを確認したところ、直接納品先に配達していて、決済はすべて現金となっていました。
 なんてセンスのない反面調査をしてしまったのか、自分を恥じながら、過去7年分の資料をすべて確認しました。
 時間も結構遅くまでかかったので、社長からは小言も言われましたが、請求書(控)を示しながら、「売上先の入力を間違えたわけでは無いようですので確認させてください」とお願いし、決済場所や日付、決済の担当者などを聴き取りしてその日は帰りました。

4 経費を少なく申告する

翌日は、調査先に戻って社長と対決しよう思っていたのですが、行ってみると、社長はすでに、現金売上の除外、それに見合う仕入も簿外にしていた事実を認めていました。
 再度反面調査に行った時点で、もう隠せないと思ったようで先輩調査官がほとんどの話を聞き出していました。
 現金決済の売上と仕入を両方帳簿に載せない方法で、数千万円の資金を作っていました。
 使い道は趣味の高級車で、車の登録に関する資料せん、現金決済となっている仕入の資料せんから、先輩は調査のポイントをあらかじめ絞っていたようです。

冒頭に申し上げたように「経費を少なく」して課税を逃れるという一見つじつまの合わないことも実際にあるのです。
 しかし、これは「収入を少なく申告する」ことを分かりにくくするための方法にすぎませんね。

税務総合戦略室便り 第94号(2017年09月1日発行分)に掲載

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