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元国税調査官のひとりごと 第32回 
分掌変更による役員退職金

第91号(2017年06月01日発行分)

伊藤 徹也

分掌変更により役員退職金を支給して、その後代表権のない会長や相談役として会社にとどまることはよくある事例ですが、その際に税務調査で「実質的に退職の事実がない」として否認される事例がよくあります。
 否認された場合には、退職金として認められず、役員に対する賞与と認定され、法人の損金として認められないだけでなく、源泉所得税まで追徴されるという大きな負担が課せられることになります。

1 分掌変更の本来の意味

分掌変更については法人税法基本通達9-2-32に規定されていますが、次の2点が重要になります。
 ①役員としての地位又は職務の内容が激変。
 ②実質的に退職したのと同様の事情にある。
 実務的には、「代表権がなくなり給与が50%未満になっていれば大丈夫」といった噂もあるようです。
 長年経営に携わってきた社長、特に創業者の方としては、毎日出社したいし、つい口も出してしまう、生活レベルも変えられないので、ある程度の給与は欲しい、といったケースが多くあるのですが、そこに落とし穴があります。
 登記上代表者ではないが、実質的に退職前と変わらず経営に参画しているとなれば、「地位又は職務の内容が激変」していないと判断されかねません。
 また給与を50%未満にしたとしても他の従業員の給与水準を大きく上回っている場合にも「退職したのと同様の事情」がないと判断される可能性があるのです。
 これは、退職した役員の方の意識の問題が大きなポイントとなってくるのです。

2 実際の裁決事例に基づく対策

では、分掌変更により退職金を支給した場合にそれ以後どんなことに気をつけておけばいいのかを実際にあった裁決事例等から考えてみます。

①代表取締役の名刺は捨てる

実際、事実確認のため本人と面接した際に「代表取締役〇〇〇〇」といった名刺を渡していたことが問題になった事例があります。

②ホームページや会社案内の組織図、挨拶記事の変更

組織図における会長の表記の位置やホームページ内の記事の内容が問題になった事例があります。

③取締役会議事録、稟議書、報告書の決裁、確認欄等社内の重要会議や書類に出席や決裁のサイン、押印をしない

議事録の記載内容から経営陣の一人として経営方針等を指示する挨拶をしていたと指摘をされた事例があります。

④給与は他の従業員等の給与水準を考えた設定にする

他の従業員と比べて給与が高額なため、関与している業務が重要だから相当な額が支払われている(経営に参画している)と判断された事例があります。

⑤その他

  • 銀行の融資担当等と面接しない
  • 銀行への反面調査で、融資交渉の場に出席していたことが問題視された事例もあります。
  • 金庫の鍵や通帳、小切手帳、手形帳の管理をしない
  • 毎日は出社しない
  • 少ないように思いますが、月に3~4日の出社で問題視された事例もあります。

3 調査官目線で検証

ここまで書くと、結構条件が厳しいように思いますが、逆に国税調査官の側から考えてみますと、形式的な面や対外的に代表取締役等を退いている場合には、事実認定として客観的な状況証拠を積み上げて役員としての地位又は職務の内容が分掌変更後も激変していないことや、実質的に退職したと同様の事情がないことを立証する必要がありますので、実はとても骨の折れる作業になるのです。
 そういった意味では、否認しにくい内容ではあります。
前述の様々な条件も、どれか一つ抜けていたから、即否認されるというわけではなく、全体的に見て分掌変更による退職金支給が妥当かどうかを総合的に判断することになるのです。
 しかし、分掌変更による退職金支給は特定の条件で特例的に認められている内容ですので、それをあまり広義に解釈することは危険です。くれぐれも、慎重に判断していただきたいと思います。

税務総合戦略室便り 第91号(2017年06月01日発行分)に掲載

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