税務総合戦略室便り

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元国税調査官のひとりごと 第28回 
小芝居

第87号(2017年02月01日発行分)

伊藤 徹也

1 小芝居を打つ

もう今はそんなことはしないのでしょうか?
 税務調査には、色々な形態があります。
 一人でする単独調査もあれば、2~3人の組調査、それ以上の人数をかける特別調査等。特別調査の時など、参加者の中で、わざとらしい小芝居がされることがありました。
 特別な打合せがされるわけではないのですが、社長と当局が話しながら、社長が当局の力量を図っているような雰囲気の時などに、社長に対しては、すごく丁寧に対応しておいて、突然後ろにいる調査官に対して、「何ぼーっとしているんだ、さっさとやるべきことやらんか」と大声で怒鳴りつけたりしてピリッとした雰囲気を作りだしたりします。
 現実にこの後の会社の対応が変わってきたりもします。
 「この調査官、にこにこしながら、実は無茶苦茶厳しいのではないか」とか思うのでしょうか。
 また、調査が硬直状態に入ったころに、部下に車から電話させて社長の目の前で、「ナニー、そうかやっぱり、わかった。」社長に向き直り、「ああごめんなさい……。ところで社長、御社の外注費ですが……」等と先ほどの電話とは関係ない質問ですよということを装いつつも、実は裏付けは取れているんだという雰囲気を醸し出したりと、色々な小芝居をします。
 なんでそんな、人をだますようなことまでするのかと疑問に思う方もいらっしゃると思いますが、当局の教育は性悪説で、調査先は脱税をしているんだ、だからそれを解明するには、ただ帳面の突合をしているだけではわからない。
 相手の琴線に触れる調査をしなければいけないと教えられています。
 だから心理的に、逃れられないと思わせることは、必要な調査手法の一つであると思われています。
 調査官は、調査に向かう前、最中、調査の終結まで、どんな作戦で調査していくか、そんなことばかり考えているのです。
実際、反面調査に向かわせた部下からは、その場で連絡をさせたりすることはよくあることです。

2 小芝居をする暇もなく

何年か前のことです、社長はそれなりに高齢で、耳が聞こえづらくなっているのか電話の受話音量は、近くでも聞こえるくらいです。
 そんな中、確か部下を反面調査に向かわせた先の社長から、調査先の社長に電話がかかってきました。
 「社長、うちにも国税が来てます、相当疑われていますよ。みんなばれているみたいですがどうしますか」と息せき切った電話が入りました。
 周りにいる税理士も経理部長も、もちろん我々にも丸聞こえです。
 「わっバカ、まずいって」と社長、ここでやっと察したのかしばらく沈黙して、「なんちゃってー、でも大丈夫ですよ」だって、社長もあきれた感じで、「もういいよ、代わるから」と言って受話器を私に差し出しました。
 「お電話代わりました、国税局の伊藤です。」「……。」「申し訳ありませんが、そのばれていることを今そこにいるうちの者に全部話してもらえませんか。最後になんちゃってーって言うのは無しで。」「……。」 勝負あったという感じです。
 社長もさすがですね、平謝りする外注先の社長に「もういいから、今度一杯おごれよ」と、大物です。
 電話を切った後、「ずいぶんお茶目な方ですねえ。」「まあ憎めないやつなんですが、お調子者で困ります。」
 このパターンは、小芝居を打つ暇もなく相手が自滅した事例ですが、結局、得意先への請求を水増し、外注費として会社から引き出し、外注先から現金でバックを受け、得意先に渡していたのですが、このやり取りがなければもう少し解明に時間がかかった事例だと思います。
 実際の税務調査では、得意先も巻き込む大掛かりなものとなりましたので、この後社長が自らすべてを話していただくまでには、長い道のりがありました。
お茶目な社長は、結局外注費の水増しバックを押し付けられただけの、やはり人の良い方だとわかり、なぜか少しほっとした記憶があります。

税務総合戦略室便り 第87号(2017年02月01日発行分)に掲載

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