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税務総合戦略室 室長通信 第五十三回 
2017年度税制改正大綱から考える

第86号(2017年01月01日発行分)

執筆者1

新年おめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。
年が明けると例年どおり税制改正の時期がやってきます。12月に決定した2017年税制改正大綱は1月の通常国会に提出され、今年度中の成立を目指すこととなります。

配偶者控除の見直し

今回の目玉とされている改正項目は何といっても配偶者控除の見直しでしょう。いわゆる「103万円の壁」といわれているように配偶者控除の適用を受けるためパート収入を103万円以内に抑える傾向を改善するため、就業調整を意識しなくても済む仕組みの構築を目指すことは良いことだと思います。年収の要件が150万円に拡大されることで300万世帯に減税効果があるそうです。
 しかし、その減税効果をすべての人が享受できるわけではありません。財源を確保するため、世帯主(夫)の年収が1120万円を超える世帯(約100万世帯)への適用は制限され逆に増税となります。

変わらない富裕層増税の流れ

近年の税制改正は大きなとらえ方では「富裕層増税」の方向に突き進んでいます。

◇2012年度改正では5千万円を超える海外資産を保有する人は、その財産の内訳を税務署に報告しなければならないという制度(国外財産調書)が創設されました。この制度ができたことで富裕層の海外投資に対する意欲は相当冷え込んだ印象があります。

◇2013年度改正では所得税と相続税の最高税率(実効税率)が55%に引き上げられました。また同時に相続税の非課税枠である基礎控除も4割縮小しています。

◇2014年度改正では年収1千万円超の場合、所得控除額が220万円上限に縮小されました(2017年度から実施)。

◇2015年度改正では以前から噂されていた「出国税」がついに導入されました。1億円以上の有価証券等を持つ方が海外移住する際、その含み益に課税を行う制度です。法案成立後、わずか数か月で法施行されるという状況には駆け込みによる出国を防止しようとする強い意図を感じたものです。
 そして今回の税制改正では前述した配偶者控除の見直しによる高所得者への増税の他に、いわゆるタワーマンション節税にもメスが入りました。2017年度以降に販売される20階建て以上の新築マンションは、上層階の固定資産税が低層階に比べて高くなります。
 あまり大きく報道されていませんが個人的に一番驚いたのは、被相続人及び相続人がともに5年を超えて非居住者の状態で海外財産を贈与した場合に課税されないという、いわゆる「5年ルール」の改正です。5年を一挙に倍の10年に引き上げたのです。このルールの適用を目指し、相続税・贈与税のないシンガポールや香港などの国に親子共々居住して、じっと5年が過ぎるのを待ち焦がれていた方にとっては晴天の霹靂でしょう。

低所得者層への増税は国民の反発が強く、富裕層に対する増税は世間の理解を得られやすいという理由から「取れるところから取る」という流れはどこまで行くのでしょう。
 人の何倍も努力した結果として豊かになった人の働く意欲をそぐことになるのではないかと危惧します。
以前も書きましたが担税力とは「租税を負担するものが不当な苦痛を感じることなく、社会的に是認できる範囲内で租税を支払える能力」とされています。高額納税者にとって、どこまでが不当な苦痛を感じない限界なのか、多くの方にとってすでに限界点は超えているように思えてなりません。

税務総合戦略室便り 第86号(2017年01月01日発行分)に掲載

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