税務総合戦略室便り

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社長からの課題

第86号(2017年01月01日発行分)
元国税調査官・税理士
黒崎 俊夫

早いもので私がこの事務所に入社して6回目の新年を迎えた。
 思えば6年前の冬、パソコンで人材募集サイトを開いたことがきっかけだった。前職を定年まで勤めあげる気持ちもなかったし、漠然とやめる気ではいたのだが、その時の何気ないクリックにより現在に至っているという状況ではある。
 その翌日にはさっそく「先方とコンタクトを取るから都合の良い日を教えてくれ」と連絡があり数日後、今一緒に仕事をしている風間と佐藤と面接をし、その後、社長と面接する運びとなった。
 社長は挨拶もそこそこに、開口一番「今、業績のいい会社の社長は皆、後継者への事業承継、特に高い株価の相続について頭を悩ませている。黒崎君、株価を下げるいい方法はないかね」と問われた。

国税時代も株式の評価については日常的に接してきたが、その評価方法に誤りがないか、計算誤りがないかといったスタンスで審査するのがほとんどで、納税者の視点から見て、いかに株価を下げるかといった問題意識は欠落していた。
 「業績の悪い決算時の株価は下落するので、その時を狙って株式を贈与したり売買するのが定跡だが、もっと根本的に会社を分社するとかいった方法もある」などと答えた気がするが、実のところ利益を下げるための具体的手法や組織再編のための方法論は持ち合わせていなかった。
 そして、その問いは私がこの会社に入った後の私に課された社長からの課題と受けとめた。

今でこそ事業承継という言葉は当たり前となり、書店にもそれら類の書籍は氾濫しているが、当時はそれほどポピュラーではなく、国税の職場でそれが話題になることもなかった。多額な贈与税を納税してまで株式を生前贈与する申告書を見て、何を意図しているのだろうと疑問視していた位だった。
 しかし、いつ、誰に、どのような形で今ある事業を後継者に承継すべきか、そして株式を贈与するにはどれくらいの税金がかかるのかといった事業承継に係る問題は会社経営者にとっていつかは直面する問題であり、かつ解決しなくてはいけない不可避の課題である。

事業承継に関する情報や技術は日進月歩で更新され、大げさに言えば科学技術の発展とともに進歩、衰退する。
 経営者一人ひとりの事業承継に対する考え方や理想、さらには価値観、哲学は千差万別であり、それらを十分に掬いとらないと、我々が提案する対策案は独りよがりになる陥穽がある。また単に税金だけの問題ではなく、我々のミスリードが従業員の生活を含めてその会社そのものの存続を危ぶんでしまう恐れもあり、いささか臆病にならざるを得ない側面も内含する。
 振り返ってみてもあの会社にあの提案をすればよかった。もっと踏み込んで検討し言及すべきだった、その会社の事情を考慮せず、余計なことを言って混乱させてしまった。自信のない説明でかえって不安にさせたかもしれないなどと反省することも少なくない。
 税理士として求められていることは、単に申告書を作ったり、株式の評価をすることではなく、事業承継を例にとれば、そのための仕組みの提供と達成のための具体的プラン作りにあり、その内容がCS(顧客満足)の向上につながることは確かだろう。
 あの時の社長の問いかけは、今後の私の税理士としてのウィルを示唆、提示してくれたことに間違いはなかった。

社長と最後に話をしたのは亡くなる1月前、入院される直前だった。その日あるお客様に対する事業承継の提案報告があったのだが、その時同席した風間がお客様の反応を社長に伝えてくれたのだろう。社長も「お客さんに満足していただくのが何よりだ。ご苦労様」と喜んでくれた。
 その時、6年前社長に初めて会った時に課された課題に、わずかではあるが応えられたような気がした。
 そして、私自身事業承継のスペシャリストと言えるのに、まだ道半ばであるが、社長が他界した今、その言葉はそんな私の未来に対するエールだったと受けとめている。

税務総合戦略室便り 第86号(2017年01月01日発行分)に掲載

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