今回からは、国税局調査部での20年間の勤務経験に基づく話になりますが、ずっと国内において勤務していたわけではなく、調査部所属という身分で2年間香港に駐在もしていました。
全国に12ある国税局(沖縄は国税事務所)の調査部は、原則として資本金が1億円以上の大規模法人の税務調査を担当する部署です。調査部が所掌する大規模法人は、海外の企業と取引を行っているケースなども多く、海外取引調査は避けて通ることはできません。
税務調査において、国内の法人や個人との間の取引について、不審な点等が把握された場合は、国税庁が保有している膨大なデータベースを検索することにより、相手先の事業内容、申告状況等に関するデータを入手・分析することが可能であり、その結果から更に調査を展開する必要がある場合には、実際に相手先に臨場して、取引内容や取引の経理処理等を確認する反面調査で、取引内容等の是非を判断することができます。
しかしながら、相手先が海外にある場合には、国税庁は海外の相手先に関する情報は保有しておらず、また、海外における質問検査権の行使は相手国の主権の侵害となることから、実際に外国に行って相手先の反面調査を行うことができないという問題があります。
そのような状況に対処する手段である、海外取引調査手法の主なものとして、①「長期海外出張者」による実態確認、②「ダン・レポート」による実態確認、及び③「要請に基づく情報交換」を通じた情報の入手などがあります。
国税庁は、現在世界の約20の国・地域に、長期海外出張者として国税職員を派遣し、様々な機能を担わせています。私が、2年間香港に駐在していたのも長期海外出張者としての身分でした。
長期海外出張者を活用することにより、取引相手先の実態を確認することが可能であり、法人の登記事項を入手することで法人の株主や役員等に関する情報を把握するとともに、相手先の住所地に臨場してもらい、事務所等の状況を確認することができます。
長期海外出張者による実態確認は、特定の国しかカバーしておらず、できることも民間人ができる範囲内に限定されますが、国税職員としての調査経験に基づき、登記事項の入手や事務所の状況の把握などにおいて、調査官目線の深度ある情報を収集することが可能です。
通称「ダン・レポート」は、東京商工リサーチが提供する、Dun & Bradstreet社の海外企業調査サービスによる調査報告書のことであり、企業が海外の相手と取引を始めるに当たって、相手先の信用調査等に利用しているものを、相手先の実態確認に利用しています。
Dun & Bradstreet社は、世界200ヶ国超の地域にわたる、2億5千万件を超える巨大な企業データベースを構築しており、これらの情報をオンラインで入手することが可能であり、データベースにないものについては、調査依頼することもできます。
公表されている国税庁の調達情報では、「オンライン(ダン・レポート)による海外企業等信用調査情報の提供」として、年間約2億円の予算を確保しているようです。
情報交換については、以前の83号において説明させていただきましたが、情報交換の一つの形態である、「要請に基づく情報交換」は、外国の税務当局に必要な情報の収集・提供を要請するものですが 外国の税務当局の職員が、相手先に臨場し、日本の税務当局が必要としている情報を入手し、それらを提供してもらえれば、取引実態の解明に直結します。
しかしながら、一般的に税務調査を行っていない国もあることから、国によっては、調査を行うことなく、申告書の確認だけでの回答のため、期待していた情報を入手できない場合もあり、また、情報を入手するまでに長期間かかるという問題もあります。
税務総合戦略室便り 第86号(2017年01月01日発行分)に掲載
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