税務総合戦略室便り

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第83号(2016年10月01日発行分)
エヌエムシイ税理士法人 代表社員・税理士
佐藤 修一

7年ほど前に、弊社の税理士に相続税の申告を依頼したというY様から、先月お問い合わせの電話をいただきました。すぐには思い出せなかったのですが、よくよく話をうかがうと、当時の記憶が徐々によみがえってまいりました。
 都内在住のごくごく普通のご家庭で、相続財産としては店舗兼自宅とその土地、賃貸アパート一棟、有価証券、現金預金といった具合でした。税額軽減の特例を適用し財産価値を評価したところ相続税はかからず、相続人のお一人であるY様の意向に沿って財産を分割し無事に申告を済ませた、と思っていたのですが……。

相続の道筋をつける

まもなく70歳を迎えるY様は、受話器越しに次のように切り出されました。「家内と娘二人に店舗兼自宅とその土地を無税で移転できる、と知人から聞いたのだが本当なのか?もし可能であれば、元気なうちに実行したい、お宅に手続きを頼むとしたらどのくらいの費用がかかるのか」、と。
 早速にご来社いただき、相続税専門の税理士同席のもと、当時の相続税申告書、土地・建物の登記簿や評価証明書を拝見しながら事情をうかがう中で、実は7年前の相続の際に、Y様の兄弟間で多少もめ事があったことを初めて知りました。
 それに懲りて、自身の相続ではこんな思いを家族にはさせず、事前に筋道をつけて安心したい。すでに家族には考えを伝えてある、とのことでした。

生前贈与の活用事例

Y様からご相談を受けた、無税で財産を家族に移転する手法とは、次のようなカラクリになっています。
 先ず奥様については、「住宅等についての税金の特例」を利用したケースになります。これは、婚姻期間が20年以上の配偶者から居住用の家屋又は土地やその取得資金を生前贈与する場合には、贈与財産から配偶者控除として2千万円を控除することができる、というものです。
 結婚後40年以上経過しているY様ご夫婦につきましては当然その対象となりますので、2千万円以内であれば無税で名義変更することができます(ただし、不動産取得税や登録免許税はかかりますのでご注意ください)。夫婦間における居住用財産の贈与については、結婚後20年経ってからが断然有利、と覚えておいてください。
 一方お二人の娘さんについては、「相続時精算課税制度」を利用したケースになります。
 この制度は、20歳以上の子、孫(贈与を受ける側)が60歳以上の父母、祖父母(贈与をする側)から受ける贈与について、贈与財産価額2500万円を限度として無税になる、というものです。
 あくまでも単純計算になりますが、奥様2千万円+娘様二人5千万円=合計7千万円の財産が、Y様の生前に無税でご家族に移転できることになります。

ポイント解説
「相続時精算課税制度」の仕組みを理解しよう!

相続時精算課税制度は、平成15年に新設された相続税と贈与税を一体的に考えた制度です。この時から、贈与税の課税方法は、暦年贈与と相続時精算課税制度の二つに分かれました。暦年贈与は、年間110万円以下であれば自分の財産を無税で相手方に贈ることができるもので(110万円を超える部分については、10%~最高55%の税率で贈与税がかかります)、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
 これに対して、相続時精算課税制度は、生前に贈与した財産について累積で2500万円までは無税で前渡しすることができる制度です。なお、2500万円を超える部分については、一律20%の税率で贈与税がかかることになります。
 ここで、Y様からの相談内容に沿って、その仕組みについて要点を解説してみようと思います。

 

(1)60歳以上の父母、祖父母(財産を贈与した人を「贈与者」といいます)から20歳以上の子、孫(財産の贈与を受けた人を「受贈者」といいます)への生前贈与について選択できる制度です。
 ⇒60歳以上の父Y様(贈与者)から、20歳以上の娘さん(受贈者)に生前贈与

(2)無税で贈与できる限度額(非課税枠)は2500万円で、贈与者である父母、祖父母ごとかつ受贈者である子、孫ごとに設定できます。
 ⇒Y様の長女と二女、それぞれについて2500万円の非課税枠:計5千万円

 

(3)非課税枠を超える部分については、一律20%の税率で贈与税がかかります。
 ⇒Y様のケースは2500万円の非課税枠の範囲で生前贈与を予定しているため、贈与税は0円

(4)「精算課税」という名称どおり、生前に贈与した財産を、その後の相続時に財産に再度合算し相続税を計算し、既に納めた贈与税を差引き精算することになります。
 ⇒Y様のケースにおける税額計算例

  • Y様が生前贈与した財産……A
  • その時に相続時精算課税制度を選択し支払った贈与税……B
    A-非課税枠2500万円〕×20%=B(贈与税額)
  • その後Y様の死亡により相続が発生した時の相続税……C
    〔Y様の相続財産+A(※)〕×相続税率-BC(相続税額)

なお、今回のケースではBの税額がゼロになるように生前贈与する予定です。

上記の計算例の中で特に注目すべきは、Y様の相続が発生した時に再度合算される財産A(※)は、生前贈与した時の価値をそのまま引き継ぐという点です。つまりは、値上がりする見込みのある財産、例えば土地や優良企業の自社株などについて相続時精算課税制度を選択することで値上がり前の財産価値をもとに税額計算できるため、値上がり分の相続税を回避できるという有効な節税を図ることができるのです。

(5)贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの確定申告時期に、一定の書類を添付して贈与税の申告書を税務署に提出する必要があります。
 ⇒Y様の長女と二女(受贈者)は、贈与税が0円であっても相続時精算課税制度を選択するためには申告の必要あり

(6)一度相続時精算課税制度を選択すると、二度と110万円控除の暦年贈与は使えない。
 ⇒長女と二女(受贈者)は、今後Y様からの生前贈与を受けた場合、相続時精算課税制度により税額計算をすることとなり、暦年贈与は選択できない(ただし、Y様以外からの贈与については、暦年贈与の選択は可能)

以上のように、この制度は内容の複雑さ、どんな財産に適しているのか、どのようなタイミングで選択すればよいのか、等々分かりづらいために利用する人が少ないように思います。しかし、特例を上手く使うことで、将来の相続税軽減や相続時のトラブルを未然に防ぐための一手になるのではないでしょうか。
 なお、贈与税・相続税の特例については、その適用要件の可否や申告手続きが複雑なため、必ず私ども専門家に事前にご相談ください。弊社には、相続税・贈与税の専門税理士が複数名在籍しておりますのでご安心いただけます。

会社や個人と家族の税金

私どもは日頃より、事業活動を営む会社様や個人事業主様に関する法人税、所得税を中心に税務会計サービスをご提供しております。これらの税目は、どちらかというと決算期毎の対応、つまりは1年間という短いスパンで税務相談に臨み対応をすることになります。
 ところが、Y様からの相続税、贈与税の相談は、5年、10年、15年…と中長期にわたり、かつY様ご本人はもとよりそのご家族にも影響するものなので、前者とは違う目線で物事を捉え将来を見据えたアドバイスをする必要があります。
 事業活動の過去の記録である税務会計データも大切ですが、オーナー社長個人やご家族に関する様々な税金についても複眼的に目配りすることを忘れず、お客様に安心をお届けし、ご満足していただくことを肝に銘じようと思います。今回のY様からのご相談は、それを再認識する良い機会になりました。

税務総合戦略室便り 第83号(2016年10月01日発行分)に掲載

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