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元国税調査官のひとりごと 第24回 
税調査官のある一日

第83号(2016年10月01日発行分)

伊藤 徹也

ある国税調査官の一日を書いてみたいと思います(フィクションです)。私は、税務署の法人担当、特別調査部門(大口の課税漏れが見込まれる事案を数名で取り組む部署)に配属された国税調査官です。今日は、無予告による税務調査に行く初日です。

1 事前準備

今日調査に行く先は、地元では有名な餃子専門店、いつ行っても行列ができている繁盛店です。仕事帰りや休日に何度も何度も通いました。最後には、店の奥さんに顔を覚えられてしまい、帰りがけに「いつもありがとうね」と声を掛けられるほどになってしまいました。

2 仕事柄つい数えてしまう

店に行くときは、仕事柄入店時間、出店時間、来客数、顧客平均単価などをつい頭の中で数えてしまいます。
 あんなにはやっているのに申告の売上、少ない気がするとは漠然と思っていましたが、ある日、先輩と交代しながら、開店から閉店まで、客数をカウントしました。平均的な単価から推計すると、売上、半分くらいしか申告されていない気がします。赤字申告でしたが、赤字を埋めてもなお所得が見込まれるくらいです。

3 選定からの調査着手

そこから、過去7年分の申告を横に並べて分析しました。今まで店に通った事績も集計して一覧表にしました。さらに、漏れていると思われる金額まで推計してみました。
 統括官から、「絶対追徴が出るのだろうなあ」などとプレッシャーを受けながら、緊張の調査着手。
 奥さんからはすごい眼で睨まれながら、社長(婿養子)から概況を伺いました。
 毎日の仕込みは、会長(父親)、焼きが社長、接客は奥さんと妹、レジは開けっ放しの銭箱状態で、売上は伝票という名のメモ用紙に正の字を書いたもの。
 レジ周りの現況調査、社長の車のダッシュボード、二階の倉庫の他、カバンの中身まで確認しました。
 何も出てきません。焦りも出てきました。奥さんには「なんでここまでするの」と泣き出されるし、統括官の「絶対追徴が出るのだろうなあ」の言葉がよぎります。

4 キーマンは会長

少し落ち着こうと思い、たばこを吸いに外に出ました。
 灰皿の場所には先客の会長がみえましたので、「いまだに仕込みは会長がなさっているのですってねえ大変ですね」と話しかけてみる。「もう40年やってる。まだ婿には任せられない。」とおっしゃっていました。天候や曜日によって仕込み数も水の量も変わるそうで、40年もやっていると売れ残りは一割以内しか出ないと豪語されていました。
 廃棄ロスが一割以内はすごいなあと思っていると、奥の倉庫から、古びたカレンダー10冊ほど持ってきました。そこには過去10年分の毎日の仕込み数が書かれていました。
 慌てて厨房に掛けてあるカレンダーを見てみるとそこにも日々数字が書かれています。ちなみに本日の仕込み数とも一致。廃棄ロス一割引けば、売上数出せてしまいます。
 やはり売上は半分くらいしか上がっていないことになります。

5 社長の説得

そこからは、社長と奥さんの説得です。苦戦しました。知りたいのは除外した売上金の使い道です。奥さんは、使い道どころか売上除外をがんとして認めようとしません。
 長期戦も覚悟しました。銀行調査に備えて、社長に家族の住所、氏名、生年月日を再度確認しました。長男は私立の医学部五年生で、他県に下宿しているそうです。そこまで話して、社長は私から目をそらしたので、「会いに行っていいですか」言い終わらないうちに「すみません」と……勝負あったという感じです。
 息子名義の預金通帳、出てきました。
 奥さんは、それでも認めようとしません、社長が、売上除外のお金を長男に仕送りしていることを認めたと話しても駄目でした。
 ずっと泣いていて、少し様子がおかしく、あまりにかたくななので、場所を変えて、社長をさらに問い詰めてみました。
 おまけは社長の特殊関係人。奥さんきっと感づいていたのでしょうね。
 税務調査では時折、思わぬ人間関係のドラマを見ることがあります。

税務総合戦略室便り 第83号(2016年10月01日発行分)に掲載

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