税務総合戦略室便り

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配偶者の税金

第83号(2016年10月01日発行分)
元国税調査官・税理士
黒崎 俊夫

1 相続税編

残された配偶者の老後の生活安定を図り、かつ故人の財産形成における配偶者の寄与度を考慮する意味で、相続税には配偶者税額軽減という規定がある。配偶者が相続した遺産1・6億円または遺産額の法定相続分(通常1/2)までは税額控除により相続税がかからないとするものである。
 先日発表された「民法の改正に関する中間試案」では、配偶者の法定相続分を現行の1/2から2/3に引き上げる案が提起されていた。配偶者の財産増加に対する寄与度を加味する案や、一定の婚姻期間経過した場合に引き上げる案などもあり未確定だが、もし引き上げられるとすると昭和55年に従来の1/3から1/2に引き上げられて以来30数年ぶりの改正となる。それに伴い、当然相続税の税額軽減割合も増加することになろうが、将来の二次相続における税負担を考えると、配偶者控除を枠一杯適用するのが必ずしも得策でないことが多い。  例えば夫Aの遺産3億円(債務等控除後)、妻B固有の財産5千万円、子供CD2人とする。

ⒶA死亡時の相続税計算

Aの遺産額3億円に係る相続税額は①5720万円(配偶者者控除適用前の相続税総額。計算過程省略)
ここで妻Bが配偶者控除枠目一杯適用できる1・6億円を相続したとすると、控除額は①÷3億円×1・6億円=②3050万円となり、最終納税額は①-②=❶2670万円となる。

ⒷB死亡時の相続税額

次にA死亡後、BがAから相続した財産を何も費消せずに死亡した場合のBの遺産額はB固有の財産5千万円に1・6億円を加算した2・1億円になる。
2・1億円に係る二次相続税額は❷3640万円(計算過程省略)
ⒶⒷの合計相続税額❶+❷=❸6310万円

Ⓒ一方一次相続でBが何も相続しなかった場合

一次相続税は❹5720万円
Bが5千万円だけ残して死亡した場合の二次相続税額❺ 80万円
合計額❹+❺=❻5800万円
従って❸と❻の差額は510万円となり、一次相続で配偶者控除を使わずにBが何も相続しなかった方が510万円税額で有利となる計算となる。

B固有の財産額如何等で結果が異なるケースもあるが、二次相続を考えると配偶者控除を目一杯適用しない方が有利なことが多い。二次相続では法定相続人の数が一人減ることと、それに伴い税率の累進度が高くなることが原因である。しかし、残された配偶者のその後の生活を考えるとどうだろう。目先の税額にとらわれず、今後値上りが予想される同族会社株式は子供に、金融資産は配偶者にといった相続が現実的と思う。

2 所得税編

103万円の壁という言葉がある。パート収入が103万円を超えれば夫の所得税の配偶者控除が使えなくなるから収入はそれ以下に抑えるべしという鉄則?である。多少の超過なら配偶者特別控除が適用されるから(夫の所得一千万円以下)それほどの負担増はないのだが、パートで働く女性の60%以上は103万円の壁を意識して労働時間を調整しているらしい。それよりも現行の配偶者控除に代えて、共働き夫婦でも控除できる「夫婦控除」を導入しようとする動きに注目したい。導入されれば103万円の壁など意味がなくなってしまう。
 他方、130万円の壁というのもある。それは130万円を超えると夫の社会保険の被扶養者資格を失うため、パート先の社会保険に加入義務が生じ、保険料を負担しなくてはいけないから収入は130万円内に抑えるべしというものである。超えると厚生年金や健保保険料として最低年間10数万の出費となる。厚生年金は将来戻ってくるとしても、健康保険の方は余計な出費かもしれない。
 なお、この130万円の壁は、この10月から従業員数501人以上の企業で働く場合、週20時以上で1年以上勤務見込の者は、年収106万以上で社会保険加入義務が生じることとなった。つまり130万円の壁が106万になるわけだ。パート勤務者の中には、勤務時間を減らした方が得と考える人もいるだろうし、会社としても社会保険の負担を考えて採用を考えるようなケースも当然あるだろう。
 だが、それでも保険料は労使折半。そもそも税金や社会保険のことを考えて働き方を調整するのは本末転倒ではなかろうか。

税務総合戦略室便り 第83号(2016年10月01日発行分)に掲載

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