最近は「パナマ文書」の問題もあり、タックス・ヘイブンに注目が集まっていますが、今回は、タックス・ヘイブン対策税制(TH税制)について、お話しします。
TH税制は、タックス・ヘイブンを利用した租税回避行為に対処するために創設された税制であり、同税制が適用された場合、タックス・ヘイブンに子会社等を有している内国法人や居住者は、その子会社等の所得を自分の所得として合算し、申告しなければなりません。移転価格税制(TP税制)は法人にのみ、TH税制は法人と個人の両方に適用されます。
具体的には、内国法人等による合計の出資が50%超の子会社等が、実効税率が20%未満の国又は地域にある場合には、「特定外国子会社等」として原則としてTH税制の対象となりますが、子会社等に事務所等の実体があったり、管理が子会社自身により行われるなど「適用除外要件」をすべて満たしている場合には、子会社等の存在に経済的な合理性があるとして、同税制は適用されません。
税法は、納税者の予測可能性、すなわち、どのような場合に課税され、どのような場合には課税されないかを担保するため、明確に規定されなければならず、TH税制においても、出資割合が50%超とか、実効税率が20%未満とか、具体的な数値で規定しています。そのため、これまで挑戦的な納税者は、これらの数値等をクリアすることにより同税制の適用を免れようとし、税務当局は、後追いで税制改正によりこの抜け穴を塞ぐということを繰り返してきたという歴史がTH税制にはあり、これは同税制の宿命とも言えるものです。
例えば、当初50%という出資基準が設定されていた時には、議決権を有する株式は50%超保有するものの、全体の出資割合は50%以下に抑えたり、また、納税者の要望により適用する税率を決定する(「デザイナーズ・レート・タックス」といいます。)国等を利用して、TH税制が適用されない税率を選択するなどし、TH税制を免れることが行われ、これに対して所要の税制改正が行われてきました。
私が国税庁に勤務していた1980年前後、大蔵省(現在の財務省)で国際課税に関する税制等の作成を行っていた部署とは、国際課税に関していろいろな話をする機会がありました。
当時は、今のように、実効税率を基準にタックス・ヘイブンを判定しておらず、その国の税制等を検討したうえで、特定の国又は地域をタックス・ヘイブンとして指定する、ポジティブ・リスト方式(又はブラック・リスト方式)という方式をとっていましたが、先進国をタックス・ヘイブンのリストに載せる場合には、仁義を切るために、海外出張して相手の税務当局にその旨を説明することにしていたようです。
その部署の職員から、ヨーロッパにある先進国をタックス・ヘイブンに指定するために説明に行ったところ、相手側担当者から「同じような税制をとっている国はヨーロッパにはほかにも沢山ある」との猛烈な反論を受けたとの話しを聞いていましたが、その後リストに載せることはできず、TH税制のほかの部分の改正で対応したようでした。
現在の日本の実効税率は約30%であり、TH税制は実効税率が20%以上の国等にある子会社等に対しては、同税制を適用しないという仕組みをとっていることから、その差である約10%の金額については、節税として認められているものと考えられ、法人が「外国子会社配当益金不算入制度」を利用すれば、配当の95%の金額については課税を受けることなく日本に資金を還流することも可能です。
しかしながら、7月1日付日本経済新聞の朝刊によれば、「財務省は20%未満という税率基準をなくし、所得の種類によって課税の有無を判断する仕組みに切り替える」などとの報道がなされ、今後のTH税制の先行きが不透明となっており、現在の税制を前提に長期間にわたるスキームを構築する場合リスクを伴う可能性があるように思われます。
税務総合戦略室便り 第82号(2016年09月01日発行分)に掲載
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