法務局が次のような新サービスを開始するということである。
まず人が亡くなり相続が発生したときに、相続人全員の本籍、住所、生年月日、続柄、法定相続分等を記載した書面を作成し、全相続人の戸籍簿と被相続人の出生してから亡くなるまでの戸籍簿を法務局に提出すると、法務局が内容を確認し、法定相続情報として証明書を作成し、その写しを相続人に発行するというもので、来年5月からの開始を予定している。
この証明書の写しを、銀行、証券会社等の金融機関の被相続人口座の名義変更その他の手続きに使用できるようである。
法務局がこのサービスを開始する目的としては、単に金融機関等の手続きを簡単にするというものではなく、田舎の土地を相続しても名義変更しないことがよくあり、地域の開発の支障をきたしている現状があるため、登記手続きを軽くすることで相続登記を促す目的があるとのこと。
この制度が実現したら、かなり便利になるだろう。
現状では、金融機関の口座の名義変更をするために、相続人が戸籍謄本をその都度出すという煩わしさから解放される。
金融機関の方も、被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍簿を丹念に確認する手間が省けるので大歓迎だろう。
行政機関への提出はどうなるのだろうか。
国税においては、例えば相続税の申告書には、「戸籍の謄本で被相続人のすべての相続人を明らかにするもの」を添付するよう規定されている。
これについても、法定相続情報が使用できるように改正して欲しいものである。
相続税の申告書に添付した書類は、戸籍謄本も含め、いったん提出されると返還されないので、その分、他の手続用とは別に入手しておく必要があるのだが、新サービスが利用できるようになれば便利になる。
被相続人の出生してから亡くなるまでの戸籍簿を入手するということは、なかなかの手間になる場合が多い。
人は、結婚、養子縁組、本籍の転籍等により戸籍が異動するため、それらを途中で途切れることなく入手する必要がある。
現在の戸籍謄本は、電子化されていて、各市町村でデータ保存されている。証明書も謄本ではなく全部事項証明書という名称になっている。
この全部事項証明書には電子化以降の記載しかないため、それ以前のものは、従来同様の戸籍謄本を集めるほかはない。
更に、相続人全員の戸籍簿も集めなくてはならない。
ということで、法務局から法定相続証明を発行してもらうための登録には、従来と同じ手間がかかる。これは当たり前のことではあるのだが。
先々代以前何代にもわたって相続登記がなされていないため、手が付けられない状態になっている土地が少なからずあるようだ。
その土地が地域の開発にかかったり、売却しようとした場合に、現在の所有者を特定するまでの相続登記の作業が必要となる。
それが、とてつもなく困難な作業になることもあるようだ。
例えば、登記簿に記載されている亡所有者の相続人が何人かいるが既に亡くなっている人もいる。その相続人も複数いて、住所が全国バラバラに散っている。外国にいる者もいて、連絡がつかなかったりする。
そもそも分割協議が交わされたか不明である。
それらの全員(数十人から百人以上の場合もある。)を洗い出し、趣旨を説明し協力を依頼することになるが、当然、協力しない人も出てくる。中には怖い人もいたりする。
連絡や話合いは、電話や手紙だけでなく、直接の話合いも必要となるだろう。
こんな作業を何年も地道に粘り強く行い、やっとのことでとりまとめて登記に漕ぎ着けることになるのである。
このような作業は、一般人には、時間的にも技術的にも到底無理なことで、専門業者に依頼するしかないだろう。
それについては、相当の対価が必要となるのは当然である。
このような場合に、今回の標題の法定相続情報の証明書が、作業の軽減化にどのように役立つのだろうか。
税務総合戦略室便り 第81号(2016年08月01日発行分)に掲載
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