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国際課税の話(その2)

第81号(2016年08月01日発行分)

立石 信一郎

1980年代に行われた、日本の自動車会社に対する米国内国歳入庁による移転価格課税が巨額なものとなったのは、調査対象となった、日本から米国への自動車の輸出取引の金額が巨額であったせいもあるのですが、移転価格課税の特殊性や米国独特の税制などにも大きな原因がありました。

なぜ移転価格課税に時間がかかるのか

国際課税の世界では、「移転価格は芸術(art)である」という表現がよく使われます。
 これは、移転価格において、取引価格が高い、または安いという場合、何と比較してということになりますが、資本関係等がない第三者間における取引価格、すなわち、恣意性が入らない取引価格と比較してということになります。これを、「独立企業間価格」といい、これを見つけ出すのに非常に時間がかかります。なぜなら、取引価格は、商品の種類、取引される市場、取引条件等によって変わり、同様な取引は簡単には見つからず、似たような取引があったとしても、様々な差異があるのが通常であり、価格に影響を及ぼすような差異については、取引価格の調整を行わなければならず、まさしく現実の世界には存在しない、比較可能な「独立企業間価格」を作り上げるという芸術的な作業が必要となるのです。
 そのため、日本における更正処分の期間制限は、移転価格課税については、通常の5年よりも長い6年に延長されており、通常移転価格に関する更正処分は複数年分を対象として行われます。

日米間における税制及び執行体制の違い

米国内国歳入庁による更正処分金額が巨額なものとなった原因については、日本とは異なる三つの要因がありました。
 まず一つ目は、米国にも更正処分には期間制限がありますが、納税者が同意すれば、期間を延長することができ、自動車会社が延長に同意したため、更正処分は10年以上の期間を対象として行われました。当時なぜ延長に同意するのか疑問に思いましたが、同意しなければ、乱暴な更正処分を受けるため、同意せざるを得ないようでした。
 二つ目は、納税が遅れたことに対するペナルティーである延滞税の計算方法の違いがあります。現在は制度が変わっているようですが、当時は延滞税に係る利率が高い上に、半年複利で算出するため、大きな金額となり、法人税本税よりも延滞税の方が金額が大きくなったように記憶しています。
 三つ目は、税務調査体制にあり、日本においては、同じ調査官が長期間ずっと同じ会社の調査に従事することは通常ありませんが、米国においては、調査が終わるまで、5年でも10年でも同じ調査官が担当するようで、一旦振り上げた拳はなかなか簡単には降ろさず、目を付けられたら、調査が長期化するとのことでした。

二重課税と相互協議

移転価格課税が行われると、同じ所得に対して二ヶ国で課税された状態になり、国際的な二重課税が発生します。国際的な二重課税が発生した場合には、審査請求や訴訟などの国内法上の救済手続きのほか、当該二国間において「租税条約」が締結されている場合には、税務当局間での相互協議による解決を求めることができます。そして、協議により合意に達した場合には、更正処分金額の減額や他方の国において当該更正処分金額の還付を受けることにより、二重課税が解消されます。
 この相互協議を担当していたのが、私が所属していた部署であり、最終的には協議を通じ、米国内国歳入庁による巨額の更正処分金額を大幅に減額することができましたが、それでも1社当たりの更正処分金額は大きなものでした。ただ、この更正処分金額を自動車1台当たりに換算すると、ほんのわずかな価格の違いでしかなく、そのような課税を行う米国の移転価格課税に違和感を覚えました。

次号について

移転価格については、国税庁での4年間の勤務を終えた10年後に、移転価格調査等に従事することになりますので、しばらく号を置いて、また詳しくお話しすることとし、次回は、タックス・ヘイブン対策税制の話しを予定しています。

税務総合戦略室便り 第81号(2016年08月01日発行分)に掲載

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