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元国税調査官のひとりごと 第20回 
血しぶきを浴びる

category: 法人税所得税
第79号(2016年06月01日発行分)

伊藤 徹也

今回は、国税時代の経験の中でも、忘れられない体験談をお話しします。 北京オリンピックを控え、中国での金属需要が高まっていた頃で、金属取引の業界は、空前の好景気となっていました。 そんな経緯で、金属の買取業者に税務調査で伺った時の話です。

1 判取帳

この業界は、昔からの慣習で、判取帳といわれる台帳で、仕入代金の受領確認をしています。代金と引き換えに、住所氏名を記載するのですが、この業界、判取帳の記載が結構いい加減なのです。  名字だけだったり、ありもしない住所・屋号が書いてあったり、そもそも何が書いてあるのか読めなかったり、これでは、誰がいくら受け取ったかなんてわからなくなってしまいます。

2 業界特有の不正

判取帳を使う商習慣から、仕入先がわかりにくいこともあり、金属を持ち込んだ人(建設業者や、解体業者等)は、そのお金で帰りにみんなで一杯飲んでしまって、会社の収入に計上されない事例が多くありました。  それでも、それほど多額になるわけでもなく、税務当局も、さほどクローズアップするほどのことではありませんでした。  ところが、オリンピック前の建設ラッシュで、金属価格は跳ね上がり、取引金額も多額なものとなっていきました。

3 架空取引からバック

これだけ相場が上がるとよからぬことを考える人は必ずいるもので、その買取業者Aの専務は、仕入れてもいないのに仕入代金をBに払い、BはC、CはDと5人くらいの業者に順に支払いがあるのですが、途中から住所もいい加減で、所在を確認することも困難になってきます。最後は「かぶり屋」と呼ばれる者が、申告漏れを自白するという図式ですが、そこにたどり着く途中、怒鳴り散らす人や、泣き落としに来る人など色々な方がでてきます。  本件は、3業者目のDさんが、落ちそうだったので3回訪問して、説得を繰り返したのですが、やっと架空取引のCへのバックを認めました。そこから、C・Bに戻り説得、担当署にBの税務調査にも入ってもらいました。  徹底的に調べた結果、その他にも仮名取引などの不正加担や、Bの問題事項も多数認められました。  自社の問題事項も見つかり、BもA社の架空取引を認めることになったのですが、B・Cは、架空の仕入と架空の売上を計上して、1取引数万円程度の差益を得ていただけで残りはすべて、A社専務にバックしていたのです。Dは、無申告の個人事業者で、自分のところまでたどり着かれたことに驚いていました。

4 ここで認めておけば

先ず、専務に自ら不正を認めて、社長に報告するように話したのですが、この期に及んで激しく抵抗するので、社長に直接話をすることにしました。  専務は、社長の二男、やっていないと言えば何とかなると思ったのでしょうか。 社長の耳にも、得意先への反面調査の報告がいくつか入っていたようで「家は何も悪いことはやっていないのに、なぜ執拗に調査するのか、今まで色々と協力してきたのに、嫌がらせを受ける覚えはない」と声を荒げています。

5 凄惨な現場

ここで、今まで確認してきたこと、その結果専務が指示し、架空仕入れを計上し、支払の大半をバックさせていた事実を説明したところ、目を閉じてじっと聞いていましたが、目を開いたときには、「失礼なことを言いました。お手数をおかけして申し訳ありませんでした。」と深々と頭を下げられました。 専務は、「そんなのウソだ、証拠を出せ」とかいいながら、ニヤニヤしていました。 社長は、肩を落としていましたが、突然立ち上がり、専務を殴り倒しました。 胸ぐらをつかみ「お前というやつは」と言ったきり、何度も殴りつけました。社長室には、すさまじい量の血しぶきが飛び散り、凄惨な光景になっていました。 慌ててみんなで止めたのですが、人一倍自分を厳しく律してきた社長だけあって、普段穏やかにしていても激しい本音を見せられた気がしました。後継者の考えの甘さに腹が立ったのだと思います。 それにしても、血しぶきを顔に浴びたことはこれが初めてでしたが、もう二度としたくない経験です。

税務総合戦略室便り 第79号(2016年06月01日発行分)に掲載

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