国内で多くの従業員(パートタイマー)を雇い電子部品等の組み立て(下請け)を行う産業の多くは、日本の産業が空洞化していった90年代に入ると衰退してしまいました。
それにより、パート人件費を巡る税務リスクを抱える法人を見かけることは少なくなりました。その後、企業活動のグローバルな展開の過程で、逆に、地産地消の考え方が企業に浸透したことが背景となって、日本で販売される商品は日本で開発・製造しようとする動きも出ています。
このため、そこで働くパート従業員(その多くは従前と同様に主婦が占めている)に支給する人件費を巡る税務問題を今でも見ることができます。
時代は変わって、現在のパートさんは人件費が安いだけの、単なるコストカットが目的の、従業員ではありません。企業にとっては利益を稼ぐ、熟練した戦士なのです。
パート人件費を巡る税務問題の根源の多くは、(1)給与所得の計算方式と課税、(2)扶養手当の支給と配偶者控除の適用及び(3)社会保険料の負担にあります。
国税局に採用されて、3か所目の税務署に勤務した30歳代前半、パート職員を巡る税務問題をターゲットに調査を繰り返したことを思い出します。
当時、売上げ除外や架空外注費と並ぶ製造業の大きな「要税務調査対象項目」だったのです。主婦を中心とするパート人件費問題の多くは、上記(1)の「給与所得の計算方式と課税」にあります。給与所得控除額65万円+基礎控除額38万円=103万円を超えると、給与所得に対する課税が発生します。
そうすると、ご主人の給与支給額等に(2)「扶養手当の支給と配偶者控除の適用」の可否問題が派生します。だから、それを避けたいパートさんと、納期を守るために長時間働いてもらいたい法人との間に葛藤が生じるのです。
80年代、税務署所管の法人には、多くの電子部品等の組み立て加工下請け業者がありました。そうした法人の一部は、やむを得ず対策を施していました。
それは税務リスクの高い対策でした。退職したパートさんや近所の知人の名前を借用して、人件費を支給したことにしたのです。こうして捻出した資金を元手に長期間働いてもらったパートさんに別途人件費を支給しました。パート人件費の多くは現金で袋詰めされ支給されていた時代背景もあって、容易におこなえたのです。
また当時は、東北地方に大手事業者の製造工場がありました。その下請け先である組み立て加工業者も東北地方に進出していたのです。こうした地方においても同様に借名での人件費支給は行われていたのです。
では、税務署はどの様に調査するのか、岩手県の某市に出張した時を例に掻い摘んで話します。工場でも、数百名のパート従業員を雇用していました。基本的にはタイムレコーダーの出・退状況と工場の配席図等を基に検討します。もちろん、扶養控除等申請書などの書類の有無や筆跡を見ます。
この時は、タイムレコーダーの出勤時間と退社時間を見ていくと、ある一定の傾向のあるパートさんの存在が目に付きました。そう思って見直すと、どうやら勤務実態のなさそうなパートさんが多く浮かび上がりました。
そこで、先ず某市役所に行って住民税の課税状況等を確認しました。次に、ある地域をターゲットに反面調査を繰り広げました。某市の住民の姓は阿部・佐藤といった特定の姓の人が多いのです。ある地域も、佐藤さんばかりで屋号を知らないとたどり着けないので苦労しましが、調査の結果、多くの勤務実態のない人(借名)に支給した給与が見つかりました。
今でも中小法人の中には、このパート給与問題に悩んでおられる社長さんが居られると思います。当時を振り返り、社長さんのご苦労に、胸が痛くなる思いがします。
今では、パート労働は企業を支える経営資源ですから、更に大事にしたいものです。
税務総合戦略室便り 第79号(2016年06月01日発行分)に掲載
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