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税務総合戦略室 室長通信 第四十六回 
課税の公平について考える

第79号(2016年06月01日発行分)

執筆者1

パナマ文書について

国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が公表した「パナマ文書」が国際的に大きな波紋を広げています。
 パナマの法律事務所モセック・フォンセカから流出したこの内部文書には21万社を超える企業の株主や取締役などの情報が書かれており、各国首脳などの政治家や富裕層が、税率がゼロもしくは極端に低いタックスヘイブン(租税回避地)を利用して蓄財や金融取引を行っていた実態が暴かれています。
 今回、数多くの報道が行われていますが、なぜタックスヘイブンを利用すると問題なのかについて、きちんと触れられていないことが多いように感じます。
 タックスヘイブンに会社を設立したり口座を保有したりしていけないわけではありませんし、租税回避地を使った取引そのものが違法なわけではありません。タックスヘイブン地域は多く、利用している企業・個人も膨大にいます。今回は、その中のパナマの一法律事務所から、ごく一部の情報が明らかになったにすぎません。
 タックスヘイブンを利用したとしてもきちんと納税していれば特に問題はないわけで、日本(だけでなく各国)の課税当局の目が届かないことを利用して海外で得た収益を不正に免れた場合にはじめて脱税になるわけです。
 パナマ文書で名前の挙がった日本企業も記者会見で軒並み「租税回避目的ではない」「利益が出た場合には日本の税制にのっとり適正に納税している」「ビジネスのための投資・出資である」とコメントしています。
 パナマ文書に記載されていただけで犯罪者のように扱われている記事を目にしますが、問題の本質は、一般市民がこれまで漠然と、大企業や富裕層など一部の人達が複雑なスキームを活用して「うまく税金を免れているのではないか」と、そこはかとなく感じていたことが表面化したことにあるのではないでしょうか。
 報道を目にした国民が不公平感を感じ、真面目に納税するのが馬鹿馬鹿しいという気持ちになれば日本の税制は破綻してしまいます。
 中国やギリシャなど、納税意識が低いと言われているような国と日本が同じレベルになってしまうのは残念なことです。

不公平感の是正

全ての人にとって公平な税制というのはあり得ません。
 多くの人はとにかく自分の税金は安くしたいと考えます。その上で税金は「金持ちからできるだけ多くとればよい」という論調が強くなってきているように感じます。
 税制改正も選挙を意識してか、少数の富裕層には重税を課し、数の多い大衆に迎合する方向にあります。
 人の何倍も苦労し、リスクを負ってきた成功者は、あまりにも高い所得税・相続税に嫌気をさして海外移住海外移住を視野に入れ、また実行します。
 優良企業も国際競争力の観点から税コストを最小化することを考え、海外進出します。
 そもそも税率を低く設定している国は投資や外国企業を誘致する目的、つまり国策で税金を安くしているわけで、その結果として合法的に税の恩恵を受ける人がでてきます。
 これを不公平だとするならば、すべての国の税制や税率を同じくするしかありませんが、それは無理な話です。
 今回の「パナマ文書」報道では、このような租税回避によって被害をこうむるのは一般市民であり、税源が税金の安い国に移動すれば、国は本来の税収を確保できず、財源が圧迫され増税や社会保障費の増大ということになってしまうと言われています。確かにそのとおりですが、どこの国に住むのか、どこの国でビジネスを行うのか、それはそれぞれの方の自由です。
 海外を活用した結果、合法的に税金が安くなっている人を非難するのではなく、本来の意味で違法に税を免れている人を捕捉することが税の公平につながるのではないでしょうか。
 現在の法人実地調査率は4%程度、100件申告があった内4件しか調査をしていないということです。ほとんどの法人は調査できないという現実があるのです。
 さらにそもそも申告をしていない法人や個人、いわゆる「無申告」が一番悪質なわけですからその部分をしっかり調査しなければいけません。
 税法の時効は7年ですから、海外を使って税逃れをしたり、国内取引でも売上除外や架空経費など悪質な脱税を行っていたりしても、7年間隠し通せば「お咎めなし」になってしまうのです。
 税務職員のマンパワーを考慮して、税務調査の優先度を考えれば、大きな問題のない会社に対して三年一巡で調査を繰り返し、重箱の隅をつつくような指摘をしている場合ではないのです。

税務当局の取り組み

国税庁は「適正・公平な課税」を使命として掲げています。現状、日本の税務当局が租税回避地などを利用した脱税に対応するすべは「租税条約に基づく情報交換制度」しかありません。自国の領域外において公権力を行使することができない「執行管轄権」の問題があるため、日本の税務職員が直接外国に出張して現地の会社を調査することはできないからです。
 しかし世界の国の中にはあえて情報交換のネットワークに参加しない国もあり、全ての情報を把握することは困難です。
 この問題に対応するため納税者本人から自主的に自己の国外財産保有について申告を求める仕組みの「国外財産調書制度」が導入されました。
 国外財産調書制度とは、その年の12月31日において、5千万円を超える国外財産を有する居住者は、翌年3月15日までに当該財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を税務署長に提出しなければならないという制度です。
 誰もが「そんなもの本当は出したくない」と思う個人情報を出させようとするわけですから、適切な提出を確保するために以下のような措置が設けられています。

  • 加算税の軽減措置……調書を期限内に提出した場合には、記載された国外財産に関して所得税・相続税の申告漏れが生じたときであっても、その国外財産に係る加算税を5%減額する(アメ)。
  • 加算税の加重措置……調書の提出がない場合又は提出された調書に国外財産の記載がない場合には、その国外財産に関して所得税の申告漏れが生じたときには、その国外財産に係る加算税を5%加重する(ムチ)。
  • 罰則の適用……正当な理由なく期限内に提出がない場合又は虚偽記載の場合に、1年以下の懲役または50万円以下の罰金(厳罰)。

この制度の恐ろしいところはまだ脱税をしているわけではないのに、調書の不提出に懲役刑という罰則を適用するところです。税務当局の本気度を感じます。
 今のところ国外財産調書の不提出によって懲役刑を科されたという報道は目にしたことがありませんが、今回の「パナマ文書」に関連し初の罰則適用が行われる可能性が高いのではないかと推測しています。

税金はすべての人に公平ではない

誰もが税負担はできるだけ少なくしたいと考えますが、脱税には躊躇します。
 結局のところ、すべての個人と法人に税務調査を実施することは不可能なのですから、最終的には個々人の納税意識の高さが税収を適正に確保するための頼みの綱となります、
 ところで、法の範囲内で可能な限り知恵を使い税金を最小化させることは何の問題もありません。税逃れと節税は明確に区分すべきです。
 そして、税金はすべての人に公平ではありません。情報を集め、知恵を使った人だけが最大限にメリットを享受できるのです。
 様々な税務対策に関する情報が巷にはあふれています。それらの情報をせっかく入手していても、考えることが面倒で先送りしているか、情報を生かし切れていない方が多いようです。何年も経ってから「あの時やっておけば」と後悔しても後の祭りです。
 私達『税務総合戦略室』ではお客様の税金に関するあらゆる事柄は丸投げしていただき、本業に集中していただくことを目指しています。
 これからはお客様自身で忙しい本業の傍ら税金のことまで頭を悩ませる必要はありません。私達は複数の専門家の知恵を結集して、お客様に合致した税務対策を能動的にご提供し続けてまいります。

税務総合戦略室便り 第79号(2016年06月01日発行分)に掲載

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