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税務調査から学ぶ 第二十八回 
「推計課税」について

第29号(2011年07月01日発行分)

執筆者1

7月の定期異動後、税務署内も落ち着いてきた8月上旬から次々と税務調査の連絡が入ってきております。9月から11月までは調査の最盛期で、以前お伝えしたとおりこの期間の成績は「金」扱いで評価されることもあり、税務署員も力の入った税務調査を展開してくる時期です。
 8月以降の税務調査において、通常あまり行われない「推計」の方法により行われた調査が2件ありましたので、今回は税務署の行う「推計課税」とはどのようなものかお話したいと思います。

「推計課税」ついて

法人税の調査であれ、所得税の調査であれ、税務調査は納税者が申告した所得金額が正しいかどうかを、総勘定元帳や補助簿、各種原始記録と照合し検討を行うことが大原則です。
 しかしながら帳簿の記載が不備であったり、原始書類の保存状況が極めて悪いなどの理由により納税者の資料によって所得金額の検討を行うことが不可能な場合に、税務署は納税者の生活状況や財産債務の増減の状況、収支の状況、従業員数、同業他社との比較等の方法で所得金額を「推計」し、金額を決定することができることとなっています。(法人税法131条及び所得税法156条)。このような方法により課税することを「推計課税」と呼んでいます。
 課税庁が推計課税により更正又は決定をするためには、推計課税の方法をとらなければ所得金額を算出できないという「推計の必要性」が認められるとともに、採用した推計方法について「推計の合理性」を課税庁側が立証する必要があります。
 この推計課税の方法は帳簿や原始書類を一切保存せず税務調査にも協力しない反税団体に所属する納税者に対して使われることが多く、その適否について訴訟で争われた例も多くあります。

「推計課税の実例」について

今回、私どもで立会いをした調査で推計課税の方法がとられた理由は、いずれも法人設立前の個人営業時代に対しての所得税調査で、当時の原始記録の保存がなかったことによります。
 照合を行う記録がありませんので、税務署は…

  • 最近の売上状況から過去の売上金額を推測する
  • 同業他社の経費率をもって原価を推測する
  • 現在の状況から人件費を推測する
  • 月々の生活費を算出し、そこから利益を推測する
  • 預貯金の増減を調べて、利益を推測する

という方法をとり、これらを総合勘案して課税額を提示しました。

「推計課税」に対する対抗処置は

帳簿の保管がありませんので、推計課税の方法をとることには反論できませんが、推計額が実額とはかけ離れているということを主張することはできます。ここから先は、まさに【交渉】の世界ということになります。今回は…

  • 売上金額を直近の売上から推測しているが、法人成りした後、営業努力による口コミや広告宣伝等によりようやく現在の売上高に至ったものであり、過去の売上は到底今とは比較にならないくらい低かった
  • 同業他社との比較による原価率を採用しているが(税務署では地域ごとの統計的な経 費率を持っています)、当社は他社と比較して「より安く、良いものを提供する」ことにより差別化を図っており、一般的な原価率は当てはまらない
  • 当時はどんぶり勘定的に経営を行っていたため、原材料費や人件費も現在とは比較にならないくらいロスが多く、とても多額の利益が出るような状況ではなかった
  • 焦げ付いた売掛金の回収のため多額の弁護士費用がかかり、かつ、その売掛金も全額 回収することができなかった
  • 家賃の安いところに住んでおり、独立したばかりで仕事漬けの毎日だったため衣服や食事、旅行等にもお金をかけておらず、生活費も一般の人よりかかっていない
  • 預金の増加は質素な生活でやっと貯えたものであり、多額の所得があったせいではない

といったような主張を行い、税務署側が当初推計した課税額よりもかなり低い金額に収束することができ、お客様も納得の上、調査を終結することができました。

税務総合戦略室便り 第29号(2011年07月01日発行分)に掲載

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