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元国税調査官による資産税解説 第二回 
相続調査の思い出

第32号(2011年10月01日発行分)
元国税調査官・税理士
黒崎 俊夫

私が国税の職場に入ったのは昭和58年4月。3ケ月の研修を経て実際に税務署に配属されたのは同年7月、豊島税務署資産税部門でしたが、その9月からさっそく相続税の調査です。 相続税の臨宅調査は通常2人で実施しますが、私の最初の調査で先輩に同行をお願いした時の話です。

お宅にお邪魔してお座敷に通され、当方の身分証明書を提示するなり、先輩が相続人である未亡人の方に対し口を開きました。
「これもなにかのご縁ですから、差支えなければご焼香させてください」
(ははあ、相続人の方も緊張しているから、少しでも警戒心を解こうと思って、ご焼香するんだな)
 私も先輩の後に続きご焼香しました。
 その後、あらかじめ準備していた質問事項を形どおり聞いて、昼を迎えました。
 そして、お昼休み、近所の食堂に入り、席につくなり先輩が言うのです。
「おい黒崎、気がついたか」
「なにがですか」
「位牌だよ、位牌」
「位牌がどうかしましたか」
「戒名に院号がないのに気がつかなかったのか」
「院号ってなんですか」
「そんなことも知らないのか、あとで教えるよ」
 要するに、本件の被相続人は数億円の遺産を残して亡くなった方である。社会的な地位も決して低くない。通常そのような方は戒名に院号があって当然だ。戒名に院号をつけると戒名料で100万近く違うが、一生を共にし、これだけの遺産を残してくれた亡夫に対して、100万の金をけちって身分相応の戒名を与えない未亡人は相当腹黒いか相当のけち、つまり申告された以外に遺産をどこかに隠しているに違いない、と言うのです。
 その調査で申告漏れの遺産がどれだけあったかは残念ながら失念しましたが、確かに、先輩の言うことは一理あるし、目のつけどころにも驚きました。
 ただ、善人を装ってご焼香する裏で、戒名を確認してまで申告もれの財産を見つけようとする先輩職員の執念みたいなものを感じた反面、腹黒いのはどっちだ、狡い職場に入ってしまったと正直思ったことを記憶しています。

しかし、その後28年間の経験で、私自身その先輩の教え通りに調査時にご焼香までしたのは10回もありません。院号など申告書の葬式費用欄に記載される戒名料を見れば予測はつくし、また、亡くなった方の遺影の前で、そんな邪まな動機で焼香したくないという気持ちも働いたからですが、その意味で私はプロの調査官になりきれなかったのかもしれません。
 実際、そこまでする人間は現にほとんどいないと思いますし、過去のエピソードという形で後輩にこの種の話をすることはありましたが、調査手法として話をしたことはありませんでした。
 だから、この先輩のような職人的な調査官が少なくなったという理由もこの辺にあるのかもしれません。

相続税の調査にお邪魔して、一日相続人の方とお話をしていると、故人はご家族に愛されていたんだなあと実感することがあります。そういうお宅は遺影を額に入れて飾っておられますし、決して故人に対する不満等を調査過程で口にされることもありません。 
 税務調査等を通して、調査手法も当然会得しましたが、それ以外の故人を偲ぶ家族の思いのようなものに感動した記憶も多くございます。
 私事で恐縮ですが、昨年父が他界しました。幸か不幸か相続税が課税されるほどの財産はございませんが、仮に税務署の方が調査に見えられた際、そう実感していただけるような家族であっただろうかと自問自答しているところです。

税務総合戦略室便り 第32号(2011年10月01日発行分)に掲載

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