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元国税調査官が語る国際税務解説 第四回 
オフショア口座に対するタックス・アムネスティ

第33号(2011年11月01日発行分)

執筆者3

2011年5月にエヌエムシイ税理士法人に入社した元国税調査官で税理士の吉田雅相と申します。今回、オフショア口座に対するタックス・アムネスティについて書かせていただきます。

タックス・アムネスティ(Tax Amnesty)は、一般に「税の恩赦」という用語が当てられていますが、簡単に言えば課税当局によるアメとムチの政策といえます。その内容は、課税当局がアメの部分として、納税義務者の過去の納税義務の一部を免除し、脱税による訴追等を行わず、定められた期間内に過去の税額の納付を促すために、加算税等を軽減して納税義務を果たすという措置を講ずるものです。しかしながら、ムチの部分として、タックス・アムネスティの措置を無視した者に対しては、重い罰則が科されます。
 リヒテンシュタインのLGT銀行及びスイスのUBS銀行の不祥事の後に開催された2009年4月のロンドン・サミットでは、オフショアを利用した脱税や租税回避が経済の攪乱要因となっている実態が明らかにされました。これを受け、タックス・ヘイブン国に対し顧客情報等の開示に向けた情報交換条約締結の動きが加速しました。また、タックス・ヘイブン国の側でも、情報公開に積極的な国であるとの印象を与えるため、この種の条約締結に積極的に取り組んでいます。
 それと並行して多くの先進国では、オフショアに隠された資産について、納税者が課税当局にその旨を申し出れば脱税罪には問わないという措置(タックス・アムネスティ)を打ち出しています。

タックス・アムネスティの成果

米国では、2008年2月、スイスの最大手の銀行UBSの元社員が、米国人の顧客に対してオフショアを利用した脱税に協力したとして、フロリダ州において起訴されました。 結果的に告発は見送られたものの、UBS側は7.8億ドルという多額の和解金の支払いと250人の顧客リストを、米国司法省を通じてIRS(米国内国歳入庁)に提出しました。これに引き続き、米国司法省は別件でもUBSの刑事告発の準備を進めていました。
 この件も最終的に告発は見送られたものの、その見返りとして、UBS側は大口預金者5000人相当分のリストを提供したとされています。大口預金者の範囲については明らかにされてはいませんが、100万ドル以上の預金者ではないかと言われています(8月13日及び15日付けのニューヨークタイムズによる)。
 さらにIRSでは、リヒテンシュタインの銀行LGTの元行員が持ち出し、高額の報酬を得てドイツの連邦捜査局に提供した顧客情報についても、租税条約に規定する情報交換を通じて入手しています。
 これらを踏まえ、IRSでは2009年3月、6ヶ月の期限付きで自発的開示(タックス・アムネスティ)を求めました。これを受け、米国では最終的には14700名の人達がオフショア資産を有している旨の開示を申し立てたのです(2009年IRSの公表資料及び2009年11月8日付けニューヨークタイムズによる)。

金融機関へのインパクト

これまで実施されたタックス・アムネスティの多くは、オフショア所在資産に関しての開示は求めるものの、それらの資産の持ち帰りまでは強制しておりません。しかし、今回のようにオフショアに存在している資産の多くが引き上げられるという事態が生じてくると、タックス・ヘイブン国にとっては大きなダメージとなります。
 ちなみに、イタリアの今回のタックス・アムネスティ施策に対しては、スイスが強く反発し、両国の財務大臣が大喧嘩をしてマスコミでも大きく取り上げられました(2010年3月)。特に、ジャージー、ガンジー及びマン島などのように特定の国(英国)の資産家を対象としてきたタックス・ヘイブン地域が、致命的な打撃をうけることもありえます。今回、預金者の殆どが脱税者であることが明らかになったUBS銀行のオフショアバンクには、少なくとも5万人を超える米国市民等の口座があり、そのうちかなりの部分はケイマン諸島にある銀行口座であると言われています。
 米国のタックス・アムネスティにより、ケイマン諸島ではUBS以外の口座の解約も相次ぎ、ついには島の人口の15%近くに当たる6000人の人達、その多くは金融機関関係者・弁護士・会計士等、がケイマンを離れることになったとのことです。
 それでは、オフショアにあったこれらの資金は何処に行ったのでしょうか。一部はシンガポールやスイス、ルクセンブルク、ベルギーなどに移ったものとみられていますが、大部分は米国の「アメの政策(アムネスティ)」に対応する形で米国に戻ったようです。

日本におけるタックス・アムネスティの利用

OECDは、1996年以降、各国の経済及び税制に悪影響を及ぼすタックス・ヘイブン及び先進諸国における租税優遇措置を対象に、これらを「有害な税競争」として、その有害性を除去する活動を行っており、加盟国及び非加盟国の双方に対して、税務情報の透明性と交換を促進していました。
 そこに、LGT及びUBSの不祥事もあって、2009年4月に開催されたG20第2回金融サミットにおいて、タックスヘイブンの規制強化宣言等が行われ、タックスヘイブン国等と先進諸国との間で情報交換協定を締結する動きが加速されました。このような動きの中で、日本においても代表的なタックス・ヘイブンであるケイマン諸島、香港等との新たな情報交換協定の締結が急増するとともに、これまで租税条約が締結されていながら情報交換規定のなかった対スイス租税条約の改正もなされました。このことは、国税がこれまで入手できなかった海外金融機関の預金情報入手に道を開いたと言えます。
 この情報交換協定の利用について、米国等多くの国では、すでに海外金融機関の情報取得を利用した課税漏れ所得の自主申告プログラム(Tax Amnesty)に取り組んでいます。
 ところで、日本の個人金融資産の状況は、「第一生命研究所の個人金融資産について5カ国の比較(2009年末現在)」によると、金融資産総額では米国4098兆円に次いで日本は1452兆円と、ドイツ、英国、フランスを引き離しております。
 このことから、日本の個人の金融資産の多くが海外の金融機関等に預けられているのではないかと推測されます。このことを裏付けるかのように、海外の銀行に預けられていた預金が相続税において申告漏れとなっていたとの新聞報道がなされており、日本においてもタックス・アムネスティを実施した場合の成果は十分に期待されます。
 しかしながら、日本の場合、タックス・アムネスティを行った過去の経験はなく、タックス・アムネスティの根拠となる法律の制定から始めることになります。しかも、海外の銀行等に所得を隠した者に対して課税上の恩典を与えることには、国民の反発が予想されるところであります。このため、タックス・アムネスティの実施は難しいと思われます。
 したがって、日本において情報交換協定は、反面調査の範囲拡大として国税に利用されるに限られると思われます。

*参考資料1.

2010年以降、情報交換に係る租税条約の改正及び情報交換規定の締結を行っている国、地域

  • ①日本・ルクセンブルク租税条約(2010年1月26日署名)
  • ②日本・ベルギー租税条約(2010年1月27日署名)
  • ③日本・バーミューダ租税条約(2010年2月2日署名)
  • ④日本・シンガポール租税条約(2010年2月4日署名)
  • ⑤日本・マレーシア租税条約(2010年2月10日署名)
  • ⑥日本・スイス租税条約(2010年5月21日署名)
  • ⑦日本・オランダ租税条約(2010年8月25日署名)
  • ⑧日本・香港新租税協定(2010年11月9日署名)
  • ⑨日本・バハマ新情報交換協定(2011年1月28日署名)
  • ⑩日本・ケイマン諸島新租税協定(2011年2月7日署名)

*参考資料2.

基本合意に達している国及び地域

  • ①日本・ガンジー新情報交換協定(2011年1月27日合意)
  • ②日本・マン島新情報交換協定(2011年3月18日合意)
  • ③日本・ジャージー島新情報交換協定(2011年3月18合意)

税務総合戦略室便り 第33号(2011年11月01日発行分)に掲載

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