本年も宜しくお願いいたします。エヌエムシイ税理士法人の代表社員で税理士の野本明伯です。
昨年末に郷里である福島県いわき市に帰郷致しました。いわき市は、人口が約34万人、面積は県内最大の中核都市です。昭和30年代に石炭産業を中心に、漁業、林業、農業の第一次産業で発展し、炭砿の閉山後は、工業化が推し進められました。その後は、温泉やリゾート施設、海岸部の灯台・水族館、サーフィンなどのマリンスポーツのメッカとして観光産業の振興も図られました。結果、観光客数は県内第1位の年間約1,102万人となり、東北地方全体でみても仙台市に次ぐ規模にまで観光産業が発展しました。
しかし、昨年の東日本大震災による福島第一原発の事故の影響により、状況が一変してしまったのは周知の通りです。私自身も、昨年の大晦日に、いわき湯本温泉を訪れ、変わってしまった現実の深刻さを目の当たりにしました。毎年、大晦日には、全国から観光客が訪れ、温泉街は非常ににぎわっています。
しかしながら、温泉宿に明かりはなく、街は静まり返っています。映画『フラガール』で一躍有名になったスパリゾートハワイアンズ(旧称常磐ハワイアンセンター)に関しても、100人は優に入浴可能な温泉に、私ひとりといった状況でした。テレビや新聞などメディアを通じて、原発事故による被害の深刻さは折にふれて見聞きしていましたが、やはり実際にその現場に身をおきますと、事態の深刻さについて身につまされるものです。
ひとり誰もいない温泉につかって、そのとき、私が感じたことは、リスク分散の必要性でした。人生、何が起きるかわからないものです。原発にしても、よくよく考えれば、絶対的な安全などありえないのです。それは、今回の事故を通じて、白日の下に晒されました。しかし、事故がおきるまでは、幻想に過ぎない「原発の安全神話」をほとんどの日本人が盲目的に信じていたのです。結果、多くの人が家や仕事を失い、今後の生活の見通しすら立てられない状況にいます。
何故、このようなことが起きるのか。それは、仕事にせよ、住まいにせよ、生活を支える基盤が、集中し、硬直化していることに他なりません。たとえば、仕事の拠点や収入源が原発事故の影響下にない場所にも分散されていれば、生活再建の目処もつきます。
ひとつ事業を例にとりましょう。事業の行う上で、特に創業期において、ヒト、モノ、カネといった経営資源を、一極に集中させ、一気呵成に市場のシェアを獲得していくことは有効な経営戦略のひとつであることは間違いありません。
ただ、一極集中が進めば進むほど、メインの事業が立ちいかなくなった際のダメージは大きくなるものです。そのためには常にリスクの分散を心がけておくことが重要です。
たとえば、メインとなる事業がある程度、軌道に乗った時点で、経営資源の1割でもいいから、メイン事業とはリスクができるだけ異なる、サブとなる新たな事業の芽を育てることに力を入れ、万が一の場合に、備えておくのです。ただし、このようなことは、一朝一夕にはできるものではなく、非常に時間がかかるものです。
したがって、今回の原発事故のような、「まさかの事態」が起きてしまい、メインとなる事業が立ちいかなくなったときに、急に別な事業をゼロから起こすということは、極めて困難な道のりとなります。繰り返しになりますが、人生は穏やかに流れている時間の中でさえも、目に見えない、顕在化しないだけの不確定要素、リスクが隠れているのです。だからこそ、事業がうまくいっている時こそ、常に現状を疑い、計画的に、意識的に、粘り強く、リスクの分散につとめるべきなのです。それこそが自らを守る唯一の方法だと私は考えています。
また、大きな視点でとらえれば、原発事故と同じようなことが、日本の財政破綻にも言えるのでないかと思います。ただ、原発の場合は安全神話がありましたが、財政破綻の可能性に関しては、既に大手のメディアでもしばしば取り上げられ、多くの国民が知るところになっています。しかし、それでも大半の方は「そうは言っても日本は大丈夫だろう」と思っているというのが実際の感覚に近いものだと感じています。
財政破綻にしても、資産を分散させておくことで、リスクを低減することができるのです。たとえば、一昔前には、資産の保全、運用は、1.土地、2.現金(預金)、3.株と相場が決まっていました。
しかし、現代においては、その方法は実に多様なものになっています。土地にしても、たとえば、ロンドンのマンションを、マレーシアのマンションを、資産運用のために購入するということが可能なのです。また、預金にしても、今ではUSドルのみならず、様々な国の通貨を保有することがいとも簡単にできるのです。他にも、海外の銀行に口座を開設し、海外のファンドを運用することも容易にできるのです。
さらに、住む場所に関しても、日本にとらわれることはないのです。シンガポールや香港、マレーシアなどをはじめ、原発事故を機に、海外に移住する人が増えています。「海外移住」と聞くと、まるで国を捨てるような大仰なものにみられがちです。しかし、実際は、そんな大層なものではありません。また豊富な資金がなければできないというものでもありません。たとえば、移住先として一番人気のマレーシアは、物価は日本の3分の1です。移住に必要な資金も手頃なものです。実際に、多くのリタイアされたサラリーマンがマレーシアに移住されています。
このように資産の分散に関しても現代においては、様々な方法があります。それらの組み合わせにより、リスクを分散させることが、急激な変化に対応することが可能になるのです。
しかし、「でも実際にどうしたら良いのかわからない」という方もいらっしゃるかと思います。私は、経営や資産運用に限らず、何か新しいことを試みる際には、「その道のメンターを見つけること」が極めて有効だと思います。
メンターとは、ギリシャの詩人、ホメロスの叙述詩『オデュッセイア』の登場人物である「メントール」に語源があります。メントールは、オデュッセウス王の息子の養育を託され、良き支援者としての役割を果たしました。このことから現代においては、「特定の領域において知識、スキル、経験、人脈などが豊富で成功体験を持ち、役割モデルを示しながら指導・助言などを行う人」(出典:exBuzzwords 用語解説)という使われ方がなされています。
要するに、メンターとは、自らが実践者であり、成功の経験を持っている実践者かつ支援者のことであり、その点において、コーチやティーチャーとは大きくその背景が異なります。
たとえばマレーシアへの移住に興味があるのならば、実際にそれを実践した方に、生きた教えを請えばよいのです。現代はインターネット時代です。その気になりさえすれば、メンターを見つけてアプローチすることはいとも簡単にできるのです。
進化論を唱えたダーウィンは、「この世に生き残る生き物は、最も力の強いものか。そうではない。最も頭のいいものか。そうでもない。それは、変化に対応できる生き物だ」という考えを示しています。リスクの分散により、変化に対応できる状態を常に維持しておくこと、これこそがこの不確定な時代を生き抜く上で大切なことだと私は考えています。
税務総合戦略室便り 第34号(2012年01月01日発行分)に掲載
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