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私が考える本当のお金持ち

第36号(2012年03月01日発行分)
エヌエムシイ税理士法人 会長・税理士
野本 明伯

いつも大変御世話になっております。故郷、福島県いわき市に税理士事務所を開業し、今年で40年目を迎えます。税理士の仕事は、税法が複雑かつ広範囲にわたるように、幅広いものですが、言うなれば「人間とそれを取り巻くお金の流れ」に関するものです。
 税理士として、経営者をはじめとする様々な方にお会いし、多種多様な「人間とそれを取り巻くお金の流れ」に触れる中で、私は、ひとつの疑問を抱きました。それは「本当のお金持ちとは何なのか」ということです。

「お金持ち」の定義とは

辞書を紐解いてみても「お金持ち」の定義は判然としません。それでは、同義語である「富裕層」はどのように定義づけられているのでしょうか。諸説あるようですが、多くは「金融資産1億円以上保有」ということのようです。
 しかし私は、金融資産を1億円以上持っている人がみなお金持ちだとは思えないのです。それは何故か。本稿では、私が実際に出会ったある二人(AさんとBさん)のエピソードを踏まえ、「本当のお金持ち」とはどういうことか、そして、「本当のお金持ち」になるための方法をお伝えします。

10億の資産を相続したAさん

代々資産家の家に生まれたAさんは、地方銀行に勤務するサラリーマンでした。お父様がお亡くなりになられたことで、相続により、約10億円の資産をお持ちになりました。当時のスタッフは、みな羨ましそうな顔を浮かべ、「10億もあればもうお金に苦労しないな」と言っていました。
 しかし、その後のAさんの人生はまったく逆のものでした。Aさんは、親御さんから受け継いだ資産に一切手をつけることをしなかったのです。そして、最終的に、Aさんご自身がお亡くなりになられ、10億円あった資産は、相続の際に税金が課され、結局半分程度にまで目減りしてしまいました。Aさんはとても生真面目な方でした。生前、Aさんはことあるごとに「先祖代々受け継いだものを勝手に使うわけにはいかない」と仰られていたことを今でも鮮明に覚えています。

3億円の資産を築いたBさん

翻って、オフィス製品を扱う会社に勤めるサラリーマンのBさんは、30歳の誕生日を機に独立され、コピー機販売に特化した会社を設立されました。その後、事業は順調に伸び、10年後には、コピー機販売で得た資金を用いて、新たに不動産事業を展開しました。
 そして、60歳の誕生日を機に引退され、その資産は3億円ほどになっていました。資産の内訳は、賃貸マンションなどの不動産をはじめ、株などの有価証券、海外ファンド、金など多種多様でした。そして、家賃収入や配当金、ファンドの運用益などで、別途、年間1200万円ほどの収入があったのです。Bさんは、引退後も趣味のゴルフや海外旅行を楽しみ、悠々自適な人生を送られています。

資産が大きくなるほど減ることへの恐怖も大きくなる

資産10億円のAさんと資産3億円のBさん、一見すればAさんの方がお金持ちに映るかも知れません。しかし、その実態は先述したように、大きく異なります。むしろ資産の多寡で言えば、三分の一に過ぎないBさんの方が、お金に縛られず、悠々自適な生活を送っています。
 周りを見渡しても、Aさんのような方は少なくありません。10億とまでいかなくとも、資産を持った人間は、それが減っていくことに、まるで自分自身の肉体の一部が削り取られていくような恐怖を抱くものです。その恐怖は、資産が大きくなればなるほど、つまりお金があればあるほど、比例して膨らみあがる性質を持っています。ましてや自分で形成した資産ではなく、先祖から受け継いだものであれば、猶更にその恐怖は深度を増すのです。まさにAさんが言っていたように「申し訳なくて使えない」類の資産なのです。
 結果、資産があるにもかかわらず、それが目減りする恐怖という呪縛から自由になることができないケースが往々に見受けられます。
 しかし、Bさんは違います。資産総額はAさんの三分の一程度ですが、その資産自体が流れるようにお金を生み出しているのです。その額は、年間1200万円程度でした。Bさんは、決して年間1200万円を超えるお金を使いませんでした。ただ、逆に言えば、年間1200万円であれば、気ままに、つまりお金が目減りしていく恐怖を一切味わうことなく、使っていたのです。

「勤労収入」「継続収入」「不労収入」の違い

AさんとBさんの違いは一体どこから生じるものなのでしょうか。それは、「勤労収入」「継続収入」「不労収入」という収入の種類をしっかりと把握することで見えてきます。収入とはお金が入ってくることですが、収入と一口に言ってもその性格は異なるものです。
 実は、10億円の資産を持っているAさんは、収入という観点でいえば、銀行員としての給料、つまり「勤労収入」しか持っていません。しかし、Bさんは、3億円の資産の大半が、「不労収入」を生み出す源泉となっているのです。
 したがって、Bさんは、年間1200万円という範囲内であれば、何のストレスもなくお金が使えます。それは、何もしなくてもそれだけのお金が一定のリズムで流れるように入ってくるからなのです。つまり、本当のお金持ちとは、資産の多寡ではなく、自分が必要とするお金が流れるように入ってくる仕組みを持っている人のことだと私は思います。

お金の流れを作るためには

では一体、どのようにしてBさんのように、不労収入、要するに、流れるように入ってくるお金をつくればよいのでしょうか? Aさんのように親からの資産を受け継いだり、宝くじがあたるといったようなことがない限りは、最初は、当然のことですが、勤労収入、つまり汗を流し
て元手となるお金をためることが必要になります。
 その元手をBさんのように、コツコツと不労収入を生み出すものへと変えていくのです。
 また事業を経営されている方でしたら、ビジネスモデルを勤労収入型から継続収入型へと変えていくことも有効です。しかしながら、たとえばラーメン屋さんのように、事業自体が、そもそも継続収入型ではない場合もあります。そのような時は、Bさんが途中から不動産事業を展開したように、勤労収入でためたお金で、不労収入型のビジネスをつくりだせばいいのです。

大きな流れを育てるには時間がかかる

しかし、不労収入というものは、はじめはとても小さいものです。仮にコツコツと1000万円をため、それを元手に年利3%の金融商品を購入したとしても、生み出されるお金は、年間で30万円、月額にすれば、2万5千円にすぎません。不労収入というものは、はじめは小さな小川に過ぎないのです。それでも、時間をかけて育てていくことで、それがやがて川となり、大河となるのです。
 それには、私は、30年程度の時間が必要だと考えております。一朝一夕に、本当のお金持ちにはなれないのです。
 けれども、大半の方は目先のお金に目が行きがちになります。待つことに耐えられないのです。したがって多くの人は、手っ取り早くお金になる、つまりすぐに結果につながる勤労収入の中で、やりくりしてしまうのです。

良い借金と悪い借金

ゆえに、コツコツと1000万円を貯める前に、マイカーやマイホームの購入に手を出してしまう。そして、30年を超えるようなローンをしょい込んでしまいます。しかし、マイカーやマイホームがお金を新たに生み出すでしょうか? バブル期のように不動産価格が右肩上がりの時代ではないのです。突き詰めていえば、お金を投じる対象がお金を生み出すものであれば、借金してでも問題はないわけです。借金の利息以上に、その対象が利益を生み出せば、それは「良い借金」なのです。逆に30年を超えるようなローンでマイホームを買う、これは「悪い借金」なのです。
 こういったことを一切考慮せず、ただ、「みんなが買うから」、「そろそろそういう年頃だから」といった、日本特有の集団が強制する空気に支配され、盲目的にマイカーやマイホームを買い、ローンを背負う。これでは、ローン会社のために働いているようなものです。
 さらに、勤労収入というのは、汗を流すことをやめた途端に、途切れてしまうものです。人生はいつ不測の事態が起きるかわからないものです。そのためにも収入の源泉が異なる川を何本も用意し、それをじっくりと育てていくことが、何よりも人生のリスク分散となり、のみならず、やがてお金に不自由しない人生を形作るのです。

原点となる父の生き方

このような考えを私が持つに至ったのは、何もAさんやBさんにお会いしてからのことではありません。その原点は、自分の父の生き方にあります。父は、私が幼いころから結核を患っておりました。当時、結核は不治の病であり、私の父の記憶の大半は自宅の書斎での姿でした。つまり、働きたくとも、働けない身体だったのです。
 ある日、父は、何を思ったか、祖父から受けついだ自慢の庭を取り壊し、そこに賃貸用のアパートをつくりました。プライドの高い父が、親戚に頭をさげ、お金を借りて、つくったのだと後日、母から聞き、祖父のみならず、父も大切にしていた、今やアパートとかした庭で、私は子供心にやるせない気持ちを抱いたことを今でもよく覚えています。
 しかし、そのおかげで、私は、東京の大学に学ぶことができ、卒業後も、税理士試験を受けるため、勉強に没頭することができたのです。父は多くを語りませんでした。ただ、試験合格に焦る私に対して、父が諭すように告げた言葉が今でも私の大切な財産です。それは、「お金を稼ぐことを急ぐな 稼ぐ前にしっかりと勉強しろ 稼ぎ始めたらずっと稼ぎ続けないといけないのがお金だ」というものでした。

真の親孝行

やがて、私も年をとり、事業もそれなりに順調に軌道に乗り始めました。確か父が80歳を迎えたころのことです。その時の父は、金額にして3000万円程度を保有していました。
 私は、「お父さん、俺のことはいいから、自分のために好きなことをして、お金は残さず使ってくれよ」と何度も言いました。しかし、父はいつまでたっても使いません。やがて、ふと、私は気づいたのです。それは、使わないのではなく、使えないのではないかということにです。今ではよくわかります。おしなべて、高齢者は、お金を使うことができないものです。それは、人間は自分の死期がわからないからです。
 子どもは親のためを思って、つまり愛情という名のもと、「残さないで使いなよ」という。しかし、こんな残酷なことはないのです。使えるはずもないのです。冒頭で述べた通り、お金が減っていくのは、自分の存在が削られていくような恐怖なのです。それがお金と人間の関係の断ち切れない真実なのです。

お金に支配されないのが本当のお金持ち

私は考えました。父が私を大学に出すために、庭を取り壊し、アパートを建てたときのように。私は、父の3000万円で、中古のワンルームマンションを二カ所かってあげました。時とともに価値は目減りしますが、父にとっては、3000万円は不動産として存在するのです。そして、そのうえ、家賃収入が月に16万円入ってくるようにプランしました。父は、お金を使い始めました。月に16万円の範囲内であれば、お金はまったく目減りしません。お金の恐怖から自由になった瞬間です。
 それは決してBさんのように、年間1200万もの多額のお金ではありません。しかし、その時の父は月に16万円で十分だったのです。本当のお金持ちとは、持っている金額の多寡ではないのです。「これで十分だ」と当人が思えるお金が、流れるように入り、お金に支配されないこと、つまり、その人の心とお金の関係の均衡地点に存在するのです。

税務総合戦略室便り 第36号(2012年03月01日発行分)に掲載

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