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元国税調査官による資産税解説 第七回 
A→B→Aのパターン

第37号(2012年04月01日発行分)
元国税調査官・税理士
黒崎 俊夫

A→B→Aのパターンと書いても、ほとんどの方はおわかりにならないだろう。
 租税特別措置法第35条(以下措35)という規定があるが、これは居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の規定である。それについての適用要件は種々あるが、大前提は譲渡した資産を生活の本拠として譲渡人が居住の用に供していたかどうかにある。そして、そこに居住していたことを証する書類として住民票の除票というものを添付することになっており、この場合の除票とは譲渡資産の所在地で発行されるもので、いつからいつまでそこに住民登録があったかが記され、転出先住所、転出年月日、転入前の住所、転入年月日等が併記されている。
 仮に、譲渡資産所在地の住所がB、転出先住所がAだとして、Bに住所を置いていた期間が短く、さらに、転入前の住所も転出先の住所もAだとすると、措35を適用したいがために、一時的に住所をBに移し、譲渡後は再びAに住所を戻したんだな、と推理することができる。これがA→B→Aのパターンである。だとすると3000万円の控除は不可であり、譲渡益に対し通常15%(住民税5%)の税金が課されることになる。
「現在空家のBにある土地建物を譲渡する予定だが、住所をBに移し、Bに居住していたことにすれば、特別控除が使えるから譲渡所得税はゼロにできる」。誰でも考えつきそうなことであるが、考えることは皆同じ、極めて古典的で安直な手法である。
 今の時期、税務署資産課税部門では、確定申告された譲渡所得の申告内容を一件一件審査する作業を行っているはずであるが、私もかつて審査の過程でこのA→B→Aのパターンの措35適用事案はないかチェックし、それに出くわすと自然に頬の肉が緩んだ記憶がある。そして、このようなケースはかなりの確率で調査に選定される。

もちろん調査で否認するためには住民登録の動きだけでは不十分であり、

  • ①A宅B宅における電気・ガス・水道の公共料金の使用量の調査
  • ②A宅B宅の近隣住民に対しての聞き込み調査
  • ③譲渡人の勤務先への届出住所はどうなっているか
  • ④子供の学校の関係はどうか
  • ⑤仲介業者にたいする反面調査
  • ⑥郵便物はどちらに届いているか

等々、考えられる裏づけ調査を併せて行うことになる。
「B宅に居住していた形跡は全くない」とか「B宅を生活の本拠として利用するには無理がある」ことを立証するため、最終的には更正処分をしても耐えられるような証拠を集める必要から、入社したての頃は、さながら刑事になった気分で周辺住民に対し聞き込みをしたり、交番、地区の民生委員などにもあたり、「そんな人住んでいなかったよ」「あの家はずっと空家だったんじゃないの」などの有利な証言を得ようと駆けずりまわったものである。

特例を適用したいがために住民票だけ移動させたなんていうのは言語道断であるが、ただ実際は、譲渡物件に何ヶ月住めばいいのかとの制約は全くなく、A宅とB宅いずれが生活の本拠であったか断定しかねるケースも多かった。電気使用量が少ないのはこういう理由によるためであり、子供の学校はこうした理由で転校させなかった、など納税者もそれらしい理由を持ち出してくるためである。

弊社セミナー「損金計上対策」では「税務調査はストーリーである」と述べているが、法人税も資産税も根本は同様で、この場合、B宅が生活の本拠であったというストーリーをいかに構築できるかが重要であり、指摘されると予想される事項をどのような理屈で補うか、事前にストーリーを準備しておくことが肝要となるのである。

税務総合戦略室便り 第37号(2012年04月01日発行分)に掲載

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