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元国税調査官が語る国際税務解説 第九回 
租税条約について―二重課税の排除と情報交換制度―

category: 節税国際税務
第38号(2012年06月01日発行分)

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みなさんは「租税条約」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?  租税条約とは二国間における税に関するとりきめのことであり、主に二重課税の排除や脱税の防止について規定されています。現在日本は約60の国や地域と租税条約を締結しており、先進国に関しては、ほとんどの国と条約を締結している状況です。  では、租税条約を締結することによって締結国にどのような影響が生ずるのでしょうか?

1 二重課税の排除

二国間にまたがるクロスボーダー取引では、法人が所在する国と所得が発生する国との間で同一の取引に対して二重課税が生じている現状があります。 たとえば、日本の法人が米国法人の株式を購入し、配当を収受する場合、当該所得に対しては日本も米国も課税権を有することになります。  このように二重課税が生じた場合、租税条約では、投資所得(配当・利子・使用料)について、一般的に源泉地国(米国)での課税を軽減するような限度税率が規定されています。つまり、源泉地国(米国)での課税が少なくなれば、日本法人の所得に対する手取金額が大きくなり、また、外国税額控除の適用を受ける際にも控除限度額の枠内に収まる可能性が高くなるため、日本法人にとってのメリットになります。  近年改定されている条約では、使用料について源泉地国免税が導入されているケースもあり、タックスプランニングを行う上でも各国との租税条約を確認することは重要です。  また、租税条約には所得の帰属に関する事項についても規定されており、国内法と租税条約が異なる取扱いとなっている場合、租税条約が優先適用されることになっています。  例えば利子所得についてですが、国内法では「使用地主義」という考え方のもと、利子に対する借入金が実際に使用された場所が所得の源泉地として判断されますが、租税条約では「債務者主義」を採用している場合が多く、借入をしている者の居住地国で所得の源泉地を判断することになります。このような場合、租税条約が優先適用されますので、「債務者主義」により判定を行うことになります。

2 情報交換制度

これは、締結国間で脱税に関する情報を相互に提供することで、適正な申告を促進することを目的としている制度です。

  • ①自動的情報交換制度  これは、配当や利子等の源泉地国で課される源泉税に関する情報等を相手国に提供する制度です。
  • ②個別的情報交換制度  日本の税務当局は、一部の例外を除き、海外の者に反面調査を行うことはできません。したがって、日本の調査官が相手国に情報を提供し、相手国の調査官に調査を行ってもらい、情報を提供してもらうのです。  当該制度は二国間をまたぐ話なので、最終的に情報の提供を受けるまでに相当の期間を要します。
  • ③自発的情報交換制度  これは、税務調査で把握した情報を相手国に提供するものです。実際、私も不動産ファンド運営会社を調査した際に、米国人の投資家が多額の利益を上げていたため、米国当局に当該投資家の情報を提供したことがあります。したがって、海外の調査官が日本人である受益者の情報を、日本に提供しているケースも当然あります。

最近の租税条約の傾向として、いわゆるタックスヘイブンといわれる国や地域と締結しているケースが多くなっています。これらの地域は、脱税を助長する地域として、先進国から名指しで批判されてきました。したがって、これらの地域も先進国からのプレッシャーに負け、租税条約を締結せざるを得ない状況になったということでしょう。  香港とも近年租税条約を締結しましたが、これに伴い、香港政府が締結先国の者の情報を積極的に提供した場合、今後、香港に進出する企業は減少するものと思われます。したがって、香港のような外資の進出に頼らざるを得ないタックスヘイブン国が、情報交換制度によって締結先国に有用な情報を積極的に提供するかどうかは、未知数な部分があるのではないでしょうか。

税務総合戦略室便り 第38号(2012年06月01日発行分)に掲載

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