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元国税調査官による資産税解説 第十一回 
優良事績発表会

第41号(2012年09月01日発行分)
元国税調査官・税理士
黒崎 俊夫

私がかつて所属していた資産課税部門が行う税務調査は、相続税調査と譲渡所得調査が主となる。東京国税局管内の税務署は現在84あるが、おそらく全体で各々3000件以上の調査が毎年実施されているはずである。そして、年に一度それらの調査の中で特に顕著な実績(多額の脱税を把握したとか、従来なかった手口を解明したとか)を挙げたものについて、各々の税目から10件位ずつ選ばれて、内部的に表彰されるのだが、それが表題の優良事績発表会というやつである。  大昔、私がそれで表彰されたものを何かの参考になればと思い、紹介します。

A 当初申告の内容

  • 譲渡者 A
  • 譲渡年月日 昭和58年5月
  • 譲渡物件所在地 B市C町……
  • 地積   5000㎡
  • 譲渡金額 1億円(@2万円)
  • 取得年月日 昭和38年
  • 取得金額 5000万円(@1万円)
  • 取得先 D
  • 取得先住所 E市F町……
  • 所得金額 4500万円

B 調査選定事由

  • 取得価額過大疑義

C 調査経緯及び結果

  • 譲渡価額@2万円は時価相当と認められたが、昭和38年に取得した資産の値上り率が20年間で2倍と極端に低く、取得価額の水増し計上が推定されたため調査に選定した。
  • 取得年月日及び前所有者については登記簿謄本により確認できたが、取得相手先Dに反面調査を実施するも、Dは既に死亡しており、当時の取引価額等は確認できなかった。
  • 次に、譲渡者に対し取引の経緯等について聴取したところ、当時の相場として相当であり、間違いはないとの説明に終始し、誤りの端緒は見出せなかったが、確定申告書に添付されていなかった取得時契約書を入手した。
  • 取得時契約書は市販のものを使用していたため、左隅に印字された文字に着目し、製造元のコクヨに当該契約書の製造年を確認した。
  • その結果、当該契約書の製造開始年は昭和50年であることが判明した。とすると、昭和38年の取引にもかかわらず、昭和50年製の契約書が使用されていることになる。
  • さらに、契約書の取得先Dの住所はE市……と記載されていたが、当時E市は市制施行前であり、正しくはE郡F町……となってしかるべきものであることがわかった。
  • 以上より、譲渡者Aは今回の譲渡所得申告に当たって、取得時の契約書の内容を架空のものに書換えている可能性が強いと認められたため、再度A宅に臨場し、これら矛盾点についてきびしく追求したところ、当初は否定していたものの、取得時の契約書を作り変え たことを認めるに至った。
  • 真実の取得価額をもとに再計算した結果、取得金額は1000万円となり、また、増加する税額については重加算税を賦課した。

 

金額については概算で記載したが、内容についてはこんなところだったと記憶している。つまり、取得相手先が既に死亡しており、真実の取引価額を知っているのは自分しかいないことを奇貨として、架空の契約書を作り、所得金額を圧縮したという内容である。

国税局の地下会議室に集まり、国税局長の前で発表し、昼食を共にし、副賞として辞書かなにかをもらい、局長を囲んで記念写真を撮ったという記憶がある。
 一般の人は無論ご存知ないことだが、傍から見ればその様子は、さしずめ山賊の酒盛りか、生贄を前にした悪魔の黒ミサのように映るのだろうな、と思ったりしていた。
 だが、文章にすると平易に感じるが、入社して2年目の人間としてはそこそこ一生懸命仕事をしていたな、と30年たった今、そう思う。

税務総合戦略室便り 第41号(2012年09月01日発行分)に掲載

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