税務総合戦略室便り

HOME >  税務総合戦略室便り >  第41号 >  続・移転価格の執行は変わりつつあるのか

続・移転価格の執行は変わりつつあるのか

第41号(2012年09月01日発行分)

執筆者3

前回は、税務当局の『移転価格上の税務コンプライアンスの維持・向上に向けた取組』について取り上げました。そこでは、事前確認制度について一寸触れさせていただきました。
 事前確認とは、納税者が事前に申出た移転価格の算定方法に税務当局が〝確認〟を与えると移転価格調査は行われないという制度で、移転価格調査を回避するために企業が選択しうる究極の方法です。税務当局の事前確認を得ることは最良の方法なのですが、問題は、事前確認を得るためには、多額のコストと約2年間にも及ぶという長い時間を要するということなんです。これがキツイ。中小企業にとっては容易に出来ることではありません。清水の大舞台から飛び降りるかのような大決断を要します。
 実は、「事前確認」の申出件数は、移転価格調査を受けた大企業を中心に増加していましたが、平成22事務年度は減少に転じました(国税庁発表)。これは、大企業については移転価格の問題を調査によることなく、指導によって適正な申告を行うことにより解消してゆく方向に税務当局が方向転換(?)したということによる影響なのでしょうか? ともあれ、大企業にとって移転価格調査は遠い昔の話となりつつあるようです。
 一方、中小企業の置かれた現実についてですが、こちらは厳しさが増しているものと思われます。国税庁の発表した平成22事務年度の調査事績を見ると、移転価格調査件数は146件(対前年比146%)と過去最大の件数を示す一方、申告漏れ所得金額は698億円(対前年比102%)となっております。ここ数年の発表から見ると、1件あたりの申告漏れ所得金額は減少しており、移転価格調査の対象が取引規模の小さい中小企業に移行していることをうかがわせます。
 では、これに対応して中小企業が採りうる移転価格調査対策はあるのかということなんですが、事前確認は中小企業にとって負担の問題があり難しい。それなら、せめて文書化により移転価格対策を行おうかということになります。これも、移転価格を専門とする会計事務所に依頼するとなると、多額のコストを要します。八方塞がりだなー。

この文書化に関連した判決が平成23年12月1日に東京地裁でありました。移転価格税制の「推定課税」を巡り、初の司法判断が下されたのです。
 こちらの事件の概要ですが、納税者が従来、国外の第三者から仕入れていた製品を、香港の国外関連者を通じて仕入れることに変更した取引において、国外関連者からの仕入価格が第三者からの仕入れ価格の2倍になっていた事実が把握されたことに始まります。
 税務当局は、移転価格の問題の有無を検討するため、独立企業間価格を算定するために必要な国外関連者の所有する関係書類(基本的な書類である決算書や納税申告書)の写しの提出を6回程度求めましたが、納税者がこれに応じなかったところ、税務当局は帳簿書類等を「遅滞なく提示し提出しなかったとき」に行われる推定課税の規定を適用して課税したという事件です。
 東京地裁の判断は、税務当局の主張を概ね認めるものでした。その理由として、独立企業間価格の算定に必要な書類とは、納税者が現に所有したり、作成したりしている書類に限られるのではなく、入手することが可能な国外関連者の帳簿書類も含まれると判断したことを挙げました。
 この判決は、文書化への取組の重要性を納税者に投げかけています。
 納税者が「推定課税」を回避するには、国外関連取引を始めるに際して、独立企業間価格の算定に必要と認められる書類を予め作成・入手し、税務当局から提出の求めがあれば直ちに提示できるよう準備しておく必要があります。
 改めて申すまでもなく、納税者にとって文書化への対応を行うことの意義は、国外関連取引に係る価格の正当性の根拠を文書化することによって、移転価格課税を受けるという税務リスクを軽減することにあります。平成22年税制改正では、文書化すべき書類の範囲が明確に省令で規定されました。また今年になって、税務当局は『移転価格上の税務コンプライアンスの維持・向上に向けた取組』により、納税者自らが移転価格の正当性を検証するように指導強化を図っています。申告納税制度の下、納税者にはコストに見合った適切な文書化への対応がより一層望まれる包囲網ができつつあるともいえます。

税務総合戦略室便り 第41号(2012年09月01日発行分)に掲載

お電話でのご相談・お申込み・お問い合わせ

全国対応いたします。お気軽にお問い合わせください。

03-5354-5222

PAGE TOP