業務上占有する他人の物を横領すると、業務上横領罪が成立する(刑法253条)。法定刑は10年以下の懲役である。
青森県住宅供給公社の元経理担当主幹Aが約14億円を横領した事件。
仙台国税局の税務調査がきっかけで横領が発覚。Aは青森市の飲食店で知り合ったチリ人女性と結婚した年から横領額が急増し、約11億円がチリ人妻に渡ったとされる。
都内に本社を置くメーカーの元経理部係長Mが会社の預金6億円を詐取した容疑で逮捕された。「ほとんどは好きなキャバクラ嬢の求めに応じて送金した」と供述しているという。
……と、信じられないような金額の横領事件がたびたびマスコミを賑してきました。
税務調査の際に横領事件が発覚することはよくあることですが、決して後味のいいものではありません。
ある大手メーカーの調査中に、事務用パソコンの購入実績と使用実績、貯蔵品の数とを照合していた調査官から台数が合わないとの報告を受けました。家電量販店にこのメーカーの関係者がパソコンを持ち込み換金しているとの情報もあり、家電量販店への反面調査を実施。振込銀行の調査から振込口座、預金名義人を特定し、横領金額を確定しました。
犯人は調査法人の購買部の身体障害のある社員でした。横領したお金は、夜のネオン街に消えていったようです。
横領された会社の対応も大変です。早急に事実を確認し、当該社員に始末書を作成させ、事情聴取を行います。時期、方法、金額、使途を明らかにし、当該社員自身に具体的な被害弁償案を提出させます。
この社員の横領金は親族が返済することとなったようですが、当該社員や身元保証人に被害弁償の誠意が見られない場合、あるいは被害回復が望めない場合は、横領罪または窃盗罪での刑事告訴を行うこととなります。また、使い込みは原則として懲戒解雇事由となります。
私法上、他人の不法行為により損害を受けた場合には、その損害の発生と同時に損害賠償請求権を取得するものと解されています。法人税基本通達においては、損害賠償金の益金算入時期について、その相手方が「他の者」である場合には、その支払を受けるべきことが確定した日の属する事業年度又は実際に支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入することとされています(法基通2-1-43)。
法人の役員又は使用人による横領(不法行為)による損失とこれに係る損害賠償請求権については、通常、損害賠償請求権はその時において権利が「確定」したものと認められますので、被害発生事業年度において当該損失の額を損金の額に算入するとともに、損害賠償請求権を益金の額に算入することとなります。
特に企業では、その額によっては致命的な問題になったり、事件の調査には取引先の協力を仰がなければならない場合もあり、長年培ってきた取引先からの信用をなくしてしまうことにもなりかねません。一定の事務または業務を1人の従業員の支配下におかない様な会社経理の仕組みを作ることが重要です。
不正の手口は数多くあり、その不正行為も複雑化しています。内部牽制制度を確立し、不幸な事件の芽を事前に摘む算段が必要となります。
税務総合戦略室便り 第48号(2013年07月01日発行分)に掲載
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