シリーズ成功の法則ですが、前回は「お金」をテーマに、私の42年間の経営者人生を振り返り、「私が実践したお金の使い方」として下記の5つのポイントをお伝えさせていただきました。
これから各々のポイントについて個別具体的なエピソードを踏まえ詳述していきますが、今回は「成功ノウハウを商品化する」についてお伝えします。
独立開業前、税理士の資格を取得するまでは、試験勉強をしつつ、実務経験を積むために東京の会計事務所で働いておりました。はじめは大塚にある事務所に勤め、その後、神田、渋谷、新宿と約2年間、合計4事務所で働かせていただきましたが、私はどこに勤めても会計業界の旧態依然とした体質と前近代的な仕事のやり方に疑問を抱かざるを得ませんでした。
たとえば税務顧問契約をお客様と締結するにあたり、どの事務所も契約書を交わしておりませんでした。すべてが口約束で、契約期間、免責事項のみならず、仕事の範囲や金額すらもすこぶる曖昧なまま実務に着手するのです。
顧問契約では月額の顧問料以外に、決算書・申告書の作成料は別途頂戴する慣習になっているのですが、それすらも事前に説明していないため、「そんなこと聞いていない」といったクレームが起こります。なかには決算内容を見て、成績が良いから勝手に決算料を引き上げる、なんてこともありました。
新入りの身ですから異議は唱えませんでしたが、常々、「おかしい」「他の業界ではありえない」と感じておりました。また働いている職員にしても、自分の属している事務所の向かう方向性すらわからず、ただ元帳や試算表をつくり、月末に決算を行う、といった毎日を繰り返していました。
さらに、事務所の経理は非公開で、職員を安い給料で使います。どこか「仕事を教えてあげているのだから安くて当然」という空気が支配的なのです。当然、離職者も多く、すさんだ雰囲気になります。私は自分が独立して事務所を開業する際には、もっとお客様の満足を徹底して追及したサービスを行い、職員も生き生きと働くことのできる職場にしようと心に誓いました。
無事に税理士資格を取得し、昭和48年、28歳の時、私は故郷いわき市にある生家の六畳一間で開業しました。記念すべき第一号のお客様は「甲陽館」という地元の老舗旅館でした。
私は開業前に東京で仕入れた中古のタイプライターで契約書を作成しました。余談ではありますが、実はこのタイプライター、まったく動かなかったのです。後で知ったのですが、故障品を見栄えよくして売りつける悪徳業者に引っかかってしまったのです。それでもブツブツ言いながら慣れない機械いじりをし、夜中までかかって契約書を作り上げたときの高揚感は今でも忘れられません。
このようにして契約書のみならず、商品の見せ方、事務所のイメージアップ戦略、従業員の育て方など様々な試行錯誤を繰り返し、創業15年目、昭和63年度には年商4億円、利益が1億円にまで成長し、地元いわき市でナンバーワンの会計事務所になることができました。
この頃、弊社のビジネスモデルが斬新だということで、全国の会計事務所の所長先生方から「事務所見学をさせていただけないか?」というご依頼を頂戴しました。私は特段、自分が変わったことをしている意識がありませんでしたので、「どうぞ」と気持ちよく事務所を公開しました。
すると見学された所長先生方は皆様、いたく感動されるのです。一体どのようなことに感動されていたのでしょうか。3つほど例をご紹介します。
ひとつ目は、やはり契約書です。この時点で私が東京の会計事務所で働いていた頃から15年以上が過ぎていましたが、まだ大半の会計事務所はお客様と契約書を交わしておりませんでした。
たとえば四畳半の部屋を借りるにしても賃貸契約書を結ぶように、商取引において契約書をかわすことは常識です。にもかかわらず、会計業界は殿様商売の意識が抜けずに、口約束で曖昧にしたまま仕事をしていたのです。そのことによってトラブルが絶えなかったにもかかわらず、それでも従来のやり方をただ踏襲するということが私には信じられませんでした。
私が仕事の範囲、契約期間、免責事項、金額などを詳細に記した契約書のサンプルをお見せし、第一号のお客様から契約書を交わしていることを告げると、皆様一様に驚いていたことが不思議でなりませんでした。
2つ目は、事務所独自の袋です。会計事務所はお客様の領収書をはじめとする原始資料をお預かりしますが、私が勤めた事務所はどこも余っていたデパートの紙袋やお菓子の袋などに入れて、お戻ししていました。私はこのことに強い違和感を抱いておりました。
どの業界にしても、商品をお客様にお渡しする際、自社のロゴや会社名、またはブランド名などを入れた袋や封筒などに入れて渡すのが当然です。ですから私は左ページの写真のバッグを特注で製作し、お客様に資料をお渡しする際に活用していました。
3つ目は、決算書・申告書についてです。会計事務所は月額の顧問料とは別に、決算書・申告書の作成料を頂戴します。当時でも最低10万円は決算・申告料としていただいていた時代です。
しかし、大半の会計事務所は決算書・申告書を白黒でコピーし、ホッチキスでとめて「はい」と手渡す、という具合でした。私はこういった会計業界の仕事ぶりに、同業としてものすごく恥ずかしい思いを抱いておりました。まるで、つくり終えた料理を皿に盛り付けることもせず、鍋やフライパンのまま「ポン」とテーブルの上において「食べてください」と言っているようなものです。他にも出版の世界で言えば、ただ原稿用紙に書いたものをそのままホッチキスでとめて渡しているようなものです。
これでは商品とは言えません。決算書・申告書は、会計事務所の商品の要なのです。ですので、私は決算書・申告書に解説や図解を載せ、きれいな表紙をつけて製本し、お客様にお渡しすることにしました。
また、お客様は会計事務所に対し、ただ税務署に申告書を提出するためだけに頼んでいるわけではない、と私は感じていました。
「どうすればもっと会社がよくなるか?」
「どうすればもっと利益があがるのか?」
こういった経営者の切実な想いに応えるにはどうしたらいいか。考えあぐねた結果、私は決算書・申告書だけでなく、経営計画書、来期の決算書、来期の予想損益計算書をお客様と一緒に作成し、経営にお役立てていただけるようにしたのです。
バッグ、ケース、製本された決算書・申告書
およびその書類一式を入れるケース、製本された決算書・申告書
この3つを例にとってもわかるように、他の業界では「おかしい」と思うようなことでも会計業界では平然とまかり通っていたのです。言ってしまえば「会計業界の常識」は「世間の非常識」と言っても過言ではありません。
したがって、私は、ごく当たり前のことをしただけ、というのが素直な実感でした。にもかかわらず、全国の会計事務所の所長先生が見学に押し寄せ、目を見開いて驚き、契約書の見本にしても、事務所オリジナルのバッグにしても、製本された決算書・申告書にしても、まるで宝物をもらったように感動されて事務所を後にされました。
その姿を見て、私は「自分にとっては当たり前でも、他の会計事務所にとっては垂涎の的なのではないか?」と思い、15年間の会計事務所経営のノウハウを体系化、商品化し、「会計事務所経営スクール」と銘打って全国に問うたのです。
「会計事務所経営スクール」では、理念や理想論ではなく、私の実践した生きた成功ノウハウをあますことなく公開しようと決めました。全3日間、6講座のセミナー形式にし、様々なツールもすべてサンプルとしてお渡ししました。価格は150万円。この価格設定の背景には2つの理由があります。
ひとつは、身も蓋もない話ですが、「人が集まらなければ、それはそれでいい」と思っておりました。現実的には10人程度の参加で1回開催できれば十分、といった軽い気持ちだったのです。
そして、2つ目の理由ですが、他業界の方を対象とするならいざしらず、同業者に仕事のノウハウをあますことなく公開するわけですから、この金額は妥当だろうと思ったのです。
結果、ふたを開けてみると全国からのべ800名を超える参加者が集まりました。
「会計事務所経営スクール」の成功を通じて私は、「成功ノウハウを商品化する」ことこそがお金儲けのみならず、自らをさらに高みへと押し上げていく原動力となりうることを学びました。
普通はどんな業界でも、同業に対し、成功のノウハウは秘密にするものであっても、決して公開するものではありません。私自身もはじめはそう思っていました。
しかし、実際は逆なのです。本業に徹底して取り組み、どこよりも優れた商品をつくり、そのノウハウを体系化、商品化し、同業に公開するということは、厳しい批判の眼にさらされるということです。その緊張感がより一層、商品に磨きをかけ、やがて完璧な形へとしていきます。
現在、私は故郷いわきの野本会計事務所だけではなく、東京のエヌエムシイ税理士法人、そして会計事務所に特化したコンサルティングを行う株式会社エヌエムシイなどの経営を行っておりますが、「成功ノウハウを商品化する」を経営戦略のひとつの軸としています。
前述した「会計事務所経営スクール」以外の例をあげれば、平成14年の税理士法の大幅改正による広告解禁にあわせ、税理士法人を東京に新たに設立し、「会計事務所の仕事をサービス業に転換する」というコンセプトのもと、1億円のプロモーション費用をかけ、3年で約700社のお客様にご契約をいただくことができました。
そして、このお客様獲得の成功ノウハウを「経理コンビニ」と銘打って商品化し、全国の会計事務所に公開しました。結果、約3年間で全国の80を超える会計事務所にご利用いただきました。
現在は、更なる高みを目指して、クラウドシステムを用いた在宅スタッフの活用による会計業務の一層の合理化に挑戦しているところです。
このように成功体験を公にすることは、ノウハウ公開による利益のみならず、「もっと高みを目指したい」といったモチベーションの活性化をもたらし、それこそが更なる成長、更なる利益をうみだすのです。
本稿は「お金の使い方」をテーマにお送りしておりますが、つまり、まず第一に本業にお金を使うこと、しかも他人のやらないような独創的なものにお金を使い、成功させるということが肝要なのです。そうすれば、蓄積された成功ノウハウを商品化することもでき、さらなる利益へと繋がるのです。
税務総合戦略室便り 第49号(2013年08月01日発行分)に掲載
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