『税務総合戦略室』では、先月から「二年目を迎えた国外財産調書制度への対応と海外を活用した資産運用の税務対策」と題した新しい税務対策セミナーを開催しております。
平成24年度の税制改正において、国外財産を保有する人がその保有する国外財産について調書を提出する仕組み(国外財産調書制度)が創設されました。毎年12月31日時点で、その価格の合計額が5千万円を超える国外財産を有する居住者は、財産の種類、数量及び価格その他必要な事項を記載した調書を翌年の確定申告期限までに税務署長あてに提出しなければならないという制度です。ここでいう国外財産とは、現預金はもちろん、有価証券、不動産、貸付金なども含まれており、海外に所在するあらゆる財産が対象となっています。
来年3月が法施行後の最初の提出時期となっていることもあり、国外財産にはどの範囲まで含まれるのか、国外財産をどのように評価するのか、自分は調書の提出該当者になるのか、どのように記載したらよいのか、など弊社にも多くのお問い合わせ、ご相談をいただいておりますが、その内容をお聞きすると、かなりの確率で誤った情報により過大な不安や恐怖感を抱かれている方がいらっしゃるように感じています。
日本の税務当局では、従来から国外送金等調書をはじめ、税務調査等において収集した情報や、外国当局との情報交換において得た情報に基づき、国外に所在する財産から発生する所得等について課税を行ってきました。
しかしながら、日本の当局が外国の金融機関等に調査権限を求めることは執行管轄権限の制約から困難であり、また、外国との情報交換でも網羅的にすべての納税者情報を求めることは困難であることから、国外の財産に関する把握体制には限界もあるといわれてきたところです。
このような状況の下、最近、キャピタルフライトという言葉をよく耳にするように、国外の財産保有が増加傾向にある中で、国外財産に係る所得税や相続税の課税漏れが増加してきていることから、国外財産に係る情報を的確に把握するため、納税者本人から国外財産の保有について申告を求める仕組みが創設されたのです。
つまり、「国外財産は税務当局に把握されにくい」ということを利用して所得税や将来の相続税を免れようという人を牽制するための制度ですから、脱税を意図していない大多数の人にとっては特段恐れることのない調書であると言えます。
しかし、この調書を提出することにより何か新たな課税関係が発生するだとか、国家に財産が丸わかりになってしまうことで、没収されてしまうのではないかというような不安を抱えている方もいるようです。
中には、国外財産さえなければ調書を提出する義務はないとの強い思い込みから、損失を覚悟の上で、急いで海外に所有している不動産を売却したり、海外投資しているファンドを解約したりして、日本にお金を送金したという方もいらっしゃるようです。
また、怪しげな「国外財産調書の提出を回避する方法」なるものがささやかれているという話も耳にしますが、当然ながらその方法が合法的なものでなければ意味がないばかりか、逆に課税リスクが生じてしまうという危険すらあります。
過去に譲渡益などの申告漏れがあった人については、調書を提出したくないという気持ちもわかりますが、調書を提出しないとどうなるのでしょうか?
国外財産調書の提出を担保するために、調書の提出がない場合や記載に誤りがある場合で、申告漏れが生じたときには、加算税を5%加重するというペナルティがあり、さらに重大な故意による調書の不提出や虚偽記載ということになると、『1年以下の懲役または50万円以下の罰金』という大変重い罰則が科されることになっています。
国の借金残高が1000兆円に達するという膨大な公的債務を抱える日本の財政破綻リスクへの不安から、もし円の価値が大幅に下がった場合でもリスクヘッジできるように、海外に資産を逃がしてその価値の暴落に備えている方は大勢いらっしゃると思います。
また、将来の値上がりを見込んでマレーシアなど経済成長が見込まれる新興国の不動産に投資している方もいらっしゃるでしょう。海外での資産運用には高い利回りが期待できるというメリットもあります。
資産防衛のために国外財産を保有することは、よい選択肢なのです。
そのように、せっかく海外を活用したグローバルな分散投資(ポートフォリオ)を行ってきた方が、誤った情報による不安から、せっかく投資していた魅力的な国外財産を日本に戻してしまうのはもったいないことです。
しかし、海外での資産運用には多くのメリットがあると同時に、クリアしなければならない複雑な税務の問題も発生します。運用益に対する課税区分の問題を考える必要がありますし、共有名義による投資には贈与税認定に気を付けなければならないケースも生じます。
税務総合戦略室は、単なる税逃れを目的とした海外資産運用ではなく、適切な税務対策を行いながら、財産保全を目的としたポートフォリオ構築を行うことをお勧めします。その場合、国外財産調書の記入・提出を含め、専門家による合法的なきちんとした税務対策を講じた上での資産保全・運用策を考えることが重要なのです。
相続税を軽減したいのならば、その方法は資産を隠すのではなく、別途、合法的な対策を時間をかけて行っていくべきではないでしょうか。
税務総合戦略室便り 第51号(2013年11月01日発行分)に掲載
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