今年、私は古希(70歳)を迎えました。これにちなんで前2回の連載では、私がこれまで歩んできた人生、仕事を振り返りつつ、成功とはどういうことかについて考えてみました。
今回はその締めくくりとして、私自身の「これからの15年」を展望し、その決意を表明したいと思います。
じつは古希を迎えてしばらくして私は体調をくずし、医師から短期間の休養を言い渡されました。風邪を引いたことさえなかった私ですから、まさに鬼の霍乱です。結局1カ月ほど仕事から離れて療養したのですが、このときの経験が私に天啓のような気づきを与えてくれました。
それは「百年企業をつくろう!」という決意でした。今回はそのことについて、述べてみたいと思います。
70歳という年齢は、誰がなんと言おうと高齢者です。70歳ともなれば誰しも「人生の締めくくり、幕引き」を考えるようになると思います。私自身、病床に臥せていたとき、そういった思いにとらわれていました。
私は42年間それなりに仕事をしてきましたし、自分なりの成功を納め、満足できる生活を送っています。会社経営も軌道に乗っています。そんな中で今後のことを考えてみると、
「これまで70歳になるまで頑張ってきたのだから、これからは徐々に会社の事業を縮小し、終えていく準備をしてもいいのではないか……」
といった気持ちになっていたのです。
「会計事務所はオーナー所長が退いて子どもが継がなければ終わるものなんだから、それもいいだろう」
などと漠然と考えていたのです。
あとで述べるように、私の根本事業である会計事務所の業界は、ここ何十年も変わっていません。このままでは未来がないことは明らかです。その旧態依然とした業界を変革していくことが私の夢でもありました。ところが、体調をくずして今後のことを考えると、それも「どうでもいいこと」のように思えてきました。
一方で、若いころから抱いてきた会計事務所業務への思いを中途半端な状態で幕引きしてしまうことに、ジレンマも感じてもいました。
仕事ばかりではありません。プライベートの時間に対しても、プラス思考は影をひそめていました。「夢」を思い描くことより、自分の「幕引き」のことばかり頭に浮かびます。なぜか「投げやり」な気分になってしまう自分がいました。
健康を害し、仕事から離れて療養していると、気がつくとそうしたマイナス思考の考えばかりが頭をめぐっていたのでした。
私はこの歳になるまで、いつも前向きで明るく楽しく、プラス思考でワクワクしながら仕事をしてきました。ところがこの年齢になって、体調を悪くしただけで、それまで当たり前にあった「気力」が簡単に失せてしまうということを初めて体験したのです。
その後、おかげさまで病気は全快し、体調は良くなり、以前のように運動も仕事も行えるようになってきました。体力がぐんぐん回復し、仕事も通常のリズムに戻りました。講演も行いました。そうなると不思議なもので、再び気力も充実し、発想も前向きになってきます。人間の体は正直なものだと思います。
体の健康を取り戻し、精神的にも前向きな発想ができるようになると、「このまま縮小して会社を終焉させる」という体調が悪かったときの考えに、なぜ自分が取りつかれてしまったのか、不思議で仕方ありませんでした。同時に、「それではいけない」という強い思いが自分のなかに立ち上がってくるのを感じました。
わが社には若い社員もいます。彼らには家族もいます。今後30年、40年と稼いでいかなければなりません。これまでわが社のために一生懸命に働いてくれた彼らが路頭に迷うようなことになっては申しわけがない。彼らが引退するまで、そして引退してからもずっと、自分の会社として誇りを持てるような「百年企業」にすること、その基盤をつくることこそ、私の最後の仕事なのではないか。そう考えるようになったのです。
これからの私の15年は、「事業の終焉」のためではなく、「百年続く企業への準備」のための15年にしようと、私は決意しました。
「これからの15年で、必ず百年企業の基盤をつくるぞ!」
そう考えるようになると俄然やる気が出てきて、また以前のように人生が楽しくなってきました。体調の回復とともに、気力も180度転換して復活したのです。
私はあらためて、「人は健康でなければ考え方も後ろ向きになるな」と感じました。そして、それは経営者にとってはとても怖いことではないか、とも感じました。
経営者はプラス思考が不可欠です。それが「夢」をつくり、会社を引っ張る原動力となるからです。そのプラス思考は、じつは体の健康によって支えられているのです。
あらためて振り返ってみると、一流の経営者はみんな自分の健康に気をつかっています。健康のために惜しげなくお金を使いますし、体調管理を第一に考えて無理はしません。自分の健康を最優先させることが経営のために最も重要であることを熟知しているからです。
私自身も、以前から自分なりの健康法を継続しています。
さて、私にとって「百年企業」とは、どういうものでしょうか。
前述のように、会計事務所の業態は何十年も変わっていません。業界が停滞しているのも、そのせいです。しかし、何十年もイノベーションが行われていない業界には、だからこそ大きなビジネスチャンスが眠っています。私が療養中に「やり残した」と悶々としていたことがまさにそれで、またそれが「百年企業」を目指す決意のきっかけともなったのです。
たとえば、会計事務所の事業承継を見ると古い体質がわかります。
会計事務所というのは、税理士や会計士といった国家資格を得て行う「士業」です。弁護士や開業医も同様です。士業は個人の事業からスタートしますから、会計事務所や法律事務所を組織したとしても、創業者が引退して仕事を辞めれば事務所も終わっていくのが慣例でした。
しかし、今は士業にも法人格が認められています。税理士法人、弁護士法人、司法書士法人、医療法人などです。「法人」とは、企業を法的な人格として認めるということですから、たとえ創業者が引退しても、2代目経営者が引退しても、企業自体は法的に永続するということです。
企業というのは本来、社会のためになる存在であって、これを存続させることが経営者の使命です。会計事務所も家業の域から脱却し、公器として成長させ、百年二百年と続く企業にしていかないといけません。
そのためには、経営を引き継ぐ能力のある人材を探し、事業を継承していく必要があります。
もちろん、適当な後継者がいれば百年続く、というわけではありません。その前に、いつの時代にも顧客に受け入れられるサービスかどうか。時代に合わせたビジネスモデルの工夫が行われているかどうか。それが経営者の仕事であり、そこが百年企業になるか終焉する企業かの分かれ目になります。
会計事務所は、全国に4万軒前後あると言われています。その会計事務所のビジネスを詳しく眺めてみると、40年前に私が28歳で開業したころとほとんど変わっていない、という愕然とする事実がわかります。
もちろん、使う道具はソロバンから電卓に変わり、コンピュータも登場して、以前では考えられないような合理化が進みました。しかしそれは世の中全般の「道具」が変わっただけで、会計事務所が提供するビジネスモデルは何ら変わっていません。
毎年税理士が増えるなかで「会計事務所業界に未来はあるのか」ということが10年以上も前から議論されています。イノベーションが必要だということは誰もがわかっているのですが、結局は何も変わらないままずるずると時間が経過している、それが会計事務所業界の現実です。
顧客は時代の変化を敏感に感じ取って、変わっていきます。その変化に乗れず取り残された業態は、ほかの業界にもたくさんあります。
顧客の感覚に合わなくなったものは、やがてあきられてしまいます。そして、業界が旧態依然としていれば、そのビジネスは気がつけば時代遅れになって、見向きされなくなります。
会計事務所は国家資格で守られた税務業務でニーズが安定しているため、変化がないまま何十年も経過してしまいました。しかし少し考えれば、新しいビジネスモデルはいくらでも考えることができるのです。
百年企業となる会計事務所の基盤は、旧来の業界の常識のなかではつくれません。時代の変化に耐えて生き残っていく、会計事務所の新しいビジネスモデルを創出していかなければならないのです。
病気から回復した私の頭の中には、ある計画が着々と育ってきています。それは会計事務所の基本的なビジネスモデルを根本から変えてしまうものです。実現すれば過去に見たこともない画期的な会計事務所が誕生することでしょう。その準備が、いま着々と進められています。
このプランを社員に話したところ大喝采が起こり、プロジェクトへの参加を希望する社員が殺到しました。みんなわくわくして、士気は大変に盛り上がっています。おそらく3年ほどで、百年企業への基盤づくりが軌道に乗るでしょう。
そういう社員を見ていると、「自分の人生とともに会社の事業も幕引きする」などマイナスの考えは吹き飛んでしまいます。いままで以上に健康に気をつかい、毎日の体調をしっかりコントロールして頑張っていこうとあらためて決意しています。
今回私は、病気になって生まれてはじめて「やる気を失う」という経験をし、そこから立ち直ることで、逆に「百年企業」への意欲を強くすることができました。健康の大切さに気づかせてくれた病気に、感謝したいと思います。
税務総合戦略室便り 第55号(2014年05月01日発行分)に掲載
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