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成功者になるための法則その7 
増やすより使う方が難しい、お金とはいったい何か

第57号(2014年08月01日発行分)
エヌエムシイ税理士法人 会長・税理士
野本 明伯

今年からオーナー経営者を対象に「お金が増える経営」というセミナーを始めました。10回ほど開催し、延べ400名以上の参加者を集めています。
 後日、希望者には90分間の個別相談も行っており、これまで30名くらいの方とお話しさせていただきました。最近はお客様個人と直接対話する機会が少なくなっているので、私にとっても良い勉強とさせていただいております。
 個別相談の内容は、相続税対策、資金繰り、税務対策、資産運用などが多いのですが、先日とても変わった相談を持ってみえたお客様がありました。
 今回は、この経営者の方(仮にAさんとしましょう)の不思議な相談を紹介しつつ、お金というものの難しさについて考えてみたいと思います。

金持ち・時持ち・夢持ち

Aさんの話の前に、セミナーの冒頭、いつも私がお話ししている内容を、みなさんとも共有しておきたいと思います。
 私は「成功者とは何か」という話からスタートします。お金をたくさん稼げば成功者でしょうか。私はそうは思いません。もちろん「金持ち」は成功の一つの指標ですが、同時に「時持ち」、また「夢持ち」でなければ真の成功者とは言えないのではないか。私はそう問いかけます。
 「金持ち」は、所有する金額の問題ではありません。その人が必要と考えるお金があればみな「金持ち」で、他人の懐と比較する意味はありません。しかし、たとえ金持ちでも、時間がなければお金はうまく使えません。いつも必要な時間を自由につくれる人が「時持ち」です。さらに、夢を持っていなければ時間もお金も持て余してしまうでしょう。
 「金持ち・時持ち・夢持ち」。そんな成功者になるのは簡単ではありません。でもオーナー経営者には、その可能性が十分にあるのです。そんな話から、セミナーは始まります。

ある製造業経営者の不思議な相談

さて、Aさんは65歳の経営者です。夫人と合わせて年に1億円以上の報酬を得ていますが、それでも会社は何億もの利益を出しているのですから大変な優良企業です。
 では、何で困っているのでしょう。
 Aさんは、毎月入ってくるたくさんのお金をどう使ったらいいかわからない、と言うのです。
「いくら使ってもお金は増えていく。このままだと段ボールにお金を詰めて死んでいくかもしれない……」
 数年前に、何億円ものお金を段ボールに詰めて自宅のガレージに放置したまま亡くなった女性のことが報道されたことがありました。発見されたお金はボロボロに腐っていたそうです。Aさんは自分もその女性と同じになるのではないか、と言うのです。
 お金が増えて困るという相談は初めてで驚きました。しかし、よく考えると、このAさんの悩みは「金持ち」になった多くの人が陥る悩みではないかと思い直し、Aさんの話に耳を傾けることにしたのです。

高級レストランで食事が楽しめない

Aさんは言います。
「夫婦で高級レストランへ行っても、つい原材料の計算をしてしまう。利益の取りすぎではないかとコストのことばかり考えてしまって、料理をぜんぜん楽しめないのです」
 Aさんは製造業の経営者ですから、会社で長年にわたって厳格なコスト削減を続けてきました。何銭という節約が膨大な利益につながる世界で、何十年と苦労を積み重ねてきたのです。その結果が現在の優良企業であるわけですが、Aさんは気づいたらその発想から抜けられなくなっていて、プライベートでおおらかにお金を使えなくなっていたのです。
 私が飛行機のファーストクラスの快適さについてお話しすると、同じ飛行機で同じ時間に到着するのに、なぜ通常の10倍近くも高いお金を払えるのか理解できない、と言います。私は「お金はストレスレスの人生を送るために使うもの」と考え実践していますが、Aさんには通用しないようです。
 また、Aさんは毎日会社から工場までクルマを運転して通うのが日課だそうです。私は、ハイヤーを雇うように提案しました。往復2時間なら月に60万円程度でしょう。Aさんには痛くも痒くもないはずです。それで毎日自由に使える2時間を手にできるのですから、安いものでしょう。しかしAさんは、頭では私の提案に賛同できても、実際には「もったいない」という気持ちが先立って実行できそうもありません。

なぜ自由にお金が使えないのか

Aさんの気持ちは、読者のみなさんもわかる部分があるのではないでしょうか。実は、私の家内にも同じようなエピソードがあります。
 私たち夫婦が六本木ミッドタウンのレジデンスに暮らし始めて7年ほどがたちます。しかし最初の数年、家内は以前住んでいた阿佐ヶ谷の美容院まで通っていました。ミッドタウンの美容院は2倍も3倍も高いからです。買い物も周辺のスーパーは高いので、わざわざ安いところまで出かけていきます。
「せっかく利便性の高いところに住んでいるのだから、どんどん利用しなければ逆にもったいないだろう」
 私はそう言うわけです。私たちはそういった節約が必要なほどお金に困ってはいないし、だから高級レジデンスに住んでいるわけです。それなのにいつも「ここは高い、周囲は高い、もったいない」と考えて暮らしているのは、ストレスを感じるためにそこにいるようなものです。
 しかしそんな家内も、2~3年後にはようやく切り換えられました。いまではホテルのサービスを積極的に使い、ミッドタウンで買い物をして、「もう離れられない」と言っています。
 101歳で亡くなった私の父親もそうでした。父は80歳のころ、5000万円の現金を持っていました。しかし、そのお金を使って悠々自適に暮らすということを決してしなかったのです。私は父に最後の人生を幸せに生きるためにそのお金を使ってほしかったのですが、いくら言ってもダメでした。
 そこで、私は父に3000万円の中古マンションの購入を勧め、父には月々30万円ずつ家賃が入るようになりました。すると面白いことに、父はこの30万円はしっかりと使い切ってくれたのです。
 人は年齢を重ねるごとに、財産の目減りが怖くなるのだと思います。しかし、家賃収入の30万円は、毎月使い切っても元の財産は減りません。だから父はお金を使えるようになったのでしょう。
 お金を使うということは難しい。それは、いかにたくさんのお金を持っていても、その人のお金に対する心理がブレーキをかけるからです。

「逆算の家計簿」を付けよう

発想や考え方のクセは、意識してやっているわけではありません。節約に慣れてしまうと生理的に贅沢がイヤになり、判断する前に「使えなくなってしまう」のです。
 そこで私はAさんに「逆算の家計簿」なるものを提案しました。
 家計簿は、お金を無駄なく計画的に使っていくために日々付けるものです。Aさんはその逆。いかに前月の収入を使い切ってゼロにするかを計画的に実践していくための家計簿、つまり、「逆算の家計簿」を付けるのです。そして、「残高をゼロにしたらOK」という価値観を植えつけていくのです。やがてAさんも自由にお金を使えるようになるでしょう。
 しかし、そこでまた考えました。
 毎月手取り700万円もの収入は、闇雲にモノやサービスを購入しても使い切れるものではありません。どうしても残ってしまうのが当然です。そこで、私はまた提言しました。
「使い切れず残った分は、人が喜ぶことのために使ったらいかがですか」
 寄付などは、その典型的な例です。

お金を使って相手に喜んでもらおう

コストカットや値切って利益を上げることは、「相手の儲けをいかに削るか」を考えることです。これにはどうしてもストレスがついてまわります。相手からは嫌われたり、恨まれたりするかもしれません。しかし、お金を使って相手を喜ばせることにストレスはありません。感謝され世の中のためにもなるので、自分も幸せな気持ちになれます。それは自己実現という素晴らしい喜びにつながっていきます。
 相手に儲けてもらう喜びというのは、なかなか得られるものではありません。お金持ちだからできることです。Aさんのような人だからこそ、得られる喜びなのです。
 実は会社経営も同じです。会社を成長させていく時代には、経営者はコストカットの鬼となって利益優先で突っ走らなければいけません。しかし、ある段階で利益を継続的に上げられるようになったら、今度は難しい交渉に勝つことよりも、取引先の会社にも儲けてもらうことも考えるようにシフトしていくべきなのです。これは、会社の成長を継続させるためにも重要なことだと思います。

お金は国からの「一時預かり金」?

お金というのは不思議なもので、貯まれば貯まるほど幸せになれるかというと、必ずしもそうではありません。Aさんのように、使い道がわからず困ってしまうこともありますし、貯めこんだたくさんのお金(資産)のためにさまざまな悩みを抱える人もたくさんいます。
 相続税の悩みはその典型的なものでしょう。頑張って稼いだ結果、死んだ後に残るたくさんのお金のことで悩まなければいけないのは、なんとも理不尽なことです。
 相続税とは何なのでしょう。お金を使わないで残した人にはかかるが、使い切ってしまった人にはかからない。お金を貯めた人ほど、たくさんの税金を払わなければならない。これは、どういうことなのでしょう。

 私は、ふと思いました。お金というのは、いかにたくさんの札束を持っていようが通帳に高額の数字が印字されていようが、それは使わないかぎり国からの「預かりもの」にすぎないのではないのか……。
 国からすれば「お金はあなたに預けたもので、それをいつどれだけ使ってもかまいません。だから一生で使い切れなかった分は亡くなったときに一定額お返しください」。それが相続税ではないでしょうか。
 お金は使ってはじめてお金になる、だから、お金は増やすよりも使うことが難しいのです。

お金はニコニコして使いたい!

同じようにセミナー後の相談にみえた方で、66歳の女性経営者の方がありました。会社の売上は25億円で、ご自身の年収は8000万円です。この方はAさんとは正反対で、入ってくるお金を可能なかぎり有効に使っておられます。仕事以外にも時間をつくり、お金を使って人生を謳歌されています。話を聞いていて惚れ惚れとするほどでした。
 お金というのはニコニコして使いたいものです。自分が持っているお金はたまたま今そこにあるだけ、預かっているだけなのです。自分のために使って、ほかの人にも喜んでもらえばいいではないですか。使い切れなければ世の中のために差し出せば、自分も幸せになれるではありませんか。それはいちばんの贅沢だし、そういうことができるのは最高の人生だと思います。
 本当のお金持ちは、どれだけお金を集めたかではなく、集めたお金をふんだんに使って人生の時間を楽しみ、自分の夢を実現していく人のことだと私は思います。人生の成功者は「金持ち」+「時持ち」+「夢持ち」。やはりこの三つはつながっているのです。
 50代60代ともなれば、だれもが老後のことを考えるようになるでしょう。そのとき、あらためてお金について考えてみることをお勧めします。人生はいつか終わって、お金はこの世に置いていかなければならないのです。自分の人生のなかでお金をどうとらえるのか、節目節目で考えることは、幸せな人生を送るためにとても大切なことだと思います。

税務総合戦略室便り 第57号(2014年08月01日発行分)に掲載

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