7月末日、本年から提出が義務付けられた「国外財産調書」の提出状況について国税庁のプレスリリースが行われました。この報道発表を受け、当日、我々税務総合戦略室にも、急遽NHKニュースのテレビ取材がありました。
発表によると、国外財産調書の総提出件数は全国で5539件、国外財産の価額の総合計額は約2兆5千億円だったということです。
国外財産調書制度とは、「その年の12月31日において、その価額の合計額が5千万円を超える国外財産を有する居住者は、翌年3月15日までに当該財産の種類、数量及び価額その他必要な事項を記載した国外財産調書を、税務署長に提出しなければならない」という制度です。
この制度は、自主的に自己の財産情報を記載して国に提出しなければならないというもので、誰もが「そんなもの本当は出したくない」と思う個人情報を出させようとするわけですから、適切な提出を確保するために以下のような措置が設けられています。
※罰則の適用は、国外財産調書制度に係る周知期間の確保等の観点から(未だ制度を知らない人もいるので)、平成27年1月1日以後に提出すべき調書について適用されます。
NHK記者の方から「率直に、提出件数5539件という結果をどのように思いますか?」というご質問をいただきましたが、正直、返答に窮してしまいました。
日本にどのくらいの富裕層世帯があるのかについて、例えばボストンコンサルティングによる今年6月のプレスリリースでは124万世帯(100万ドル以上の金融資産を持つ世帯数)、野村総研が2012年に発表したアンケート調査では81万世帯(純金融資産1億円以上)などの数値が発表されています。
ただ、それらの富裕層のうち、「国外に5千万円以上の財産を保有している人」がどのくらいいるのかは霧の中なのです。個人的な感覚では、1億円以上の金融資産を持っている世帯が100万世帯前後ある中で、5000件強という数字(0.5%程度)はいかにも少ないという感じはしますが……。
当日の取材では、
というようなお話をさせていただきました。
法の範囲内で知恵を使って税コストを最小化することは納税者の権利であり、胸を張って節税してよいと考えますが、法に違反して税逃れしている人を見逃す不公平はあってはならないことです。そのためには国外財産調書の「意図的な不提出」を摘発し、海外財産の申告漏れを防ぐ必要があります。
課税の不公平を防ぐために税務当局はどのような取り組みを行っているのでしょうか?
2014年7月11日の朝日新聞に注目すべき記事が掲載されました。
“『大金持ちの税逃れ、許しません 国税に専門チーム、海外投資を監視』
富裕層の中でも、より資産や所得がある人たちの投資活動の情報などを専門的に集め、脱税や税逃れを監視する「超富裕層プロジェクトチーム」が東京、大阪、名古屋の各国税局に10日、発足した。
高度な節税策を利用した富裕層による国際的な税逃れが問題になる中、富裕層の実態を調べて税務調査のノウハウを蓄積し、課税に結びつける狙いがある。
「超富裕層」について、国税当局は税務調査に支障があるとして調査対象となる基準を明らかにしないが、例えば、国内外に数十億円規模の資産を持ち、積極的な投資活動をしている会社役員や投資家らが対象になるとみられる。
東京局では、税務調査の方針を決める課税総括課に専従の担当者7人を配置。所得、相続、法人税の経験豊富な調査官のほか、マルサで知られる査察官も加わった。大阪局は「富裕層対応本部」を設けて5人が担当、名古屋局も「対策班」を設置する。いずれも初めての試み。国税庁も支援チームをつくる。
プロジェクトチームは、富裕層による海外での資産運用が増えている現状を踏まえ、富裕層の中でも上位の人たちの投資活動や外国金融機関への送金状況などを分析し、税逃れがないか情報収集する。低税率の国に移住する人が増え、節税策も高度になっているため、その実態を把握し、効果的な税務調査を検討する。”
【2014年7月11日 朝日新聞】
このプロジェクトチームがどのような成果をあげられるのか今のところは不明ですが、海外での投資活動に対する税逃れを防がなければならないという当局の本気度を感じます。
一部の富裕層はあまりにも高い日本の税金やカントリーリスクを考えて、海外脱出(日本の非居住者)という選択をし始めています。非居住者となることを「海外逃避」だとか「日本を捨てる」などと報じられることもありますが、どこの国で暮らすのかはその人の自由であり、非難されるいわれはありません。
優秀な富裕層が日本を離れてしまうということは国力の低下につながり、国家の損失ですから、このような優秀な人々が日本にとどまるような制度を考えていかなければならないと思います。
最近では、香港に住民票を移した東証1部上場企業の創業者に対し、日本が生活の本拠なのに海外子会社からの報酬を申告しなかったとして、約10億円の申告漏れを指摘した調査事例などがあったように、日本の税務当局は簡単に非居住者だとは認めてくれません。
「生活の本拠」は、【住居の状況】【滞在日数の状況】【職業の状況】【資産の状況】【家族の状況】等を客観的に総合勘案して決定するという考え方が有力になっています。
非居住者を目指しているが、税務調査で非居住者性を否認されるのではないかという不安を抱えていらっしゃる方は多いようで、弊社にも相談が数多く寄せられています。また、非居住者対策のセミナーには今まで200名を超える方のご参加をいただいています。
私達『税務総合戦略室』は、富裕層の方々の味方でありたいと考えています。専門家としての知恵を駆使したタックスプランニングにより、税務調査のストレスから解放され、安心して生涯の税コストを最小化するためのお役に立ちたいと願っています。
税務総合戦略室便り 第58号(2014年09月01日発行分)に掲載
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