毎年7月に行われる税務職員の定期異動を終え、「税務調査最盛期」と言われるシーズンに突入しました。8月以降、税務総合戦略室でも多くの税務調査立会いを行っています。
今回は、最近の税務調査立会いで感じた印象を綴ってみたいと思います。
国税庁が昨年10月末に報道発表した資料によると、平成24事務年度(24年7月~25年6月)の1年間に調査が行われた法人の件数は9万3千件で、前年対比27.4%の大幅な減少でした。
平成23年度の税制改正において、税務調査手続の明確化等を内容とする国税通則法の改正が行われ、納税者に対する説明責任が強化されたことによって、税務当局が納税者にとって不利益な課税処分を行う場合には、今までよりも否認理由について十分な説明が必要となりました。そのため、税務調査手続きに係る事務作業量が増加し、1件当たりの調査期間が平均2.6日伸びたことなどから、3割近くも調査件数が減少する結果となりました。
法人税の実地調査率(どのくらいの割合で税務調査が行われたのかを示す割合)は、過去最低の3.1%となったと大きくニュースでも報道されました。3.1%は特別に低い数字ですが、ここ数年の実地調査率は4%程度の数字となっています。
4%という数字は、単純にどの法人にも均等に税務調査が行われると仮定して考えた場合、約25年に一度しか調査が行われないという割合ですから、これはいかにも低すぎるという気がします。
今年の7月以降、税務調査の事前連絡が立て続けにあり、かつ、その連絡も定期異動直後から行われたので、「今年の調査動き出しはすいぶんと早い」という印象を持ちましたが、我々がお客様企業とのセカンドオピニオン契約を通じてお付き合いしている税理士さんとの会話でも「今年は税務調査の連絡が多い」という声を多く聞きました。
また、税務調査の際、担当調査官との雑談の中で「今年は調査が多いようですね」とざっくばらんに話したところ、税務調査手続の変更に関する事務処理にも慣れたということで、今年は調査件数の指令(ノルマ)が多くなっていると、少々ボヤキ交じりのコメントもありました。
最終的に、どの程度の調査件数増加となるのかは不明ですが、少なくとも前事務年度よりは調査件数が増えるのではないかと推測しています。
調査件数を多くこなすためには、1件あたりの調査日数を短縮する必要がありますが、残念ながらそのようにはなっていないようです。
国税通則法の改正前は、例えば2日間の予定の調査が終わった際、担当者が「この会社は大きな問題はなさそうだな」と判断すれば、必要な指摘事項を示したうえで「では、これで今回の調査は終了いたします」といって終結となるケースが多かったように思いますが、最近の税務調査ではそのようにして終了することはありません。「署に戻って上司に報告後、結果を連絡します」という状況のまま、数週間が経過するというのが普通のことです。
最終的な終了の連絡があるまで社長様は、ずっとモヤモヤとすっきりしない気分を引きずることになってしまいます。
なぜ、このような体制になってしまったのか。端的に言えば、担当者限りの裁量では調査を終わらせることができなくなったということです。否認事項について修正申告の勧奨を行うにしても、調査担当とは別の審理担当者のチェックを経た後でなければできない流れとなっているようですし、何も問題がない『申告是認』処理を行うにも、上司の決裁が必要とされます。
組織としては当然のことかもしれませんが、必要以上に税務調査が長引くことは経営者の心理的・時間的負担も相当のものとなりますので、もう少しなんとかならないものかと感じてしまいます。担当調査官としても、実は終わっていない調査先を積み残し的に多く抱えていることにはストレスを感じるものなのです。
確たる正解のない部分に対する指摘、見解の相違と呼ばれる争いについて、多くの納税者が頭を悩ませています。本来、法律に基づく税務調査である以上、日本中のどこの税務署のどの調査官が調査を行っても同じ結果であるはずですが、そんな状況にないことは数回の税務調査をご経験された社長様自身が一番よくわかっているのではないかと推察いたします。
調査官の個人的な思い込みや感覚が調査結果に反映されるべきではなく、そのために税法の他に通達というものが用意されています。「通達」は、税法の適用を統一的に行っていくために、各税法の法令解釈を国税職員向けに定めたものです。国税組織としての統一的な見解があれば調査官による結論の違いはないように思いますが、実際にそのようにならない理由は、ある取引のとらえ方=「事実認定」が調査官によって異なるからです。
私共が調査立会いを行っている中で、争点となる事項はほとんど「グレーゾーン」と呼ばれるような性質のものです。例えば、
取引金額や給与の額が高すぎるだとか低すぎるだとかいう指摘については、まさにその「調査官なりの感覚」が反映される部分で、通達に記載されているものでもありません。それまでその調査官が歩んできた経歴や経験(大企業や大口事案を手掛けてきたのか、税務署管轄の小規模の会社だけを長年調査してきたのか)、また、個人としての人生の過ごし方までもが事実認定のとらえ方にすべて反映されます。
役員報酬にしても退職金にしても、「これぐらいの金額をあえて問題にすることもない」と考える調査官もいれば、今まで見たこともないような金額だとして大きな問題であるととらえる調査官もいるのです。
納税者としては、確かな基準のないものについて、調査の段階で問題視されることほど不安であり、納得のいかないものはありません。以前、過大役員報酬を指摘されたある会社の社長が、「税務署の指摘は後出しジャンケンではないか」と反論されていました。このお言葉はまさに的を射ていて、強く印象に残っています。
調査対象の法人数が増える中、税務署の調査官の数は増えていませんので、これからも実地調査率が大きく増加するとは考えにくい状況にあります(1件当たりの調査日数をかなり短くするなどの大胆な方針転換が行われたら別ですが)。そういった状況の中、本当に調査すべき会社は「調査必要度の高い」会社であることは当然です。
利益が出ているからといって、今まで数回の税務調査でも大した問題のなかった会社に対して3年おきに調査を行い、「重箱のスミをつつく」ような調査をしていては課税の公平は保たれません。
売上の除外や架空経費の計上など、悪質な経理処理を行っている会社を重点的に調査すべきであって、軽微なミスをあら捜しする体制は改める必要があります。しかし、実際に調査に入ってみなければ、悪質なのか問題がないのかを正確に見極めることは不可能です。調査に入ってみれば、「この会社はしっかりしていて、大きな問題はなさそうだな」ということはそれなりの調査官であればわかることですから、その際には予定していた調査日数を早めに切り上げて、他の問題がありそうな会社に振り分けた方がよほど建設的だと思います。
本当に信頼される税務行政を確立していくためには、誰が見ても問題な部分を指摘し、些細な事項は指導にとどめ、今後の納税意識の向上につなげるような裁量も必要ではないか……というようなことを調査のたびに感じつつ、今日もこれから立会いにいってまいります。
税務総合戦略室便り 第59号(2014年10月01日発行分)に掲載
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