税務総合戦略室便り

HOME >  税務総合戦略室便り >  第63号 >  税務総合戦略室 室長通信 第三十回 税制改正が行われてからでは遅すぎる~税制改正特集~

税務総合戦略室 室長通信 第三十回 
税制改正が行われてからでは遅すぎる~税制改正特集~

第63号(2015年02月01日発行分)

執筆者1

1月14日、平成27年度税制改正の大綱が閣議決定されました。今回の改正の目玉と言われていた法人実効税率引き下げなどの法人税改革のほかにも、地方活性化を税制面から後押しするための措置、高齢者層から若年層への早期資金移転を促す贈与税の非課税制度の拡充、富裕層の海外移住に対する「出国税」の導入など、様々な項目が盛り込まれています。
 今号は、「税制改正特集号」として、税務当局の各専門部署を経験してきた『税務総合戦略室』メンバーが改正内容についてそれぞれ専門分野の税目の解説を行います。
 税務問題は日々変化しており、毎年の税制改正により、今までは認められていた処理が認められなくなるケースがあります。社会・経済の変化に応じて課税当局の取り組みも変わっていきます。どのような時代においても経営者は社会の変化に対応した万全の対策をとり、会社と個人資産を守っていかなければなりません。
 さらに、中長期的な税務対策を考える上では、なぜこのような税制改正が行われるのかを考える必要があります。
 また、

  • 今の日本の財政状況や債務残高がどのようになっているのか
  • 少子高齢化、社会保障費の増大、経済の低迷とグローバル化などにより将来の日本はどうなっていくのか
  • それに伴い税収を確保していくためには(国家を維持していくためには)どのような税体系に向かっていくのか
  • 現在、納税者と税務当局の間でどのような税務訴訟が行われているのか
  • 新聞や政府の税制審議会などでは、どのようなことが議論されているのか

など、世の中の動きを注意深く観察し、アンテナを高く情報収集していくことで「今後はこのような改正が行われるのではないか」と予測することができます。

税制改正が行われてからでは遅すぎる

税制改正の内容が発表されてから税務対策を検討したのでは遅すぎるケースがあります。
 ここ数年、いわゆる「富裕層増税」と言われる法改正が行われてきました。長引く不況で法人税、所得税の税収は確保できず、景気の冷え込みから消費税の税率アップも先送りになっている状況において、「取れるところから取る」相手は富裕層しかないからです。
 今年1月からは所得税、相続税の最高税率が引き上げられ、相続税の基礎控除も4割縮小されました。
 昨年は国外に5千万円を超える財産を保有している方を対象に自身の持つ財産の種類、数量、価格などの報告を義務付ける「国外財産調書制度」が開始され、将来の相続財産の補足が始まりました。
 また、本年の改正事項には国民一人ひとりに割り当てるマイナンバーを銀行の預金口座に適用することが盛り込まれるなど、国家による国民の資産把握の流れは着実に加速しています。
 このような富裕層増税や財産監視に嫌気がさして、また、日本の高額な相続税やカントリーリスクから家族と資産を守るために海外移住を検討されている方も多く、弊社の「非居住者対策セミナー」や「国外財産調書対策セミナー」には多くの方のご参加をいただいております。
 そういった中、突然、今年の7月以降に1億円以上の有価証券等の金融資産を持つ方が海外移住する際、その含み益に課税を行う制度、いわゆる「出国税」の導入が税制改正案に登場しました。法案成立後、数か月のタイムラグしかない状態で法律が施行されることになります。明らかに駆け込みによる出国を防止しようとする意図が感じられます。
 非居住者となって税務リスクを減少しようと考えていたのに、突然「出国税」という聞いたこともない法律が浮上し、急遽海外に移住しようにも対応が間に合わないという方の声を多くお聞きします。
 私達『税務総合戦略室』の非居住者対策セミナーでは、3年以上前からこの「出国税」導入の可能性を予測し、いつ制度が導入されるかもわからないので、対策を急がれた方が良いとお話ししてきました。セミナーにご参加いただいた方の中には、早期に行動を開始して非居住者性を確立し、すでに税務対策を終えられている方も何名かいらっしゃいます。
 なぜ、私達はほとんどのマスコミ媒体や税理士も話題にしていなかった頃から「出国税」導入の可能性を予見できたのか。それは、『税務総合戦略室』所属の国際税務専門税理士が、すでに出国税を導入している諸外国の税制を知見しており、近年の富裕層によるキャピタルフライト、海外移住の流れ、マスコミによるそれらの動きの過熱的報道、税務大学校税法研究者の論文掲載などを勘案し、いつ法律改正が行われてもおかしくないという感触をひしひしと肌で感じていたからだと思います。
 効果的な税務対策は、ある程度中長期的な視点を持ち、十分な余裕をもち、時間をかけて考えていくことが大切ですが、場合によっては今回の出国税の例のように、税制改正を見越して(予測して)スピード感を持った対策を講じることも時には必要となります。今ある税メリット、これから考えていた節税策も法律改正による封じ込めで、まったく活用できなくなるケースもあるのです。

一流の経営者の決断の速さ

私が常々感じていることは、成功している経営者の決断の速さです。
 成功者は、人よりも感覚が研ぎ澄まされ、速く正しい判断をしているからこそ成功しているのだと思いますが、その最終判断のためにコストと時間をかけて多くの情報を収集し、我々のような専門家を上手に活用したうえで、最後はご自身で素早く決断されます。
 税務対策においても、人よりもスピード感を持って決断し、先行して行動を開始することで、良い結果を生み出している例があります。
 平成23年度税制改正においてグリーン投資減税が創設されたことにより、この減税の恩恵を受けられる「太陽光発電事業」は一大ブームとなりました。固定価格買取制度により20年間の売電収入は保証され、なおかつ、その対象設備に投資した費用を全額その年に減価償却できる(即時償却)ことから、投資規模によって合法的に数千万円~数億円の利益の繰り延べを行うことが可能だったからです。
 固定価格買取制度では、最初に適用された価格(固定価格)のまま、20年間売電収入が保証されます。制度が開始された平成24年度の買取り価格は1kWあたり40円(税別)でした。価格は毎年見直しが行われ、昨年平成26年度の買取り価格は32円に引き下げられ、今後は20円台となりそうです。税務総合戦略室の顧問先様の中には、制度が導入されてすぐに太陽光発電事業への投資を決断され、40円という高額な買取り価格により、節税効果だけでなく大きな投資利回りを得ている方もいらっしゃいます。
 電力会社の太陽光発電買取り拒否の問題が立ち上がり、「新たな」受入れは中断されるという事態が起こりました。グリーン投資減税の即時償却制度も、本年の税制改正では太陽光発電設備が対象設備から除外されることになりました。
 制度導入当初、まだ太陽光発電なるものがどんなものか、大きな投資をするには情報が少なく躊躇している人が多い中、早い時期にリスクを取って投資を行った方だけが大きな税メリットと投資利益を得ることができたのです。
 素早く決断し成功している方がいる一方、「本当に大丈夫か」「もっと良い話はないか」と考えているうちに有利な条件や商品は消え去っていきます。

 太陽光発電事業に投資する、海外のファンドや不動産に投資する、外国の居住者になる、誰しも今までの知識や経験にないものを始めるときには不安を感じ躊躇するものですが、情報を収集し、その不安を乗り越えて勇気ある第一歩を踏み出した方にだけ、大きな成功があるような気がしています。

税務総合戦略室便り 第63号(2015年02月01日発行分)に掲載

お電話でのご相談・お申込み・お問い合わせ

全国対応いたします。お気軽にお問い合わせください。

03-5354-5222

PAGE TOP