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成功者になるための法則その13 
増税時代の税理士選び

第63号(2015年02月01日発行分)
エヌエムシイ税理士法人 会長・税理士
野本 明伯

前回は相続税の増税スタートとその節税という話題に接し、あらためて人生とは何なのか、お金とは何なのかということまで考えてみました。
 今回はもう少し現実的に、いかに相続税の納税額を低く押さえ、財産を守るべきか、ということについてお話ししてみたいと思います。
 ただし、当たり前の節税方法を並べるつもりはありません。通りいっぺんの節税対策に奔走することも大切でしょうが、それよりも何よりも重要なのが「相続税申告業務を依頼する税理士選びを間違えない」ということなのです。

7年前に肺ガン発覚、手術を受けた

もう7年前のことになります。私は突然、肺ガンを宣告されました。
 自覚症状などありません。かかりつけの内科クリニックで初めての人間ドックで、たまたまガンが発見されたのです。
 私は驚き、これからどうなるのか不安でいっぱいになりました。しかし、かかりつけ医の言葉を聞いて少し安心しました。
 医師は現在の私の状態を説明し、手術が必要であることをわかりやすく伝えてくれました。そして、その手術の専門家がいる病院を三つほどピックアップし、「この先生方なら、どなたでも安心してお任せできます」と、私に提示してくれたのです。
 私は、その中から会社に最も近い大学病院を選び、右肺3分の1を切除する手術を受けたのです。
 執刀医は、年に数百例もの手術をこなしている肺ガン専門の外科医でした。しかし、手術方法の説明を受けたとき、私は「何もわからないのでお任せします」とは言いませんでした。ほかの専門医のところでも診てもらい、セカンドオピニオンを求めたのです。答えはやはり執刀医と同じだったので、私は同意し、手術が行われました。
 手術は成功し、その後の治療もうまくいきました。おかげさまで現在も元気で仕事をさせていただいております。
 それはまさに、かかりつけ医での検診で発見された肺ガンが、迅速に専門医にバトンタッチされ、早期に的確な治療を受けることができたからにほかなりません。もしもこのような連携がうまくいかず手遅れになったときのことを考えれば、患者にとって、これ以上価値ある医療サービスはないといえるでしょう。
 医療の世界では、良いかかりつけ医を持っていれば、自然に、自分にとってベストの医療サービスが受けられるような非常に合理的な仕組みができ上がっているのです。

ほとんどの税理士は相続税の素人

税務の世界は、どうでしょうか。
 医療がたくさんの診療科に分かれているように、税務にも各税金ごとに深い専門性があります。意外に思われるかもしれませんが、相続税も、税理士にとってかなり特殊で専門性の高い税法なのです。
 第一に、税理士試験の相続税法は選択科目なので、相続税をまったく勉強しなくても税理士になることができます。
 第二に、税理士のニーズの大部分は法人税や所得税がほとんどです。決算申告を行うべき法人数は膨大にありますが、相続税を払わなければいけない人は全国でも一握りです。
 このため、一般的な税理士の仕事はほぼ100%が決算書・申告書の作成になります。一方で、相続税の申告業務はたまにクライアント企業の経営者で発生する程度、依頼は年に一回あるかないかでしょう。
 したがって、一般的な税理士は相続税の素人で、提供されるサービスもその程度というのが実態なのです。
 他方で、相続税を専門にやっている特殊な会計事務所もあります。そこでは一人の税理士が年に何十件も相続税案件をかかえ、こなしています。本当の専門家としてのサービスを提供しているはずです。
 しかし、多くの相続税納税者は、自分の会社の顧問税理士か知り合いの税理士に重要な相続税申告の代行業務を依頼してしまうのです。



土地評価額だけで納税額に大差が

顧問先企業の経営者に相続税案件が発生したとき、会計事務所は相続税の専門家に紹介状を書いて申告業務をバトンタッチするでしょうか。そんなことはしません。素人同然でもなんとかやってしまう税理士がほとんどです。病院で言えば、ガンを発見したかかりつけ医が手術までやってしまうのと同じことです。
 その結果は明白です。納税額は必要以上に多くなり、依頼者の大切な財産を無駄に失わせてしまうのです。
 こうなってしまう最大の理由が、税理士にはきちんとした財産評価ができない、という点にあります。
 相続税は申告制です。相続する財産をすべてお金に換算し、自分で申告するのです。土地があれば、それは現在いくらになるのかを計算し、だから納税額はこうなりますと申告するわけです。
 土地の評価額は国の決めた路線価が基準になりますが、実際のマーケットでは路線価どおりに取引されているわけではありません。土地評価でも、その土地の形、大きさ、道路との接し方、段差等々さまざまな条件によって、土地の値段が計算されなければいけません。
 したがって、土地評価額は机上でささっと計算して出せるものではありません。現地をしっかり吟味し、あらゆる面から「いかに安く評価できるか」が考えられます。それを行うのが相続税の専門家なのです。そのための特殊な法律の知識、そして経験も重要です。
 そうしたことを、顧問先企業の法人税や所得税の税務ばかり毎日やっている税理士に求めること自体に無理があります。
 結果として、厳密に評価すれば1億円にしかならない土地が「2億円」と申告され、納税者は多額の「よけいな相続税」を払ってしまう。そういったことが非常に多いのです。

相続税は「納税しすぎ」が多い

不当に多すぎる納税額を申告書に書いて提出しても、税務署はそれを否定することはありません。税務署が間違いとして指摘するのは「納税額が少ない」ときだけです。
 相続税に慣れない税理士は、へたに納税額を低く押さえようと頑張ると税務署から突っ込まれます。それに苦労して対処するより、税務署が難なく受理してくれる申告書を作成したほうが楽です。たとえ納税者の払う税金が多くなっても、です。
 納税者は「税理士は専門家」と思っていますが、実態は大きな損をさせられているケースが多いのです。それを税務署は指摘してくれません。税理士は納税者から感謝されるし税務署から文句も言われないし報酬もきちんともらえるので、この問題はなかなか解決しないのです。  納税者が賢くならないと相続税で損をしてしまうということは、残念ながらとても多いのです。

税務総合戦略室のきっかけ

4年前、当社は『税務総合戦略室』という部署を設置しました。13名のスタッフはすべて国税局の退職者で、それぞれ相続税、法人税、国際税務等の専門分野で数十年にわたり研鑽を重ねた専門家ばかりの集団です。
 設置のきっかけは、5年ほど前に当社に入った税務調査でした。
 税務調査では、私のほかに当社に勤務していた国税局OBのスタッフが立ち会いました。彼は当社に最初に入ってきた国税局OBのスタッフで、当時は一般的な帳簿チェックの仕事をさせておりました。
 ところが、税務調査での彼を見て私は驚きました。調査官との会話、立ち居振る舞いなど、何をとっても素晴らしいのです。
 私も税理士ですから、お客様の税務調査には何度も立ち会っています。100回はくだらないでしょう。その私と比較すると、幼稚園児と大学生くらいに違うのです。私は医療で言えば「かかりつけ医」ですから、仕方ないかもしれませんが、私のお客様にとっては、時にこのような深い専門性(知識や経験)を持ったスタッフによるサービスが不可欠になるのではないか。彼らは、われわれ一般の税理士が思いもよらない解決策を持っているのではないか。それなら私は、その専門性をお客様に紹介し、提供しなければならない。そう考え、私は税務総合戦略室をつくったのです。
 現在では、日本全国からたくさんの経営者が当社の税務総合戦略室に相談にみえています。

納税者の立場に立てるのか

国税局を退職された人を採用するときは、社長の私が必ず面接をします。絶対に確認しておかなければならないことがあるからです。
 国税局というのは、言うまでもなく税金を徴収する側です。当社のお客様は、逆に税金を納める側です。
 税制というのは法律で細かく定められたものですが、じつは現実では白とも黒とも言えないグレーゾーンがたくさんあります。税金を徴収する側はそれをできるだけ黒に近く考えようとするのが仕事、逆に私どもはできるかぎり白に近く考えるのが仕事です。
 長年勤めた国税局を退職した人がいくら有能でも、この意識転換がしっかりできないと採用できません。それまでの常識をくつがえして、あくまでお客様の立場に立てるか、お客様を守れるか、です。
 これは、じつは一般的な税理士にもいえることです。私がいわき市で税理士の仕事をしていたころ、年に数回は税務署幹部と税理士の懇親会がありました。地方へ行くほど、両者のつながりは濃くなる傾向があります。
 この両者が「なあなあの関係」になって損をするのは、納税者だけです。たとえば税務調査のとき、調査官が顔なじみなら、顧客のために真っ向から対決し、断固としてこちらの主張を通すといった強い意識は、はたらきにくくなると思います。
 これには、制度的な問題があります。税理士は、国税庁の監理監督下にあるのです。何かあれば国税庁から処罰があり、税理士資格の剥奪もあるわけです。税理士は決して独立した存在ではなく、うがった見方をすれば国税庁の「御用聞き」といわれても仕方ない立場にあります。
 納税者はそんな環境のなかで税理士に依頼しているのだ、ということを理解すべきです。

納税者は賢くならねばならない

医療の世界では、迅速に患者さんが的確な専門家にバトンタッチされる仕組みができています。しかし、それでも、すべてを医者任せではいけない、セカンドオピニオンを得、自分でも情報を集めて、自分にとって最適な医療を求めるべき、といわれています。
 税務の世界では、さらに納税者は賢くならなければいけないと言えるでしょう。相続税の申告に際しても、自分の財産は自分で守るという意識がなければ確実に財産は目減りしてしまうのです。納税者は、相続税には詳しくないのが当然ですが、だからといって身近な税理士に丸投げはいけません。的確な専門家を見つけることが大切です。
 相続税だけではありません。問題ごとに専門家は異なりますから手間はかかりますが、その努力をすることが自分の大事な財産や企業を守ることにつながるのです。
 当社の税務戦略室には、北海道や沖縄など遠方からのお客様も少なくありません。みなさんご自身の顧問税理士をお持ちですが、真剣に、熱心に、個々の問題のよりよい解決法を求めて相談に来られます。
 余分な税金を払わないということに一生懸命な経営者は、それだけ本業にも一生懸命です。だから事業も成功しています。そういう経営者だからこそ、専門家選びも熱心になることができるのだと私は思います。
 納税者は自分自身の財産を守るために、賢くならなければいけません。そして税理士というのは、かかりつけ医が患者を守るように、納税者を守るべき存在だと思うのです。

税務総合戦略室便り 第63号(2015年02月01日発行分)に掲載

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